第30話
「おー、大丈夫……じゃねえな」
「えぐい数に襲われた」
「うん。さっき、館内にいる霊全部が急に吸い込まれるみたいに一箇所に飛んでいったから、何事かとは思ってた」
「分かんない。エジプトの部屋入ったら、先生が急に全部吸った」
「すみません……」
「いいから。先生がダイソンなのは今更だし。あんなの初めてで、誰も予想なんてできなかった」
ずり下がる私を持ち上げるのに東が小さな子供にするようにとんとん、と体を揺する。それがなんだか嬉しくて太い首に絡み付いたら、東は小さく笑った。
「なに。仲直りしたの」
「「まだ」」
進藤さんが肩を竦める。
「菅さんとは会わなかったの」
「うん。先生と一緒にいっぱい呼んだんだけど返事なくて見つかんなかった。とりあえずさっきので博物館中の霊祓ったから、無事ではいるだろうと思って合流しにきたんだけど」
「電話も何回も掛けてるけど繋がんないしなあ。もう一回掛けてみるか」
進藤さんが菅さんに電話を掛ける。数コールの後、ぷつりと音が途切れた。
「はい、もしもし菅原です」
「菅さん?! 今どこにいんの」
「え? 公民館で書道教室してたけど。どうしたの、なんかあった?」
「なんかあった? って……お前が大丈夫か? 博物館で霊が山ほど湧いて逃げてるって電話もらって俺ら来たのに、全然いないから心配してたんだけど」
「何それ。知らないんだけど。俺から亘に電話があったの?」
「は? 違えよ、東に掛けてきただろ。今俺と一緒にいるか、できたら助けにきてほしいって」
進藤さんが本気で困惑した様子で聞き返す。変だ。話がちっとも噛み合わない。
「俺は掛けてない。そもそも博物館でそんなことになってたの? その電話本当に俺だった? 何時?」
「六時過ぎだよ!」
東が自分の携帯の履歴を見て進藤さんのスマホに話し掛ける。
「俺の携帯にはその時間電話したって履歴は残ってない」
「じゃあ誰なんだよ!」
進藤さんが声を荒げた。ぞーっと身の毛がよだつ。あれは確かに菅さんの声だった。焦ってるけど落ち着いてもいる話し方だって菅さんそのもので。
あの電話はだあれ? 誰が私達をここへ誘ったの。
「とにかく、菅さんは公民館にいんのね? 一旦電話切るよ。よかったら用事済んだらうちに来て」
電話を切った進藤さんが苛立ったように頭を掻いた。
「亘。帰ろ? みんな無事だったんだし」
東が宥めるように言って、進藤さんは出口に向かいはじめる。
「東、東。私もう大丈夫。自分で立てるよ」
恥ずかしくなってきて身を捩る。
「えー? 車乗るまで運んでってあげるからそのままいときなよ」
「やだ……!」
「俺も下ろすのやでーす」
「ちょっと!」
東が我が儘を通すところなんて初めて聞いた気がした。好き勝手してるようでいて、その実いつも自分が折れてばかりだったのにどうして急に。
「下ろしてってば!」
「やだやだやだ!」
東は私を背負ったままたったか走り回る。
げ、元気だなー……。
「あんなぐったりしてたんだから楽しときなって! 重いとか気にしないで、俺は先生がくっついててくれるなら体力無限だから」
「ああうん……そうみたいね……」
私は諦めた。
「このままどっか連れてっちゃいたーい♡」
「車でよろしく」
「はーい!」
本当に背中から下ろされないまま車に乗せられてしまう。座席に着いた東にぴとー、と密着された。あの……そっち側、まだスペース余ってるよね? 私、ドアに押しつけられてるんですけど。
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