第3話

お出かけ前にはハグをしてちゅ、とほっぺにキスを送り合う。結婚してからずっと続いているこの習慣が好き。


「ひよ。いってきます」


私の背中で寝ている次女のひよのほっぺにもぶちゅ、とキスをして、玄関ではるにもハグとキスをしていた。

出会った頃から藤間家の人はみんなそうだったので、たぶんとってもスキンシップが好きで多い家庭なのだと思う。

あったかくて気持ち良くて、私もこの愛情表現にすっかり馴染んだ。


「いっちゃっちゃーーい!! おとうさん、いっちゃっちゃーい!」

「いってらっしゃーい!」


はると二人で、居間の窓からぶんぶん手を振って庭を歩いて出て行く圭介さんを見えなくなるまで見送る。

圭介さんはひらひら、と肩越しに手を振るだけで振り返らないけど、照れ隠しをしているだけで顔はでれでれだって知っているんだ。


「さ、お掃除お掃除!」

「おそうじおそうじー!」

「はるもしてくれるの?」

「はるもするー!」

「じゃあ……コロコロしてもらおっかなー!」


3歳になったはるは真似したい盛り。料理をする私の隣りでおままごとをしたり、そういうのが楽しいらしい。ひよにミルクをあげて、はるの相手をしながら家事をして、としていたらあっという間に一日が過ぎてしまうのでぱたぱたと動き回る。

するとカラカラ、と玄関の引き戸が開いた。田舎だからインターホンがあれど戸を開けて声が掛けられることの方が多い。


「はーい?」

「ただいまー! おっはよ!」

「俊介くん!」


にっかー! と笑って玄関に立っていたのは俊介くんだった。


「あれ、今日お仕事なかったの?」

「有給取れたから帰ってきちゃった! かわいいかわいい姪の顔を見に!」

「おいたんだ~!!」

「はる! うおっ、かぁわいい服着てぇ。またじぃじに買ってもらったの」


どーん! と飛びついたはるを軽々と抱き上げて、高い高いしながら俊介くんは居間に上がってくる。

あー助かる。エネルギーの有り余っているはるを相手して遊び続けてくれる俊介くんがいると用事が捗るのだ。


「どっか行きたいとこある? 重い物とか遠くまでとか買い物したいなら車出そうか」

「あ、いやそういうのは週末に買ってあるから大丈夫で……」

「なら、ちょっと一人の時間満喫してきなよ。美容院とか、ウィンドウショッピングとかさ。したいこと溜まってない? 俺、はるとひよのこと喜んで見とくからさ」


俊介くんはひょい、とひよのことも抱き上げて私に微笑む。

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