1-2

始業式の日。


やっば!!!!寝坊した!

時計を見ると8時20分

早く行かないと!


焦って支度をして学校に着いたら、時間は8時50分で今は体育館で全校生徒が始業式の真っ最中みたいだ。

途中から体育館入るのも嫌だし、もう始業式サボって教室に行っておこう。

潔い性格の百合香はとっとと体育館から退散して、人のいない校内を歩き出す。


お茶を買ってから行こうと思って、自販機の方に行くと、自販機の横のベンチで腕を顔に乗せて眠っている男の人がいた。


この学校の生徒だけど、スリッパの色が違うから先輩かな?

てか始業式サボり?

まぁここアホ学校だもんね。そりゃサボりの1人ぐらいいるわ。


私だって寝坊だけど、始業式サボりだし。


体にかけているブレザーが体から落ちかかってる。

今日はまだちょっと肌寒いし、ちゃんとかけ直してあげるべきよね?


音を立てずに近寄って、ブレザーを右手で掴んで持ち上げた瞬間だった。


「誰だ!?」


ブレザーをかけてあげると、男は飛び上がって私を睨んだ。

いきなり寝ていた男が飛び上がったことよりも、突然怒鳴りつけられたことよりも、私を驚かせたのは、彼が同じ人間だとは思えないほどの男前だったからだ。



風が吹いたかと思うくらい、見たことのない美しい男の人だった。


髪はウルフカットで、黒に銀のメッシュが入っている。

切れ長の目に筋の通った高い鼻。

目にはグレーのカラコン。

身長は180ほどはありそうで、シャツから見える体型は細身なのにカッチリとしてる。


芸能人でも誰も勝てないんじゃないかと思うほどの男前。

なのに、目つきは睨み殺されそうなくらい鋭い。


「なんだ、女か……」


彼のあまりの美形っぷりに思わず動揺していた私は、しばらく男の顔を凝視していた。


「あ、いや……えっとブレザー落ちそうだったから」


男はチラッと自分のブレザーを見て納得したように顔をあげた。


「余計なことすんな」


男は私から目を離すと、煙草を吸おうとして、ブレザーから煙草とライターを出した。


「……嫌っ!!」


煙草はだめ。見たくない。煙草はだめなの。見たくない……。



「あ? 何だおまえ。汗すげーぞ」


彼が私を怪訝そうに見る。


「煙草……吸わないで」


ドキドキする胸に震える手をあてながら、聞こえるかどうか分からない声で言う。


「俺に指図するとはいい度胸だな。誰だか分かって言ってんのか」


それなのに、男は口端だけほんのりあげて、挑戦的に睨んでくる。

なおも煙草を吸おうとする男を無視して、教室に向って走った。



煙草はだめなの。

わかってるけど、怖いの。

近くで吸われると、だめだ。


逃げるように帰った教室に入ってから、お茶を買い忘れたことに気付く。

自分の席に座って五分ほどすると、廊下の方がガヤガヤとしてきた。


始業式終わったんだ。


ようやく不整脈もおさまってきた頃、教室に生徒がゾロゾロと入ってきた。

みんな私をチラッと見るものの、話しかけてくる子はいない。


女の子はだいたいグループ分けがもうできたのか、自分のグループで精一杯って感じで、私を仲間に入れてやろうなんて考えるお人好しはいない。


でも私はそれでいい。

女の子なんて怖いだけだ。


「あっユリユリー!!おっはよー来てたんだ!始業式サボっちゃって悪い子だなぁ」


ヨースケが教室に入ってくるなり、私を見つけて走ってきた。

私の頭をよしよしと撫でる。


「ヨースケ、飴ほしい」


そう言うとヨースケは大きな目が無くなるんじゃないかと思うほど、顔をくしゃくしゃにして喜んで見せた。


「えっとねー、いっぱいあるよ。何がいい?」


色とりどりのチュッパチャップスをブレザーから出してくる。

四次元ポケッ…いや、ポケットはパンパンに膨れてる。


「苺」

「えっ?あっストロベリー?やっぱユリユリ可愛い!!女の子!!」


ピンクに包まれたそれを嬉しそうに渡してくる。


「ありがと」

「やばい~お礼言われた~てかユリユリ今日色んなとこで話題になってたよー」

「ど、どうして?」


飴をくわえながら、ビックリするような事を言われ、思わずヨースケを見つめる。


「まぁこんだけ可愛かったらな~仕方ないよな~。中学の時からのツレはみんなユリユリ紹介しろって言ってたし。あっもちろんそんな事しないから大丈夫だよ?俺がせっかくマブになれたのに~もったいないよ~独り占めだもんね~」


マブ……

他にも色々突っ込みたいとこはあるけど、

いやいやそんな事は今はどうでもいい。


「…私が可愛い?んなわけないじゃない。誰かと間違えてんじゃないの?」


ヨースケが唖然とした顔で、まじまじと私の顔を見てくる。


(何よ。じろじろ見て)


「ユリユリ…っそんなとこも可愛い!!あぁーだめだこれは!俺が悪の魔の手から守ってあげるからね」

「なんかよく分かんないけど…ありがと」


ヨースケは可愛い。

友達に次から次へと挨拶されてるところを見ると、友達はたくさんいるんだろう。

私にわざわざ構わなくていいのに。

一人でいる子をほっとけないタイプなのかも。

ヨースケのおかげで暇じゃないし助かってるけど、周りの視線が痛いのは我慢すべきなのか。


教科書などが配られて、その日は解散になった。

ヨースケが送ってくなんて言うから、靴を履き替えて門の方まで二人で歩いていた。


いきなり周りがざわざわしだし、たくさん歩いていた人が一気に端によける。


なにごと!!??


ヨースケを見ると、ヨースケは私の腕を引っ張って同じように端によけた。


向こうから歩いてくるのは、男三人。

なんて絵になる男だろう。

思わず息を飲まずにはいられない。


学校中を支配できるような威圧感を持つ男。


あの…銀メッシュ。


ボーっと突っ立っていると、みんなが通る度に「ちわっす」やら、「お疲れさまです」やらを銀メッシュに挨拶している。

女の子たちはきゃーきゃーと黄色い声をあげる。


(よくあの目を見て嬌声あげれるわね。あんたらはあの目の怖さに気付かないのかしら)


そこは騒然とした空気に包まれていて、まるでどこかの王様が通るよう。

私は何が起こってるのか分からなかった。

三人組が私の横を通り過ぎる瞬間、私はぼーっと目で追っていたのにもかかわらず、


「真吾さんちわっす~洋介っす」


ヨースケが私の手を引いて三人組に近づいた。

周りのみんなとはちょっと違う近づき具合に、三人組が一斉にこちらに視線を向ける。

周りのギャラリーもあいつ大丈夫かみたいな目でこっちを見ている。


やばいんじゃないの?ヨースケ!!

ちなみに、私も巻き込まれてないか!?

目つき尋常じゃないくらい怖い奴真ん中にいるのに!!


「おぉーヨースケ!」


左にいた茶髪の男の子が声をかける。

身長は170センチ無いだろう。可愛い顔立ち。眉毛はなぜかほとんどない。薄ピンクのカーディガン。

ズボンにはおっきめのクマのぬいぐるみのキーホルダーがつけられている。

とてつもなく可愛いから許せるけど、他の男性がやっていたら笑われるような恰好だ。


「ヨースケ学校なんだから慎めよ」


右にいた黒髪、黒縁めがねが声を掛けてくる。


この学校にはいないタイプ。頭良さそう。

キリッとした顔立ち。

ちょっと冷たいような印象もあるけど、見た目は一般的に一番受け入れやすいタイプ。

ネクタイを唯一キチンと締めてる。しかし、なぜか手には、携帯三つ。

でも多分、やっぱり男前。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る