1-6

喋った事もないクラスメイトたちや、他のクラスの生徒がさっきの廊下での事を噂してる。


「ヨースケが告ったってぇ!?」

「そうそうあの女」

「暗~い。ちょっと美人だからって偉そうだし」

「ねぇーどこが良かったんだろね」

「どうせすぐ飽きるんじゃない?」

「それもそうね。どうせ顔だけの女だしね」


聞こえるような大声で悪口を言う女の子たち。

学年でも派手めな女の子。

いつもヨースケが一緒にいたからこんな事にはならなかったけど。


ヨースケのファン多いんだ。

かっこいいもんね。犬っぽくて可愛いところもあるし。


……どうしよ。


このぎゃんぎゃんうるさい野良犬たちじゃなくて、あの人懐っこいヨースケ。


どうしたらいいか分かんない。

好きかって聞かれたら好きだと思う。


でも、そういう意味の好きかって聞かれると正直違う、かな。まだ分かんない。

だって出会ってまだ3日くらいしか経ってないのに。

付き合った事なんてないし。

好きっていう感情は分かるけど、ヨースケがそうかと言われると……。


うーん。

女生徒たちの声がうるさくて机に突っ伏していると、急に彼女たちの声がやんだ。

ちょっとビックリして顔をあげると、ヨースケが戻ってきたみたいだった。


(猫かぶりめ。チクッてやってもいいんだからな。悪口くらい別にいいけど)


ちょっと困った顔をして帰ってきたヨースケは私の顔を見ずに隣の席についた。


「おかえり」


私がそう言うと、パッと顔をこっちに向けて嬉しいような困ったような顔をした。


「……ただいま。あのユリユリ、さっきは……」

「あのさっ、ヨースケ! もうちょっと今のままの関係でいてくれない?」


ヨースケの声を遮って、続けた。

ヨースケが私に謝ろうとしているのは分かったけど、ヨースケは何も悪い事してないのに、謝らせたらかわいそうだと思った。


「……ほんとに? 今まで通り仲良くしてくれんの? ユリユリ~」

「うん」

「ユリユリ~! 愛してるよ~どうしよ~俺もう絶対口聞いてくれないと思った。先走りすぎて嫌われただろうと思ったのにぃ」


またあのゆるーい感じが復活して、なんかそれがすごい嬉しく思った。

泣きまねするヨースケに「飴ちょうだい」って言うと何味がいいか聞かれた。


「何味があるの?」

「んーとね、今持ってるのはバナナミルクとストロベリークリームとキャラメルとチョコバニラとプリンとバニラ」

「なんでそんな甘い系しかないのよ」

「えぇ~それは俺が好きだからだよ~。あっ、でもねでもね、ユリユリストロベリー好きだからこのストロベリークリームを授けよう! これまじでおすすめ~包装も可愛いしね~普通のストロベリーよりちょっと甘いの」


延々としゃべり続けるヨースケを尻目に、ストロベリークリームをガリガリと噛んであっという間に食べてしまった。


白い棒だけを口から出した私に、ヨースケが目をおっきく見開いた。


「はっ! ユリユリ~…もお~飴は噛んだらだめだよ~欲求不満なのぉ? せっかちなの~? だめだよ、もったいないよ~」


多分これ、ヨースケなりに怒ってる。

飴噛むのは、ヨースケにとって怒りのポイントらしい。

でも、何だかんだ言って新しいキャラメル味をまた渡してくれるヨースケは優しい。


「……ありがと」

「いいよ~」


ヨースケが笑ってくれた。

ちょっと嬉しくなった。


ヨースケは学校で初めてできた友達。

これからも仲良くしていけたらいいと思う。

前のところではそんな事さえままならなかった。


こんな普通なことがこんなにも嬉しい。

思わず視界がぼやけそうになって慌ててまばたきをした。

このまま穏やかに、新しい場所で新しい人生が送れたらいいと思う。


―――あれから何日か経った学校。


ヨースケと一緒に宿題を解いてると、


「ヨーちゃぁーん!!」


よーちゃん? ペットのオウムかなにかか?


「おぉ~みゆき」


みゆき? 女か? 女なのか?


ヨースケがそう返事すると、教室の入り口で立っている可愛らしい女の子のとこに行ってしまった。


ちっさい。

私160あるけど、多分あの子は150くらいしかない。


髪も黒髪ストレートのお洒落もなにもない私と違って、ハニーブラウンのふわふわパーマ。


だめだ、私。何比べてるだろう。

だって、あんなにもヨースケが優しそうな顔であの子見るから。

私にはあんな顔しない。


ヘラヘラ笑ってるだけなのに。

あんな……大事なものを見る目で見るんだね。


今まで入学してからずっと私と一緒にいたから、他の女の子にどう接するのか知んないけど、それでも挨拶くらいしてくる子はたくさんいた。


ヨースケの中学からはたくさんの子がこの高校に来てるみたいで。

いつもおはようって声かけられても、おぉとかはよ~とか若干低血圧気味の挨拶しなかったのに。


へえ。

頭も撫でて、食べかけのチュッパチャップス女の子の口に突っ込んだりしてるヨースケを横目で見る。


誰でもいいんじゃん。

てかそっちの子の方が仲いいのか。


なぜかイライラしながらヨースケを見ていると、ヨースケが話し終えたのか私の方をチラッと見ると、へラッと笑って戻ってきた。


「さっきの誰?」

「あぁ~みゆきは幼なじみだよ~」

「幼なじみ? 仲いいの?」

「うん。同い年だけど妹みたいなもんかも~可愛いでしょ~」

「……妹。でも向こうはそういう感じでもなかった気がする」


「え? どういう意味~? もしかしてヤキモチってやつ? ユリユリ可愛い~可愛すぎて俺死んじゃう~大丈夫だよ~俺はユリユリだけだよん」


さっきのあの子、帰り際すっごい目で私睨んでた。

あれはお兄ちゃんとられてむかつく~とかそういう感情じゃない。


ヨースケの事見る目が、明らかに恋する女の子の目だった。

同い年で妹もなにもない。

ヨースケ、自分の事には鈍いっぽいし全然気付いてないんだろな。

あの子もちょっと不憫かも。


睨まれたのは気に入らない。

けど最近じゃあの廊下告白事件の噂が拡大して、三島と柾木が付き合ってるとか教室でキスしてたとか学校中に流れてる。


この辺ではヨースケもそこそこ名が知れてるらしく、噂になるのもあっという間だった。

真吾の耳にも入っているんだろうか。

別にいいんだけど、どう思ってるんだろう。


居場所できて良かったなとかのんきに考えてるんだろうか。

どうしてかあの日から真吾の言葉が気になって仕方ない。


でも、今日も真吾たちは来てないみたいだった。

会いたいって思うのはなんでだろう。


教室のみんなの会話に耳を傾けてみると、大半は真吾たちの噂話をしてる事が多い。

この学校には真吾たちに憧れて入る人も少なくないみたいだった。


「真吾先輩、昨日クラブにいたよ」

「あの三人ってみんな彼女いないってほんと?」

「学校早く来ないかなぁ」

「銀竜ってどうやったら入れるんだろな」


情報もたくさん入ってきたけど、みんな人づてに聞いた話や、銀竜へのあこがれ。

そんなものばっかりで、みんな実際真吾の事は何も分からないまま。


謎の男。

あの男を知りたいと思った自分にびっくりした。

あの男は優しいのか怖いのか、

何を考えてるのかよく分からない男だ。

でも知りたいと思った。



その日の昼休み。

いきなり教室中がざわめきだした。


「あの三人が学校に来てる!」

「まじで!?」


みんな教室の窓から見える正門の方を乗り出して見ている。


「おっ、真吾さんたち来たんだ~珍しい~ナオナオに貸したモンハン返してくれるかなぁ~。あっ、モンハンはゲームの事ね」


ヨースケがまた一人爆裂トーク中。

教室中の女子だけじゃなく男子もきゃーきゃーと騒ぎ出す。


そんなに有名なのか、あの人たちは。

確かに普通じゃないけど。

あと二人の事は全然知らないけど、

「ナオさま~」や「ソージさ~ん」

などきゃーきゃーと歓声も上がっている。

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