1-3
……でも、でも。
正直隣の2人は今、目に入らない。
なぜかっていうと。
……あの銀メッシュに相当睨まれてる!!
前に出たヨースケじゃなく…私を!!!!!
怖い!!怖いよ!!
もしや通行の邪魔で睨まれてる?
すぐにどきます!どきますから!
銀メッシュの視線にみんな気付いたのか、ヨースケと側近二人は銀メッシュと私を交互に見る。
どれだけ時間がたったのか分からないくらい長く感じたけど、きっと十秒も経ってなかったにちがいない。
過酷な沈黙は銀メッシュによって、断たれた。
「お前、なんでさっき無視した」
(そう来た!? 根に持つタイプなのね!)
どうする?
これだけ周りが注目している中で、私、どうしたらいい?
「えーっと、……しいて言うならその目つきのせい? 怖いし……なんちゃって」
「ああ!?」
やばいやばいやばいやばいやばい。
冗談言うとこじゃなかった!
しかも、この人絶対冗談通じないタイプだ。
やられる。にらみ殺される。
案の定、銀メッシュは私を睨み続け、チラッとヨースケに視線を向けた。
「ヨースケ。こいつ誰だ?」
ヨースケは私をチラッとばつの悪そうな目で見たかと思うと、銀メッシュに向きなおった。
「真吾さん。この子なんかしましたか?悪い子じゃないんで、許してあげてください」
そう言って、頭を下げるヨースケを見て、申し訳ない気持ちになったのと、銀メッシュに腹立たしい気持ちがこみあげてきた。
「ヨースケ謝らなくていいよ。私別に悪い事なんてしてないし。誰だか知んないけど威張りくさって」
ヨースケがガバッと顔を上げて、この世の終わりみたいな顔をした。
隣の黒縁めがねは、「ははっ」と笑っちゃうし、クマを付けている可愛い人は、あちゃーって顔でこっちを見た。
(何様のつもりなのよ。ほんと。私と同じただの高校生のくせに!)
「ユリユリ~…真吾さんは、この辺一帯を取り仕切る暴走族、銀竜連合の七代目総長なんだよ。知らなかったの?」
銀竜連合? 七代目……総長。
おーけーおーけー。
なんかすごいやばい奴なのは分かった。
野次馬してる生徒たちも蒼白な顔でこっち見てるし。
そんなに一般常識レベルの知名度なわけ?
「知らない銀竜連合なんて。しかも暴走族なんて一昔前のものだと思ってたし」
分かってる。
明らかに空気読んでない発言だってことくらい。
ヨースケに迷惑かけたくない気持ちもある。
けど、俺様すぎるあいつが何か無性に腹立つのよ。
内心はすごくビビってるけどね。
何かもう目立たない高校生活は無理そうだし、どうとでもなったらいい。
手は汗ばんでるし、片手はヨースケのブレザーの裾つかんじゃってるけど。
「上等だ、お前。ヨースケ。今度土曜にそいつ溜まり場に連れてこい」
「……やられちゃうんすか?」
(何よっやられちゃうって何よっ!)
もしかして、貞操にかかわる系?
それはすっごく困る!!!
今ならごめんなさいですむ?
それとも殺られちゃうという漢字変換?
どちらにしてもすごく困るので、ダメ元で、ごめんなさいって言ってみる?
「いや、走りに連れてく」
走り?
何ですかそれは?
陸上系じゃないことは私にも十分分かる。
周りの反応を見ても、黒縁めがねがやれやれって顔をしてる以外は、あとは唖然としている。
やばい事には違いないらしい。
「私行かないから」
「来なかったら次の日には住む家がないと思え」
「……行きます」
って言うしかないじゃん!!!!
満足したように銀メッシュが去ったあと、ヨースケに肩を組まれたまま、学校の門を出た。
「ユリユリ!!何であんなこと言っちゃったんだよ~真吾さんマジで怖いんだよ~?ユリユリこの辺の人じゃないの?」
「うん最近引っ越してきた」
「ああーそか。この辺の人で、黒竜会と銀竜連合知らない人はいないからね。覚えといた方がいいよ。ってもう遅いけどね…」
がっくりと首を落としたヨースケ。
「そもそも黒竜会? とか銀竜連合って何?」
「銀竜連合はさっきも言った通り、暴走族。バイクとかでぶんぶんするイメージでだいたい合ってるよ。そこの総長があの真吾さん」
「ふーんすごい奴なんだ」
「すごいってもんじゃないんだから。喧嘩の強さは半端ないし、何個か対立してたチームの中で銀竜をトップ勢力にしたのが今の七代目。で、黒竜会は銀竜の親組織って感じかな」
「親組織? さらに上ってこと?」
「まぁそうだね。でも黒竜会は暴走族みたいな組織じゃなくて、本物の組織だよ。あっち系ね。何とか組みたいな」
へー…あっち系。こわ。
銀メッシュも怖いけど、そんな当たり前のように言うヨースケも怖いよ。
「んで、黒竜会のトップが真吾さんのお父さん」
「ふーん。恐ろしすぎて何も言えないね」
「そうだね~さっき真吾さんのそばにいた二人が常に一緒にいる側近みたいな感じかな」
あのめがねとクマがぁ!?
到底バイクとか喧嘩とか無縁のように思えたけど…。
「てか何でそんな事詳しいの? それもこの辺の一般常識なわけ?」
「え? だって俺も銀竜の一員だから」
……ヨースケ怖いっ!!!!
ネクタイリボン結びみたいにしちゃってるくせに。
人畜無害な性格してるくせに!
ギャップありすぎだよ! 雑種とか言った私が馬鹿だった!
「あっ、ちなみに俺の兄ちゃんが六代目総長でそのおかげで俺、真吾さんたちの近くにいれるんだ~」
ヨースケ……。
私、友達になる人間違えたかもしんない。
あの地獄の木曜日を終えて、金曜日の学校は案外普通に終わった。
ビクビクしながら行った学校も、あの三人組の姿は一度も見る事がなかった。
ヨースケいわく学校に来ない日が多いらしい。
私立のこの学校は、裏金やらなんたらで卒業にはさしつかえがないようになっているとまで、教えてくれた。
ヨースケは常に私と一緒で、お弁当まで私と一緒に食べた。
おやつに本物の苺をくれた。
昨日の真吾の様子にビビってた割に、ヨースケは明日の走りを待ち遠しそうに話していた。
性格が悪いんじゃないかと思って睨んでやると、「真吾さんに気に入られたんだな~」とか意味の分かんない事を言ってきた。
「目をつけられたの間違いだろ」と突っ込みながら、ヨースケをチョップした。
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