第18話

 プレゼント選びって、こんなに難しかっただろうか。

 千崎は休日、一人で街に出ていた。クリスマスも近づき、プレゼントを渡すと言ったから。選びに来たのだけれど。


「わからん……」


 千崎は絶賛悩み中だった。

 咲宮のプレゼントはすぐに決まった。いつかの欲しいと言っていたコスメだ。

 だが、南の分は一生決まりそうになかった。だってわからないのだ。南は過去を話さない。血以外も欲しがらない。

 私は、南のことをあまり知らない。


「もう、煙草カートンで渡せばいいかな……」


 千崎は諦めかけていた。

 一度休憩しようと傍にあったベンチに座る。子供がはしゃいでいる声が聞こえた。親と来て、クリスマスプレゼントでもねだっているのだろうか。

 ふと懐かしい気持ちになって、声のするほうに視線を向ける。そこにいたのは、南とエリスだった。

 手を繋いで、南は千崎に見せたことのない笑い方をして。


「……」


 凝視していると、エリスと目が合ってしまう。南も遅れて千崎に気づいていた。

 千崎は立ち上がってその場を去ろうとする。どうしてか、いたたまれなくなった。

 だがエリスはそれを許さなかった。


「待ちなさいよこのビッチ!」


 距離が離れていたはずなのに、エリスは一瞬で千崎に飛びつく。


「あなた私がいない間に好き勝手やってくれてたみたいじゃない」

「は⁉ なんのこと?」


 エリスは千崎にしがみついて離れない。


「奈緒から色々聞いたわ。このビッチが!」

「だからなんのこと⁉」


 千崎に乗ってエリスは暴れる。


「こらエリス」


 遅れてやってきた南が抱き上げるまで、抱き上げられても、エリスは暴れていた。


「ひ、酷い目に遭った……」


 千崎は乱れた髪を整える。意図して、顔を上げないようにしていた。


「綾」


 声をかけられて、肩が震える。


「ごめんね、エリスが言うこと聞かなくて」

「いいって」


 その発せられた千崎の声は、自分で思っていたよりも冷たかった。


「……綾?」

「……ごめん。なんでもないから」


 なんでもないって。だれが聞いてもそれはなんでもなくない台詞だ。


「……南、今日はご飯先食べてて」

「え……? それって」

「大丈夫! その内帰るから!」


 千崎はその場から走りだす。呼び止める南も無視して、駆けだしていた。

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