最強彼氏 -silver dragon-【完】

大石エリ

1-1

この学校の札付き悪三人組。

地元に住んでる者なら誰もが知ってる三人を私は知らなかった。


そしてこの広い学校には、そんな三人に近付きたいバカな奴しか入らない。

私はそんな常識もまるで知らなかった。


成績では下から数えた方が断然早い高校、源学園。

私は頭が悪いからここに入学した……わけではない。


もっと単純。

一番家から近かったからだ。


しかし、ふざけんじゃないわよ。なに、この学校。

入学式にパリッとした制服で来てみたら、黒髪なんて見当たらない。

スカートなんてパンツが見えそうなくらいミニ丈の女子ばかり。

男の子もパンツ見えすぎってぐらいの腰パン具合。


髪の色はまあ、黒髪なんてのは一割未満で……。

カッターシャツのボタン一個開けで冒険したつもり私なんて、少数民族……?


「はははっ!」


そりゃ高笑いだってしちゃう。

こんな荒れたジャングルで生きていける気しないもの。


掲示板に貼り出されてるクラス分け表の下で自分の名前を探す。


………あった!



『1ーF 三島百合香』


教室に行こうと歩き出す。

周りは中学からの友達と来てる子が多く、一人で歩いてるのは私くらい。


でも誰も私なんか目に止めない。みんな自分のことで精一杯。

それでいい。

注目されたくなんてない。私はただ、大人しく学校生活過ごせればいいんだ。


…なのに。


1ーFの教室に入って座席表を見て自分の席に着く。

教室内はざわざわしていて、初めまして~やら、同じクラスだったんだ~やら、色んな交流が交わされている。

混じるつもりは全くない。


……なのに。


……なのに。


「おーい。おーい。おーい!」


後ろから男子の大きな声が教室に響く。

うるさいなぁ、もう。

名前を呼ばないとさ、それじゃあ呼ばれてる人気付かないってば。


「おーい……! おーい……! もしもーし」


……だからいい加減うるさいってば!!



睨んでやろうと思って後ろを振り返った 途端、男が頬をゆるめて満面の笑みを見せた。


………え?


「ああーっやっと振り向いた!」

「私?」

「そうそう私! 名前なんてーの? 俺、洋介! 柾木洋介(まさき ようすけ)!」

「……三島百合香(みしまゆりか)」

「そかそかー名前まで可愛いねっ」


愛くるしい笑顔で私に話しかけてくる。


この人なに?

全くの予定外なんだけど……。

大人しく学校生活過ごす予定だったのに、この人のせいで今若干目立ってる……。



金と黒のツートンの髪。

腰パンをしてブレザーのネクタイはなぜかリボン結びされている。

大きな目には緑のカラコン。

色が白くて背は175くらい?

ちょっと中性的かな。犬っぽいし。


何よりも陽の圧倒的な雰囲気。とにかく目立つ。

見渡した感じクラスで一番男前だからか、やたらとさっきからクラスの視線を感じる。


「声まで可愛いね~。何か見た目もこのアホ学校にはいない感じですげーいい。それって狙い? 狙ってやってても俺喜んで騙されちゃうけどね~。黒髪ロングでサラサラ~。つい後ろ姿見て声かけちゃったよ~。なのに、振り向いたらさらに可愛いって来るもんね~。可愛いってよりクールビューティーって感じかな? そんな子いるなんて聞いてないよ~。ねっどこ中だったの?」


言いながら私の髪を後ろから触ってくる。

ベラベラと本当によく喋る男。


「やめてよ。あんたのせいで目立ってんじゃん」


邪険に返事を返したのに、男はチッチッチッと人差し指を立てて左右に揺らす。

古典的なその仕草がなんだか憎たらしい。


「俺のせいじゃないよーん。ユリユリが可愛いからだよー」

「ゆっ…ゆりゆり!?」


わなわなと私が震えていると、バカ男は満面の笑みで自信満々そうに立っている。


「気に入ってくれたぁ? 俺の事は洋介だからヨウヨウでいいよ。あっでもヨーヨーみたいだな! うーん微妙だな~やっぱヨースケって呼んでくれたら嬉しいかな」


ヨーヨーなんてまず呼ばないし!

この人苦手なタイプだ。巻き込み系だ。このままいくとまずい。

いつの間にか友達とかまでクラスの中心に引っ張っていくタイプだ。

こういうタイプは受け流すに限る。


「ヨースケね。わかった。そう呼ぶからもう先生来そうだし座れば」

「うんそーする~教えてくれてありがとね~ユリユリ」


ゆるい感じで返事をすると、私の横の席に座りやがった。


「あんたっ…もしかして横なの!?」

「あっ知らなかった?俺ユリユリの隣りの席だよ。運命かもね~」


……あぁー名字マサキとミシマね。終わったわ。


すぐに担任が来て、入学式があるから体育館に行くように指示され、歩いているといつの間にかヨースケが隣に並んで歩いていた。なぜかチュッパチャプスをくわえている。

私の視線に気づいたヨースケ。


「あっこれいる!?食べかけだけど味はチョコバニラだよ」


そう言って口から食べかけを悪気なく差し出す。



……うん、もういいや。


「はははっ今はいいや。今度ちょーだい」


何かもう、わざわざ抵抗すんのも馬鹿らしい。

犬みたいだし、ちょっとかまってやってもいいや。


そう思って、チラッと横を見るとキラキラした目でこっちを見てくる。


今度はなんだ!?


「わっわっ笑った~~~!!ユリユリが笑ってくれたぁ!!」


心底嬉しそうに笑いながら、私の頭をわしゃわしゃと撫でる。

そして、乱れてしまった髪を「ぶはっ! くしゃくしゃになってるよ~」なんて言いながら、手櫛でとかしてくれてる。


こいつ、絶対馬鹿だ。


「私だって笑うよ。珍しくなんてないし」

「そっか~。俺明日からいっぱい飴用意しとくからいつでも言ってくれたらいいよ!ユリユリが食べてるとこなんて見れたら、俺鼻血出ちゃうかもだけど」


バカな犬。

顔が整ってるからチワワ? ううん雑種かも。

とりあえず、すっごいなつっこい犬。


だらだら長い入学式が終わって、今日は解散になった。

ヨースケは中学の時の男友達に呼ばれて名残惜しそうに帰っていったし、一人で家に着いた。


ワンルームのこの部屋にはまだ慣れない。

越してきて、まだ三日しか経ってない。

この辺の地理も全くだし、今は徒歩十分のあの学校と家の前にあるスーパーくらいしか知らない。


知り合いも一人もいない。

でも、別にいい。知ってる人がいるより全然いい。


……あんなとこには二度と戻らない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る