第18話 まさかの展開

 いつものように、蒼汰とくだらない話をしながら学校の中庭で昼食を取っていた。

 ここは俺たちの「現実世界のスペース」みたいな場所だ。

 特に予定がない日は、こうして二人で適当に話しながら過ごすのが日課になっている。


 蒼汰がパンの袋を広げながら、ふと口を開いた。


「でさ、昨日の配信、また出たんだろ?」

「まぁな」


 俺は頷きながら、持ってきた弁当の蓋を開ける。

 昨日のことを思い出すと、なんとなく苦笑いが漏れた。


 配信そのものはドタバタだったけど、視聴者には意外とウケが良かったらしい。

 ルナのあのテンションにも振り回されたが、終わってみれば悪くなかった気もする。


 蒼汰はニヤニヤしながら俺を見ている。


「お前、結構ハマってるよな。あのVTuberのやつに」

「いや、別にハマってるわけじゃないけどさ……」

「じゃあやっぱ可愛いの?」

「ば、バカ野郎、そんな風に別にみてねえよ!」


 ちょっと反応が過剰すぎたのか、蒼汰はニヤついている。


 ふと、俺は昨日の配信の光景が頭をよぎる。

 確かに、ルナの企画にはかなり振り回されたけど、あの熱意には心を動かされる部分があったのだ。


「だってさ、ルナ、すごい準備してたんだぜ。台本も一応用意してたみたいだし、どうやって盛り上げるかめっちゃ考えてたっぽいしさ」


 ルナの気合の入れようを事細かに説明する。

 急に呼ばれたのも、その熱量を冷まさないようにしたかったからかもしれないと、語りながら俺は実感していた。


「へぇ~、燿ってやっぱそういうのに弱いよな」


 蒼汰が何かを噛み砕きながら、薄ら笑いを浮かべて言う。


「どういうところだよ」

「頑張ってる人を見ると、助けようとするクセがあるとこ。」


 蒼汰はさらっと言い切る。

 その言葉に、一瞬言葉を詰まらせた。


「いや、俺は別に……」

「だってそうじゃん、高校の時の文化祭なんか劇の準備がヤベーってなった時、お前は急に一人三役やるからお前は二役やれ! とか言いだしたりさ」

「あれは悪かったよ……高校最後の文化祭は皆大事だと思ったから……」

「それに今年の学祭、ゼミの模擬店で仕入れ業者とのトラブルでヤバくなったからって、無免許なのに急にレンタカー借りて今から業スー行くぞ! とか言い出したりさ」

「あぁ……お前が免許持ってる奴で良かった……ってそんな話今するなよ!?」


 蒼汰は昔話を楽しんでいるようだが、俺は少し恥ずかしかった。


「……なんていうか、ほっとけなかっただけだよ。困ってるのが見えたら、手を貸すだろ、普通」

「はは、普通かどうかは置いといてさ」


 蒼汰は肩をすくめながら続ける。


「お前、あの配信の中でも必死だったもんな。迷路とかクイズとか、全力でやってたじゃん。正直、笑いながら見てたけどさ、ちょっと感心したわ」

「感心するなよ」


 俺は呆れたように返しながらも、蒼汰の言葉に少しだけくすぐったい気持ちになる。

 そういう風に見えてたんだな、と。確かに昨日の配信中、俺は何だかんだで夢中になっていた。

 それが楽しかったかと言われれば、正直なところ、少し楽しい気持ちもあったのだ。


「まぁ、人によっちゃ燿は巻き込まれてるって思う奴もいそうだよな。」


 蒼汰がふいに呟いた。

 その言葉に、俺は少し引っかかるものを感じた。巻き込まれてる……か。

 自分ではそう思っていないけど、他人から見たらそう見えるのかもしれない。


 その時だった。ふいに声が飛んできた。


「燿くん、話があるんだけど……!」


 振り返ると、ユメちゃんが立っていた。

 いつも通り、彼女らしい控えめな雰囲気を漂わせながらも、今日は何だか息を切らしている。


「ユメちゃん、どうした? 一緒に昼食?」

「それもそうだけど……今日は違うの」


 蒼汰が先に声をかける。

 いつもなら「うん」と言って自然に話に混ざる彼女だけど、今日は様子が違った。

 彼女はその場で小さく息を整えると、俺を真っ直ぐ見た。


「——燿くん! こんなこと、もうやめて!」

「えっ?」


 突然の剣幕に、俺も蒼汰も目を丸くした。

 これが波乱の幕開けになるとは、誰が予想していただろうか——。


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