第35話

その夜、お寺でお夕食を頂いて、縁側でスイカまで頂いた後。ごちそうさまをしたらみんなが何やかんやと立ち上がり東と二人残されて、風鈴の音を聞きながらぽやんとひまわりを眺めた。

「雪」

「っなに?」

 呼ばれ慣れないものだからどきっと心臓が跳ねる。

「あはは、今どきっとしたでしょー」

「ずるい。分かっててやってるんだ」

「雪、雪」

「恥ずかしいからいっぱい呼ばないでぇ」

 こんなことで顔が赤くなること自体も恥ずかしい。

「あのね、花火大会行こ」

 東がはにかんだ。いつもそう。ちょっと緊張した様子で、心配そうに聞いてくるんだ。断る訳ないのに。

「いつ?」

「来週」

「行きたい行きたい。いつものみんなで?」

 ぶちゅっと頬を人差し指で勢いよく突かれる。痛い痛い。何すんの。

「二人でだよ!」

 東はちょっと苦笑混じりの怒ったような声で言った。

「二人!」

 つつかれた頬を押さえながら目を丸くする。

「嫌?」

「ううん! ううん!」

 不安を押し殺しているのかぶっきらぼうに東が聞いてくるから、一生懸命首を横に振った。それを見た東がようやく顔を輝かせる。

「にゃはは! 嬉しー?」

「うん」

 東と、花火大会でデート。付き合ってから二人で出掛けることもあったことにはあったけど、みんなで遊ぶことが多いからびっくりした。

「緊張する」

「あはは! 何でよ! しょっちゅう会ってんじゃん」

 そのしょっちゅう会う度に心臓が破裂しそうになってるからだよ。

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