第16話

 暗い部屋の中、モニターの中で光が点滅する。結局、今日選ばれた映画はアクションもの。しかも千崎は途中で寝落ちしていた。

 南は肩にもたれかかる千崎の髪を手櫛で整えてみる。すやすやと、安らかに寝ていた。


「子供みたい」


 狭い部屋で南は一人呟く。

 あれは、突然の申し出だった。吸血鬼なって長いこと生きてきたけれど、結構驚いたと思う。

 一緒に住まないか、なんて。まさか言われるとは思ってもいなかった。

 千崎はとても普通の子だ。煙草を吸うと怒るし、大学さぼろうとすると怒るし。連絡しなかっただけで悲しそうにするし。

 でも、外れてる。

 私を傍に置いている時点でおかしい。

 初めはただ美味しそうだから吸った。生かしたのは気まぐれだった。なのに。なのに今は、彼女は私を受け入れている。

 おかしい。やっぱり千崎はおかしい。

 こんなすんなり血を吸わせてくれる人間そういない。一応、嫌がる素振りを見せたりもするけれど。吸わせてくれる。千崎はちょろい。

 そして挙句の果てには、この共同生活。おかしかった。

 だって、とても自然だ。吸血鬼が、自然に人間と暮らせている。


「どうなってるの? 綾」


 問いかけても返事なんて返ってこない。

 嫌がりながら、笑って血を吸わせる。怒りながら、煙草を吸わせてくれる。俯きながら、血を吸うのをせがんでくる。

 初めてだ。考えても埒が明かない。

 南は千崎を抱えると布団に連れていく。千崎を寝かせて夜風にでも当たろうかと、ベランダに出ようとすると千崎の手は南の服を掴んでいた。

 これだ。こういうところだ。一ヶ月近く連絡しなかったときもそう。南を先に大学に行かせようとしたときもそう。どうしてか、彼女から離れられない。離れるのを、許してくれない。

 南は千崎の手を服から離すと玄関に向かう。

 外の出ようと靴を履きかけたけれど。結局煙草を吸って千崎と同じ布団で寝ることにした。 

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