バーベキュー
第24話
憑かれた霊を東に祓ってもらいにお寺に通いながら、時々週末には除霊師の仕事をして、やがてセミが激しく鳴き出すようになった。梅雨も明けて、夏本番だ。いつもの縁側から見えるお庭にはプランターでひまわりも咲いて、気分が明るくなる。
ある日「金曜日空いてる奴集合!」といつもは進藤さんなのに珍しく東から集合が掛かって、また除霊師の仕事かな、と気を引き締めながらお寺に向かう。今日は遅くなってしまった。ぱたぱたと意味もないけれどつい手で扇いでしまいながら境内に入っていくと、タオルを頭に巻いた東が真剣な顔でバーベキューコンロに火を起こしていた。
「? こんにちは。今日、除霊行かないの?」
「お前、ちゃんと言っとけよ!」
炭を担いできた進藤さんが東のお尻をぺしん、と叩く。
「あっ、せーんせー! 今日はね、みんなで集まってバーベキューだよ!」
ぱっと顔を上げた東が弾けるように笑った。
「そうなの?!」
「言ったら来てくれないかと思ってぇ」
「来るよ!」
「来るだろ」
進藤さんまでが言う。私、見抜かれてる。
「嬉しー! いっぱい肉焼こうねえ。あ! 先生髪切った! かわいい~!」
途端に駆けてきた東は私に抱きつこうとしたのだろう。けれど自分の煤けた軍手を見て、「んはっ!」と息を飲んで急ブレーキを掛ける。
「お前さあ」
進藤さんが目を糸のように細めて笑っていて、私も吹き出すように笑った。
くっつくのを諦めた東は、私の髪をあっちこっちから眺める。
「先生明るくなったね!」
「そうかな。髪の毛の分、頭は軽い」
「うん。似合ってる!」
「似合うよな」
「ありがとう」
なんだかばっさり切ってみようかという気持ちになったのだ。私には珍しい短さで、なんて言われるかどきどきしていたからほっとする。
「おー、髪切ったの。いいじゃんそれ」
「本堂さんこんにちは。涼しそうになったね」
お肉と野菜を切っていたらしい稲辺さんと菅さんも出てきて褒めてくれた。この人たち、何だかんだ変なところはあるけどみんなお洒落だったりするから認められると嬉しい。
「ふぃ~食ったなあ!」
「東、焼いてばっかだったじゃん」
「食べた食べた」
バーベキュー後、炭を消しながらじゃれている稲辺さんと東を、「おーい」と縁側に呼ぶ。
「まさかバーベキューだとは思ってなかったんだけど、デザート持ってきてるよ。食べませんか」
「まじぃ?! なになに」
「水ようかんです」
「おっ……うまそうだけど白ーい。何で?」
「白餡なの。見えてるオレンジ色のは金柑」
「うまそう! また先生が作ったの」
「うん」
「すげえな。いっただっきまーす!」
爽やか、とかうわっ! 売り物じゃん、とか言ってくれて、みんな褒め上手だなあ。持ってきてよかった。お菓子や料理を覚えたのはおばあちゃんのお陰だ。洋菓子も和菓子もしょっちゅう作ったものだ。一人じゃ食べきれないだろうから、食べてくれる人がいるのが嬉しい。
「ね」
「うん?」
隣りから袖を引かれる。
「俺もう一個欲しい」
東が舐めたように綺麗なお皿を構えて私を見つめていた。ふっと笑みをこぼしてタッパーを振り返る。まだ水ようかんの端っこは残っていた。ナイフで掬ってお皿に乗せてあげる。
「はい」
「ありがとー。いひひ、おいしい~。本当は俺が全部食べちゃいたいくらい」
綺麗な所作でぱくぱく口に運ぶ姿から目を逸らした。膝に頬杖を付いた手で口元を隠す。
「血糖値上がるよ」
「いい!」
「お馬鹿」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます