1-4
土曜日の夕方になって、真剣にどうしようか部屋の中をうろうろと旋回した。
行く事は決定している。
ヨースケが今日の十八時に家まで迎えに来るって言ってたし。
私が悩んでるのは、服をどうしようかって事だ。
もちろん服ぐらいある。
いっぱいあるわけじゃないけれど……。
そういうたまり場に行くのに、ワンピースなんてふざけたカッコしていってなめられたりしないだろうか。
とか、バイク乗るんだったら、スカート系はダメなんじゃないかとか。
制服もちょっと考えたけど、土曜なのにねぇ……。
こいつ休みの日でも制服着んのかよって思われてもちょっと嫌だし。
そんなわけでウロウロと部屋を歩き回っていた。
さんざん迷ったあげく、ライダースジャケットに細身のジーパンにスニーカーっていう何の可愛げもないカッコをチョイスしてしまった。
考えすぎてどうでもいいやって気持ちが百%になった。
ちょうど迎えに来たヨースケのバイクの後ろに乗って、溜まり場ってとこに着いた。
多分バイクで十分くらい。
そこで見た光景に今すぐ帰りたいって思った。
見渡す限りのバイクにヤン車。中には、外車まであってその奥には一軒の潰れたゲームセンターがあった。
でも中からは光が洩れていて、多分怖い人たちがいるに違いない。
外には、バイクや車でブンブン走り回ったり、バイクのエンジンやマフラーをいじってたり、バスケしてたり、座り込んで談笑する人たちもいる。
見渡す限り全員男。
それも何十人ってもんじゃない。
視界に収まりきらない広大なコンクリートには、きっと百人はいるだろう。
見た目怖いのなんのって。
制服の人もたくさんいれば、作業服の人や、特攻服みたいな人まで色々。
リーゼント、金髪、坊主、剃り込み、色んな髪型がいるのに、銀竜連合って言う割には、総長のあいつみたいな銀髪は誰もいなかった。
てっきり、銀竜連合っていうからみんな銀髪のやつ多いかと思ったのに。
ヨースケが人のいるところをバイクで避けながら走り、ゲーセンの建物の真ん前にバイクを止めた。
その長い道で色んな奴にじろじろと見られたけど、仕方ない。
多分女は私一人に違いないから。
ヨースケがエンジンを切って私にかぶせていたヘルメットを外してくれる。
「とうちゃ~く! ユリユリ後ろに乗ってたから緊張しちゃったよ~超安全運転しちゃったし! それにしても、私服のユリユリも可愛い~みんなユリユリが可愛すぎて見ちゃってるよ~やだやだ野蛮な人たちは。早く中に入ろっ! ねっ」
またベラベラ喋るヨースケに引っ張られてゲーセンの中に入っていく。
……ゲーセンじゃなかった。
ビリヤード台や麻雀台、ダーツは何とかゲーセンと言えるだろう。
その奥には、大型冷蔵庫にバーカウンター、テーブルとソファーが何個か並んでいる。
大きめのテレビもあってその下には、ゲーム機まで揃っていた。
完全にゲーセンではないな、これは。まさしく溜まり場というのが正しいだろう。
不法侵入じゃないのか、これは。
一番奥のテーブルにあの三人がいた。
「おはようございまっす~」
そう言いながらそのテーブルまで、私の手をひき歩くヨースケ。
ヨースケに気付いて三人がこっちを向く。
「おはよう」
と緩い返事を返す側近二人。
そういやこの人たちの名前も何もヨースケに聞いてないや。
「女なんか別に来なくていいのに」
小型のゲーム機をピコピコしながら、見た目と違って憎たらしい口を叩くクマ。
「そんな事言わないの、君、名前なんて言うの?」
そう優しく声をかけてくれる、見た目通りの黒縁めがね。
「三島百合香……です」
ここは敬語よね?
多分この人たち先輩だし。
「ふんっ。しょーもねー名前」
何こいつーーー!!!!!
クマのくせに! チビのくせに!!! 憎たらしー!!
「百合香ちゃんね。俺は、
ソージにナオにシンゴね。
教えてくれて良かった。
真吾の名前もあっけなく忘れてしまってたし。
「…うん覚えた!」
「んで百合香ちゃんはもしかしてヨースケの彼女なの?」
ソージ、まさかのびっくり発言!!!
「いやー俺は別にそれでも全然いいんすけどね~まぁこれからに期待してくださいよ~」
「そう。ヨースケの片思いなんだね。何となくだけどライバルが増えそうな気がするよヨースケ」
「まじっすかぁ!? 俺困ります~」
ソウジとヨースケで勝手に話が繰り広げられてる。
それはいいけど、ナオは相変わらずゲームに夢中だし。
うん。
うん。
もうね、帰りたい。
一番の理由は川崎真吾が恐ろしいほど睨んでくることだ。
(なんでこんなに睨んでんの!? さっきまで雑誌読んでたじゃん! 今も読んでればいいじゃん! 何で、わざわざテーブルにおいて私睨んでんの!?
「……なに?」
思わず聞いちゃった。
もうここまできたら怖いものなんてないわ。
「お前、今日は時間大丈夫なのか?」
……へ?
えっと……。
「……大丈夫」
「そうか。じゃあ行くか。ソージ用意させろ」
「了解」
そう言ってソージさんは携帯で電話を誰かにかけている。
「用意できたみたい」
数分後そう言って戻ってきたソージさんの言葉にみんなが立ち上がり、入口の方に歩きだす。
私は相変わらずヨースケに手を掴まれたまま、引っ張られる。
外に着くと、ベンツが横づけされていて、それの後部座席のドアを知らない男が開けて待っている。
真吾は黙って乗り込むと、ヨースケの後ろにいる私を目でとらえた。
「早く乗れ」
そう言われると同時に、ヨースケに手を離される。
ヨースケや側近二人も一緒に乗り込むのかと思ったら、ヨースケとナオはそれぞれ自分のバイクに、ソージは違う車に乗ってしまった。
もしかしてこの車、運転手と私と真吾だけ!!!?
明らかに高級車なこの車。
よく知らない洋楽が流れ、見た事もない怖めの運転手が車を出した。
チラッと横目で真吾を見ると、足を大きく広げ、ただ前を見て座っている。
それだけで威圧感は尋常じゃなく、ちょっと前をバイクで走ってるヨースケの後ろに心底乗りたいと思った。
いつの間にか国道に出ていたこの群れは、このベンツを覆うように前後左右にバイクが並び、その少し後ろにソージの乗ってる高級車もいる。
前方には何台か車高の低い車も走っていて、ヨースケは私の車の近くをたまに走りに来る。
この車は静かだけど、外は色んなバイクのマフラーの音で騒音騒ぎってもんじゃなかった。
遠くでパトカーの音も聞こえるし、近くのマンションのベランダから覗いてる人もたくさんいた。
私こんな犯罪チックな事関わりたくないのに。
「煙草吸ってもいいのか」
真吾がこっちを向いて煙草の箱をちらつかす。
「……だめ」
「なんでだ」
「嫌なの。もし吸うなら今すぐ車から降りる」
「理由は?」
「あるけど言いたくない」
「あの日、無視した理由は煙草か?」
「……そうかもね」
「そうか」
そう言うと、真吾は煙草をポケットにしまってまた前を見た。
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