1-5
「ねぇ、これに私連れてきてなにか意味あるの?」
ずっと気になってた。
多分、この人は始業式の時から私に腹を立ててたに違いない。
なのに、自分の横に座らせて、どういう理由でそんな事になってるんだろう。
女の子なんて私の他に一人もいないのに。
「お前なんかあったのか」
……は?
意味が分からなくて眉をひそめる。
「なんかあったって高校入ってからはあんたたちに巻き込まれる以上のハプニングはないわよ」
「いやそういう事じゃねぇ。まあいい。なんかおまえ昔の俺に似てるんだよ」
はぁぁぁぁぁ!!!????
「私がなんでそんな目つき悪いあんたと似てなきゃなんないのよ」
「はは、礼儀なってねぇなぁ。そういう事言ってんじゃねぇ。お前、絶望した目してる。自分を全く大事にしてねぇ」
「…………」
なによ。
分かったような口聞いちゃって。
そんな事言われたってどうしろっていうのよ。
それに、そんな理由で私はこの恐ろしい集団に連れてこられたわけ!?
何も喋らない私をチラッと横目で見てくる。
「おまえ、なにか大事なもん作れ。ヨースケでもいいし。学校でも、銀竜に入りたかったら銀竜でもいい。居場所作れ」
どういう意味よ。
居場所なんて…。
そんなの今更言われたって。
「居場所ぐらいあるわよ。銀竜みたいな野蛮なとこ入るわけないじゃない」
私がこんなに喧嘩を売ってるのに、この人はただ冷静な顔で前を向いている。
私がいくら噛みつこうがどうってことないみたいに。
私の最初の質問にこの人ちゃんと答えてないなと気づいた。
「ならいい。もし居場所が無くなったら、いつでも俺に言ってこい」
「真吾に?」
私が呼び捨てしたせいかギロッと睨んでくる真吾……さま。
「大声で俺を呼べ。助けてやる」
「は?わけわかんないから」
「今説明してもどうせ分かんねぇ」
何だこいつ!
そんな都合のいいセリフに惑わされたりしないもんね。
馬鹿みたい。
かっこつけちゃって。
総長のくせに普通の服着てるし。
レザージャケットにジーンズはいて、お洒落な皮靴履いて。
なんだか今日の私のファッションと同じみたいで恥ずかしい。
身長が百八十くらいあるこの男の威圧感なんて半端じゃないのに、それ以上の居心地の良さがあるっていうか。
何にも期待したらだめなのに。
いつかどうせ裏切られるに決まってんのに。
「……まさかそれだけ言うために私ここに呼んだの?」
「ああ」
「偽善者だね。ボランティアのつもり?」
「お前、殺されてぇのか」
それからお互い一言も喋らないまま、あのたまり場に戻ってきた。
真吾に続いてゲーセンの中に入ると、ヨースケが先にいて冷蔵庫から出してきたコーヒーを飲んでいた。
「あっユリユリおかえり~ベンちゃんの乗り心地はどうだった? 俺もいつか車に乗りたいなぁ~てか今からナオナオとご飯行こっかなって思ってるんだけどユリユリも一緒に行く? 俺的にはね~オムライスもいいな~あとは寿司もいいな~ユリユリは?」
ヨースケの爆裂トークにももう慣れた。
質問してるつもりで全然人の返事聞いてないとことか。
色んなものにいっぱいあだ名つけてることとか。
「私行かないよ、帰るわ。なんか眠たいし。」
本当に眠たい。
あんまり寝てない。
ちょっとビクビクしてて寝れなかったなんて言えないけど。
「えぇ~~!? ユリユリがいないと楽しくないのに~ナオナオ可愛いけど女の子じゃないしなぁ~でも眠いなら仕方ないかぁ~送っていくよ」
ヨースケがガックリ気味で私の肩を組んでいる。
ボディタッチの自然な男だ、こいつは。
真吾に一応挨拶して帰るか。
奥のテーブルを見ると、三人揃ってこっちを見ていた。
「真吾、帰るね」
「ああ、いつでも来い」
真吾はそう言うと私から視線を逸らして、まだバイク雑誌を広げた。
私はぼーっと立っているヨースケの手を引っ張って、ゲーセンの外に出た。
すると、いきなりヨースケが私の肩を両手で掴んで、揺さぶられた。
「ユリユリ! いつでも来いってどういう事!? もっ…もしかして銀竜入ったとか? しかもあの真吾さんの優しい感じなんだぁ!? あんな真吾さん見た事ない!」
いつも緩~い感じのヨースケなのに、なんか切羽詰まってる。
ちょっと面白い。
「入りたかったら入っていいって言われただけよ。こんな怖いとこ入るわけないじゃない」
ヨースケは大きな目をさらに見開き、少し頬を赤らめた。
「銀竜は女の子なんて入れないんだよ。三代目の時に異例で総長の彼女が入ってたらしいけど。この敷地も禁止ってわけじゃないんだけど、みんな女の子連れてくる事なんてほとんどないし、もちろん真吾さん連れてきた女の子だっていないよ」
「ふーん。じゃあ冗談で言ったんじゃない?」
「まさか! 真吾さんは冗談を言うタイプじゃないよ~まぁ俺はユリユリが入ってくれたらすっごい嬉しいけどねっ!!」
そうニコニコ笑っていいながら、大きく星の書かれてる半ヘルのヘルメットをかぶせてくれて、バイクで家まで送ってくれた。
「じゃあ俺また戻るな~ナオナオが待ってるだろうし。明後日学校で会おうね~今日は来てくれてありがと~」
「うん送ってくれてありがとね。また学校でね」
そう言って、マンションの階段を登ろうとした私に、苺味のチュッパチャップスをくれてバイクで去って行った。
ヨースケとナオが仲いいんだ。
意外。あいつかなり性格悪そうだったのに。
ヨースケ人畜無害だから、気許してんのかな。
今日はなんか変な日だったなぁ。
真吾もいまいち掴みきれない性格してるし。
でも貞操に関わる事じゃなくて良かった。
いや、まじでこれちょっと不安だったし。
眠い。眠すぎる。
ヨースケにチュッパチャップス何味があるのか月曜聞かなくちゃ。
そんな事を思いながら、眠りについた。
――月曜日学校に着くと、ヨースケと靴箱で偶然会って、教室に一緒に向かった。
一年の教室の廊下を歩いていると、
「おーい柾木ー! おっはー」
「おお。はよ」
ヨースケ低血圧なの!?
さっきまで普通だったのに…。
それとも、この男の事あんま好きじゃないのか?
「柾木~おっやっとこのすっげー美人紹介してくれる気になったのか!? 君名前なんてゆーの? ほんっとに可愛いねー」
なにこの男。軽すぎる。うざい。
まず、自分の名前も名乗らないで失礼。
「あんたっ…」
「黙れ。お前には紹介しねーよ。ユリユリ行こ」
私の言葉を遮って、言葉を零したヨースケは、私の肩を組んで足早に教室に向かうヨースケ。
「…ヨッ、ヨースケ?」
「ん?」
「なんか…どうしたの?怒ってんの?」
「なんで?」
「なんでってさっき、いつもと違ったから」
「ああ~怒ってるよあいつに」
「なんで怒るのよ」
「分かんないの? ユリユリ鈍くない?」
「えっ? どういう意味? はっきり言いなさいよ」
ヨースケが教室に入る一歩手前で、私の肩を掴んだ。
「ユリユリが好きだからに決まってんじゃん。だからあいつにムカついたんだよ」
……は?
お……っと、意識飛びかけた。
ヨースケったらHAHAHA!!!
いつものゆるーい感じどこに行っちゃったのよ。
なんかヨースケじゃないみたいじゃん。
「……ほんとに?」
「うん」
「まだ出会ってちょっとしか経ってない」
「分かってる」
「じゃあなんで?」
「一目ぼれ?」
「うそ」
「冗談だって言ったら?」
「……え? もうビックリさせない「嘘じゃないよ」
「…………」
「教室入ろっか」
「…うん」
教室に入って席に着くと、ヨースケはすぐどっかに行っちゃって一人になった。
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