第45話
夜中、はっと目が覚める。なんか、怖い夢見てた。あんまり覚えてないけど。
見慣れない天井に自分が今どこにいるのかしばらく思い出せなくて首を廻らせたら、隣りで寝息を立てている人がいた。顔を見るだけで笑顔になる。そっか、東の家だ。もう一回怖い夢見たらやだな。くっついたら駄目かな。
くかー、と口を開けて寝ているのを見てちょん、と手に触れたら、「んん」と振り解かれた。がーん。悲しい。
「んー」
僅かな唸り声がしたかと思うと何かを探るように動いた手が、私をごろん、と転がし自分の胸元に引き込む。
「え」
気付けば目の前に東の体があり、私は抱きしめられていた。顔を見てもすぴょー、すぴょー、と健やかな寝息が上がるばかりで完全に眠っているみたい。それなのに、温かな手は慣れたように私の頭と背中の位置を正確に把握しぽんぽんと宥めるように撫でた。
それだけ私のことずっと抱きしめてくれてたんだね。何だろう。嬉しいのに、切ないような気持ちになってくる。ぴったりくる言葉はきっと、「愛しい」。
息をする度に上下する胸にすり寄れば安心して、嫌な動悸は治まっていった。
目を覚ましたら東が私から唇を離すところで、私は内心ぶっ飛んだ。ひえ……私、今ちゅーで起こされたの。
「おはよ」
真っ赤に頬を火照らせて口元を押さえた私の目の前で、つられて少しだけ頬を染めた東が囁く。もう何……? 今の声もシロップより甘かった。
「起こしてごめんね。朝だよ。ちょっと早いけど。先生、一旦帰って支度しないと仕事でしょ」
「うん。……『三千世界の鴉を殺し 君と朝寝がしてみたい』ってこういう気持ちかなあ…」
「なになに、急に物騒なこと言って」
せんせー教えて! って強請るから意味を教えたら、歯ブラシを咥えた東は「ひゃはっ」と高い声で笑った。
「怖いこと言ってんのかと思ったら超かわいいこと言ってた」
わしわし、と寝癖付きの私の頭を撫でる。
「じゃあ、一緒に住むか!」
あっけらかんと言い放った。一緒に? もう誰もいない家にただいまって言わなくてもいいの? 毎日おはよう、おやすみって言い合えるの?
「嬉しい……っ」
輝かしい生活を想像して私は東に飛びつき、彼は嬉しがってそんな私をぎゅうぎゅうと抱きしめた。
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