第37話

日が落ちて、夜店の白熱灯や提灯が暗がりに映えはじめる。おいしそうな物、楽しそうな物に目を奪われながら歩いていたら、顔の前で腐ったような金魚が空中を泳いでいってびくりと足を止めかけた。その足元を、随分昔のものに見える古びた着物を着た子供たちがはしゃぎながら駆けていく。そうか、夜だから霊も活発になるんだ。奪われていた視線を戻して顔を上げたら、東が優しい顔をして振り向いていた。

「手繋ご」

「うん」

 差し出された手に素直に縋る。東は私の手を手繰り寄せ、嬉しそうに何度か握った。あったかい。東がいれば、大丈夫。

「金魚じゃなくてヨーヨー釣りにしとこうねえ」

「うん」

 釣ったカラフルなヨーヨーをぽいんぽいんと跳ねさせながら歩いて、河川敷まで連れてこられる。

「ここ座ろ」

 石段に腰掛けたら、アナウンスがあってすぐに花火が上がりはじめた。

 次々打ち上がる色とりどりの閃光に見惚れる。

「綺麗だね!」

 破裂音に負けないように隣りに話しかけた。

「うん」

 東がこっちを見てきゅう、と目を細める。

 クライマックスだな、と分かるくらいに最後は一斉に弾けた花火にあちこちで歓声が上がって、夜空に白い煙の跡を残して静寂が訪れた。

「はぁ~、すごく綺麗だったね……」

 また左を向いたら、目蓋を閉じて首を傾けた美しい顔。慌てて目を瞑って、ちゅ、と触れるだけのキスが交わされる。

「っは……」

 唇を離した東は妖艶に微笑んだ。

「大好き」

 そう溢れるように呟いたら、彼が弾けるように笑う。

「雪から言ってくれんの珍しい! 俺も大っ好き」

 もう帰るだけだから着崩れちゃっても許してー! なんて言って、伸ばされた腕がぎゅうぎゅうと私を抱きしめた。

「あはは! いいよー!」

 私も顎を彼の肩に乗せる。

「しあわせ」

「よかった」

「東は?」

「俺もだよ。もうずっと」

 もう一度熱い唇が降ってきて、私は東のシャツに縋ってそれを受け入れた。

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