第2話 処女(少女)のような唇

杏奈に連れてこられた女は人見知りをするのか、非常におとなしかった。

ボクが椅子から立ち上がって、

「福田 雄輔です。」

と挨拶をした後に

「宅原 智恵です。よろしくお願いします。」

と頭を下げた以外はなにもしゃべろうとしない。


この場の重い空気に嫌気がさしたのだろうか、杏奈が僕の隣の椅子に座り、さらにその横に座るように宅原さんに促した。


改めて座りなおしたボクは珈琲を口に含んだ後、煙草を加えて火をつけた。

五本目の煙草か…。今日は随分本数が増えるな。


吸い込んだ煙草の煙が目の前のテーブルや女の子たちにかからないよう、横を向いて吐き出した。


元来気が小さいからだろうか。煙草を吸うときはいつも相手に気をかける。特にそれが女であるときは猶更だ。

でも、本当は知っている。女に恰好をつけているのだ。ボクはあなたに気を使っていますよとアピールしたくて、首を九〇度回して煙を吐き出すのだ。


そもそも煙草を吸う理由だってそうなのだ。喫煙する仕草で大人らしい姿を見せて、時に紳士的な行為を織り交ぜる。煙草だって珈琲だって、女に好まれるため、興味を抱いてもらいたくて、大学に入ってから始めたのだ。


普段は女の顔を見つめることなどしない。決して目が合うことないようにその子を観察するのが常なのだ。


しかし、値踏みだけはしっかりとする。宅原さんと目が合わないように気を付けなければいけないが、彼女のかけている黒いサングラスのせいで視線がどこを向いているのかわかりづらい。


なぜこんなにでかいサングラスをかけているのだろうか。まるでモデルや女優みたいだと疑った。

サングラスが不似合い思えるほど彼女の顔は小さい。最も印象的なのは、唇の小ささだ。他の同級生の女たちは、皆同じように赤いルージュをつけてりうのは知っていたが、彼女の唇の色は茶色く見えた。

それは、幼く見えたということと同義である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る