忙しい朝

第2話

それから数年、温かく迎え入れて私が過ごしやすいようどこまでも優しく接してくださったお義父さん、お義母さん達のお陰で私はすっかり藤間家に馴染んでいた。

今朝もごはんの支度ができたところで娘を叩き起こす。


「はるー! おっはよー!!! 朝だから起きなさーい!」

「はぁーい……」

「ちゃんと起きてから階段降りてくるのよー」


うにゃ、と開いていない目を擦って長女が目を覚ましたのを確認してすぐに台所に戻った。

大きな声を出したものだから「ふぇ、」とぐずりかけた背中の次女を「はいはいはい」と揺すりながらお味噌汁を人数分注いでいく。


元々、藤間家は私が来るまで朝ごはんは各自ですごく適当に摂っていたらしい。

お義父さんは織物工場を経営している社長さんで、お義母さんもその補佐をしている。圭介さんは長男として次期社長になるべく熱心に勤務中だ。

そんな訳でみんなが忙しくて朝はパンだけ食べる人がいたり何も食べない人がいたり、出発する時間もばらばらだったそう。

けれど私に朝からしっかりと和食を食べる習慣があって、好きにしていいよとは言ってくれたのだけれど一人で食べるのは寂しかった。するとそれを知った藤間家の人たちはみんなで集合して食べてくれるようになったのだ。

しかも私のごはんを気に入ってくれて、今じゃこれ食べなきゃ一日が始まんないわね、なんてお義母さんが言ってくれて。

良い人たちに囲まれてとても幸せな日々を過ごしている。


なんとか一回で起きられたはるが居間にやってきて、みんなで朝ごはん。

炊きたての白いごはんにそれぞれの好きな佃煮や納豆、そしてお味噌汁と卵焼き。

はるが小さなおにぎりにしておいたごはんを鷲掴んで服にぼろぼろこぼしているのを少々手伝いつつ、私は食べ終わったら皆さんのお弁当を詰めて、と忙しい。

でもこの戦争みたいに騒がしいのが幸せ。

だって一人の時には考えられないものだったから。


「ほらはる、じぃじがお仕事行くって!」

「じぃじ~! いっちゃっちゃーい!」

「はるぅぅぅ。じぃじ行ってくるからなー! またなんかお土産買ってきてやろうなー! ああ、このままお前と遊んでいたいなあ……!」

「お父さん遅刻しますよ。はる、ばぁばも行ってきますからね」

「ばぁばいっちゃっちゃい!」


玄関で孫のことを溺愛してくださっている声を聞きながら、私は居間で圭介さんのお見送り。


「いってらっしゃい。気をつけてね」

「うん、行ってきます」

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