第4話
「……いいの?」
突然ぽん、と言い渡された自分の休暇におろおろして軽くなった手を彷徨わせた。
「喜んで! いっつもこのだだっ広い家のこと全部してくれてて自分の時間ないもんね。心配せず行ってきな」
「ありがとう……!」
うわあ嬉しい。何しよう何しよう!
はるとひよのことは大好きだけど、二人を連れてとなるとゆっくり買い物や美容院なんて到底生けない。
俊介くんならはるとひよの面倒も何度も問題なく見てくれているし安心だった。本当にしょっちゅう会いにきているから育児もお手の物なのだ。
私が嫁いだばかりの頃を思い出す。俊介くんは会ってすぐに言った。
『俺に敬語使わなくていいよ! 俺とは同い年でしょ。兄ちゃんには夫婦だから何でも言えるとして、他所の家に来て父ちゃん母ちゃんに最初は頼みごとしづらいじゃん。俺には遠慮なく何でも言って! 困ってることとか、やってほしいこととか!』
『ありがとうござ…ありがとう!』
『うん。俺お嫁さんにも藤間家が居心地良いと思ってほしいからさあ。ほんと、俺のことはパシリでも何でも使っていいからね!』
そうやって力を抜いて話せる関係を彼の方から作ってくれて、私は心細い思いをせずに済んだので心から感謝している。
それにしても、呼び方はずっと変わらないけど。
『俊介くん。あの、私は別に良いんだけどね? 私のことお嫁さんって呼んでたら、自分のお嫁さんのことはなんて呼ぶつもりなの?』
『美由紀』
『え……』
突然名前を呼ばれてどきりとした。
『……みたいに、普通に下の名前で呼ぶけど』
『ああそう……。普通はね? お義姉さん、とか呼ぶ方が多いんじゃないかと思って』
『おねえさん? へー……同い年なのに変な感じぃ』
『あなたのお兄さんの嫁ですからねえ。でも、俊介くんにそう呼ばれたらなんか老けるみたいでやだね』
『何だよ、じゃあお嫁さんでいいんじゃん』
そう言って俊介くんは私をお嫁さんと呼び続けている。
「ついお洒落しちゃった…」
姿見に映った自分を見て思わず呟いた。ワンピースなんていつぶりだろう。幼子を追いかけ回すにはパンツルックが必須で。妊娠中に太ったから入るか心配だったけど、育児でばたばたしているうちに痩せていたらしい。
着られてよかった、と思いながら階段を降りる。
「あ、かわいいじゃーん」
はるにぬいぐるみまみれにされながら俊介くんが振り向いた。
「褒めても朝の卵焼きの残りしか出ないよー」
「甘いやつ? 好き好き。じゃなくて。ほんとかわいい」
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