第8話

 夏真っ盛りの八月初旬。千崎は高速道路の上で車の運転に全神経を集中させていた。


「千崎、運転変わろうか?」

「無免許は黙ってて」


 後ろ席から咲宮がおちょくってくる。


「ペーパードライバーをあまり虐めないでよね」

「いやー、助かるよ。ごめんね私たち役に立たなくて」


 咲宮は思ってもいないことをいいながら優雅に寛いでいた。

 咲宮は私たちと言った。そう、咲宮の隣には奈緒。助手席には南。この三人、だれも免許を持っていなかったのだ。


「綾、後どれくらいで着くの」

「三十分くらい? てか煙草吸うな」

「電子だからセーフ」

「私が親に怒られるの!」


 言っても南は聞く耳を持ちはしなかった。

 咲宮が言い出したキャンプ。もといグランピング。計画したのはいいものの、誰も車どころか免許も持っておらず。唯一持っていた千崎が、親に車を借りて目的地に向かっていた。


「綾、トイレ行きたい」

「さっきSA寄ったばっかなんですけど。なんで行かなかったの」

「さっきは行きたくなかったから」


 南め。なんて我儘なのか。


「千崎さん。私ご飯食べたいです」

「だからさっき食べといてよ!」


 後ろの吸血鬼も我儘だった。


「もうー……ペーパー虐めないでって言ったじゃん……」

「千崎ー」

「叶は黙ってて! 後お菓子で車汚さないで!」


 どいつもこいつも。言うことなんて聞きやしない。

 千崎は既に途方に暮れているが、旅行は始まったばかりだった。



          *



「着いた、やっと、着いた……」


 どっと疲れる運転の末、千崎たちはようやくグランピング施設に到着していた。


「緑がいっぱい!」


 千崎の疲労なんて知ったことではないのか、咲宮ははしゃいでいる。


「奈緒さん、行きましょー」

「おー」


 咲宮は後ろの席で奈緒と意気投合したのか、二人で受付を済ませに行く。南はと言えば、車内でまだ煙草を吸っていた。

 窓をノックするとちょうど吸い終わったのか、車内から出てくる。


「おつかれ綾。そして帰りもよろしく」

「今帰りのことは言わないで……」


 億劫になっている千崎を無視して南は先に歩いて行く。

 誰も労わってはくれない。千崎は自分で自分を褒めたたえるしかなかった。

 南についていくと、咲宮たちはもう受付を済ませていた。

 そしていよいよ今日の宿とご対面。

 千崎は否応にも気分が高揚していた。千崎だけでなく、他の三人も。

 今日泊まるのは山の中、ドーム型のグランピング。中は白基調で中々豪勢な作りになっていた。しかもこの施設、川釣りや温泉、サウナまで楽しめる。

 山の中自然と戯れて、バーベキューして、焚火して、ベッドから星空を眺めて。

 四人共、思い思いの過ごし方に心躍らせていた。


「それじゃあ、まずは温泉でも入ろっか」


 今すぐにでも遊びたそうな咲宮が、そんなことを言い出した。


「千崎、疲れてるでしょ? まずはゆっくりしようよ」

「……さ、咲宮……」


 その一言で、千崎は涙腺が決壊しそうになっていた。


「ここサウナもあるんですよね? 楽しみです」


 奈緒も乗り気で、南に至っては既に温泉に向かい始めている。 


「私、運転頑張って良かった」


 千崎はやっと、ちょっぴり報われていた。



          *



 湯気が立ち上るプライベート温泉。その室内で、四人が肩まで湯につかれば声が漏れていた。


「ちょっと千崎、おっさんみたいな声出さないでよ」


 咲宮がおちょくってくる。


「そういう咲宮だって。結構汚い声出てた」

「まさか」

「いや出てたから」


 咲宮としょうもない言い合いをしている横で、吸血鬼二人はもう昇天しかけていた。


「奈緒、温泉とはいいものだね」

「ええ、これこそまさに至福」


 吸血鬼って死んだら化けて出るんだろうか。


「てか二人とも、ずっと思ってたけど肌白いよね」


 咲宮が吸血鬼二人に近づいていく。南は堂々としているが、奈緒は嬉々として肌を手で覆った。


「やーん、叶ちゃんのえっち」

「奈緒ちゃん、おじさんにもっと近くで見せて?」


 奈緒と咲宮は残りの二人そっちのけでいちゃつきだす。お湯が揺れていい迷惑だ。


「綾、あっちいこっか」


 南は湯船から上がると千崎をサウナに誘う。いちゃつく二人についていけないため、千崎もサウナについていった。

 サウナ室に入ると、中は熱気に包まれている。


「うわあっつ」


 千崎は入った時点でかなり熱がっていたのだが、南は平気そうだ。

 二人で隣り合って座る。

 暫く無言で汗を流していた。

 いつも思っていたけれど、サウナに入ると無駄に耐えたくなる現象、なんなのだろうか。


「熱いねー」

「そうね。綾、大丈夫?」

「……これくらい問題ないし」

「あんまり無理するものでもないよ」

「無理してないし」


 言葉とは裏腹に、千崎は結構無理をしていた。でも出るのが憚られた。これはどんな心情だろうか。どうだろう、もうちょっと、南の隣で話していたいのかもしれない。


「南、ほんとに肌白いね」

「触ってみる?」

「へぇっ⁉」


 想定外の申し出。千崎は戸惑いながらも、サウナの熱でおかしくなっていたのか、躊躇なく、南の腕に手を伸ばす。

 とても、柔らかかった。その白い柔肌は、ずっと触れていたいくらいで。千崎は無意識に南の肌を擦る。その手つきが、その。そう。若干そわつくものだったことに、千崎は南の顔を見てやっと気づいた。


「あ、ごめん。これは……」


 言い訳のしようもなく、千崎は口をまごつかせる。そんあ千崎に、


「綾の、えっち」


 南は耳元で囁く。


「ど、どっちがだよ……」


 これは、サービス精神旺盛すぎやしないだろうか。そしてこんなことを考える自分は、やはりおじさんなのではないだろうか。そんな思考が、熱さで溶けそうな脳を巡る。


「そろそろ出ましょうか」


 南は立ち上がり、つられて千崎もサウナを出る。

 もう少し中にいれば、自分は一体どんなことを口走っていただろうか。と。怖くなる千崎だった。

   

   

          *



「二人は?」

「釣りに行ったわ。今日の夕飯採ってくるって」


 天井からはまだ明るい空模様。千崎はベッドの上で伏せっていた。


「ごめんね南。付き添いなんてさせて」

「いいのよ。半分は、私のせいみたいだし」


 千崎はサウナにやられてダウンしていた。とても、頭がふわふわする。


「あ、こら。タバコ吸うな」  


 南は室内で煙草を吸おうとする。


「ばれなきゃセーフよ」

「あうとです」


 あまり好き勝手やると千崎の口が止まらないと思ったのか、南は煙草をポケットに戻す。


「それでいいのよ」

「綾はいい子ね」

「そう、私はいい子なんだよ」

「いい子だけど、えっちでもある」

「……! それはもういいでしょ……」


 サウナのことを掘り返してくる。千崎は熱さでやられていたとはいえ、痛恨の極みだった。


「綾、体調不良のところ悪いけど、一つ頼みを聞いてもらってもいい?」

「なんでしょう」

「吸わせて?」

「今駄目って言ったよ?」

「そうじゃなくて」 


 南は千崎の服の襟を引っ張る。


「こっち」


 そういうことか。本当に、我儘な吸血鬼だ。


「断ってもいい?」

「嫌よ。私今吸いたい気分なの。煙草で誤魔化すのは駄目って言うから。なら吸うしかないじゃない」


 煙草で誤魔化してたんだ……。そうなると、南は四六時中吸いたがってるってことになるんだろうか。


「それも駄目って言ったら?」

「私に選択を迫るなんて、生意気」


 南の八重歯はとうに伸びて、瞳は紅に染まる。


「……わかったよ」


 我慢が効かない吸血鬼だ。

 了承を得れば、南は千崎の髪をかきあげる。そして露になった首筋に、牙を突き立てた。


「……!」


 やっぱり、吸血は心地良かった。程良い痛みと、血の抜ける脱力感。火照った身体が、余計に熱くなってくる。


「ちょっと南、吸い過ぎ……」


 千崎が顔を掴んで離そうとしても、南は吸い続ける。南はひたすら吸い続けていた。


「……ばか」


 千崎は力を抜く。南の思うがままに、血を吸わせる。

 我慢が効かないのは千崎もだった。だって。

 喫煙所に行けとは、言えなかったのだから。



          *



 辺りも暗くなってきた頃。千崎たちは立ち上る煙に食欲をそそらせていた。


「乾杯!」


 アルミの缶を四人で突き合わせて小金の色の液体を流し込む。自然の中で一杯目のビールは格別だった。


「じゃんじゃん焼くからね。食材もいっぱいあるし」


 バーベキューコンロの前で咲宮が肉を見張っている。焼肉とか、こういうとき、咲宮は率先して肉を見張ってくれる。拘りがあるとかないとか。


「叶さん、これ美味しいですね」


 奈緒は咲宮の焼いた肉を絶賛していた。


「でしょ? 私の手にかかればこんなものよ」


 奈緒だけでなく、南も無言で食べ続けている。


「お二人さん、野菜も食べなよね」


 千崎は取り残されていく野菜たちを食していた。


「綾、おかわり」


 ひたすら肉を食べては流し込んでいた南は飲み物がなくなったのか、千崎に要求してくる。クーラーボックスは微妙に南の方が近いのだが。言っても仕方なさそうなので、千崎は缶を取り出し、開けて渡した。


「あ、私も」


 ついでに、奈緒も要求してくる。


「二人とも、よく飲むし、食べるね。太らんのかい?」


 咲宮は肉に集中しながらも二人の食欲に感心していた。


「南さんはさ、お酒の失敗とかないの? 奈緒さんも」


 単なる興味か、咲宮は吸血鬼二人に聞く。それは千崎も興味があった。


「南さん、新勧も、今日も結構飲むし、めっちゃ食べるし、でもほっそいし。その身体どうなってるの?」 


 南はなんてことなさそうに答えた。


「神に恵まれた身体」

「いっちゃんむかつくのきたな……」


 咲宮は落胆するが、千崎も違う意味でしていた。そういう答えは望んでいなかった。


「私はありますよ? お酒の失敗」 


 奈緒は目を薄く瞑っていた。


「昔、とあるお店のお酒を勝手に飲み干してしまって。店長にしこたま怒鳴られた挙句、お気に入りのお店だったのに出禁にされてしまいました」

「あはは、飲み干すって……」


 咲宮は苦笑いだった。信じていないし、あまり笑えない冗談とでも思っているんだろう。


「叶さんはどうなんです? お酒の失敗」

「私? 私はしないように気をつけてるのよ。そこにいつも失敗するのがいるから」


 咲宮は視線を千崎に送る。


「そんな。いつも失敗してるみたいな言い方やめたまえよ」


 千崎は軽く目線を逸らしていた。


「綾はちょろいよ。すぐ流される。お酒も弱いし。正直飲まないほうが良い」


 南に直球に告げられてしまった。


「そんなことないって! たまに失敗するだけだから!」

「いやいつもだし……」 


 呆れる咲宮の溜め息は、とても重かった。 

「もういいって私の話は! それよりさ、二人の話聞かせてよ。主に恋愛方面で」


 千崎は強引に話題を変えにいく。話を振られた吸血鬼二人は話すことがあるのか、ないのか。微妙な反応だった。


「私は?」

「咲宮は聞くまでもない」 


 千崎は聞いてほしそうな咲宮をあしらう。どうせ大した話は出てこないから。


「恋愛方面の話ですか。では、石油王に喧嘩を売ったら何故か気に入られてしまった話とかどうでしょう?」

「何それ嘘くさい……」


 咲宮は欠片も信じていなかったが、千崎は少し興味をそそられていた。彼女たちの話は、嘘か誠か、わからないから。


「南さんは? 何かないの?」


 咲宮は南に矛先を変える。

 振られた南は遠くを見つめてただ一言、 


「ないね」 


 それだけだった。


「えー? まあないならしかたないか。奈緒さん、石油王の話を」


 諦めた咲宮は話半分で奈緒の話を聞き始めた。

 千崎は二人が話に夢中になり始めると、南の傍に寄る。


「ないの?」


 聞いてみた。吸血鬼は長寿、みたいな話もあるし。どれだけ生きてきたかなんて知らないけれど。そういう浮いた話、一つくらいあるんじゃないかと怪しんでいた。だが、


「ないな。私はそういうの、避けて生きてきたから」


 南はあっさりとしていた。特に含みがあるのでもなく、南は美味しそうにお酒を飲んでいる。


「ないのか。へえ、ないんだ」

「そういう綾はどうなの? ないの?」

「うっ……。私にその話は……」

「駄目なの?」

「駄目っていうか、私夢見がちっていうか…………。王子様が、迎えに来ると思ってて。自分から何かしたことがない、っていうか……」


 言ってて苦しくなってきた。


「つまり誰かがなんとかしてくれると思ってたら特に何も起きず、ここまできちゃったんだね」

「全部言わないで!」 


 南はわざわざ言葉にして虐めてくる。


「まあまあ、そう悲観しなくても。夢見れてるだけいいと思うよ」


 そう言う南は、また遠くを見ていた。それは「自分は夢すら見れない」。なんて言いたそうで。

 吸血鬼とは、案外難儀な生き物なのかもしれない。


「南、おかわりいる?」

「お願い」


 千崎は自分からビールのおかわりを取りに行った。南が、ちょっと物悲しそうだったから。優しくもしたくなるってものだ。

 おかわりを持っていくと、南は空を見上げる。今日は満点の星空だった。



          *



 揺らめく炎と、じわりと垂れる汗。千崎は焚火の前に座る南の後姿をぼんやりと眺めていた。

 世闇の明かりが炎一つだと、どうしてか、視線が縫いつけられる。


「あ、綾。こっちおいでよ」


 南は千崎の存在に気づくと誘ってくる。

 横に座ると、南の横顔が炎で揺らめいていた。


「二人は?」 


 南はお風呂のほうを指差す。


「好きだねー」


 あの二人。相性がいいのだろうか。今日一日でそこそこ仲を深めていた。

 焚火の始める音に、二人は耳を澄ます。ふと、幸せな時間だなと、思わなくもなかった。


「綾、今日はあんまり酔わなかったね」

「咲宮に言われちゃったしね……」


 それに気になることもあって。今日の千崎は別のところに意識が向いていた。


「南さ、今日静かじゃない?」 


 千崎は聞いてみる。元々南はそこまで喧しいタイプでもないけれど。今日はそんな気がした。


「そうでもないって。もしそう思うなら、私、楽しんでたのかも」

「かもって。普通に楽しかったでしょ」

「……それもそうだね」 


 やっぱり、今日の南はおかしかった。言うなれば、ちょっとノスタルジー。


「綾、歩かない?」


 そう訪ねつつ、南は立ち上がるとどんどんと歩いて行く。ついて来いということらしい。

 南は進んでいく。山の中に入り、施設に許可された範囲もも超えて、奥に進んでいく。

 少し開けた、川のせせらぎが心地良い場所まで来ると南は足を止めた。川の傍でしゃがむと、足をつけて涼み始める。


「綾もどう?」

「いや足濡れるし」

「いいじゃない」


 南に促されて千崎も足をつける。座って眺めてみれば、いい場所だった。疎らに舞う蛍。南に視線を向ければ、そうはもう幻想的で。おとぎ話の一ページだ。


「なに見惚れてるの?」

「み、とれてないし……」 


 見惚れてた。がっつり見惚れてた。 


「綾は、将来の夢とかある?」

「急にどうしたの。そんなものないけど」

「私はあったの。昔ね」

「世界征服とか?」

「本気で言っている?」

「……だって吸血鬼だし」

「私たちは、そこまで特別な存在じゃない」


 南は川に手をつけると少量千崎にかける。


「こら」

「綾もかけていいよ?」

「私はそこまで子供じゃありません」


 南は微笑む。 


「何も変わらないのよね。何も、は言い過ぎかもしれないけど。でも変わらない」

「そうなの? 血吸ってる時点でおかしいと思うけど」

「それを言ったらあなたたちもおかしい。動物の肉を食らっている」


 それは、そうかもだけど。


「……南も肉食べてたけど?」

「そういう話じゃないでしょ?」


 ごもっともで。


「南はさ……」


 千崎は、口を開きかけて、閉じて。もう一度開いた。


「南はさ。どうして私を生かすの?」

「前に言った。血が美味しくて、面白そうだから」

「それは聞いた。前に聞いた。けど、私、ずっと納得で着なかった。南は変わらないって言ったけど、やっぱり変わるよ、特別だよ。そんな南が私みたいなの生かしておくの、危なくないの?」


 ずっと抱いてきた疑問だった。 


「そうね。……なら。綾はどうしてほしいの?」

「どうって。それは、わかんないけど。でもそっち側に引き込まないのかな、とかは考えた」

「眷属ってこと? 確かに、それもありかも」


 やっぱり、眷属とかいるんだ。 


「でもごめんなさい。私は眷属いないの。作ってこなかった。だからなりたかったら奈緒にでも頼んで」


 言われて、数舜考えて、結論はすぐだった。


「それはなし、かな。なるなら南の眷属がいい」

「嬉しいこと言ってくれるね」

「これって嬉しいの?」

「とっても」

「そうなんだ」


 千崎も、嬉しくなっていた。恥ずかしいから絶対言わないけれど。もしなったら、自分が初めてだ。


「私ね、恋したことないの」


 南は髪を耳にかけて、突然話し始めた。バーベキューのときの続きだろうか。恋バナ、実はちょっと気恥ずかしいのだけれど。茶化す雰囲気でもなかった。 


「どれだけ生きてきたか、もうわからない。遠い記憶も判然としない。でもこれだけはわかる。私、恋したことない。なんだか全てが面倒で。億劫で。先を考えると怖くなって。だから眷属も作れなくて。私、吸血鬼としては、実はポンコツなのよね。でも、とても長生き。それだけは優秀」


 記憶が判然としないくらい、長寿。千崎には想像もつかない世界だ。 


「綾は、長生きしてみたい?」


 南は千崎の頬に手を添える。それはまるで誘い。これに乗ったら、乗ったら……。私も――。


「なんてね。碌な物じゃないよ。吸血鬼なんて」


 揶揄われているだけだった。南は手を引く。それが勿体なくて、千崎は掴んで引き留めた。

 

「長生き、させてくれるの?」


 南は呆気にとられていた。自分でも驚きだ。少々、積極的過ぎて。


「言ったでしょ? 吸血鬼なんて」

「でも! 私は……!」


 そこまで言いかけて、千崎は次の言葉が出てこなかった。

 私は……。なんなのだろう。どうしたいのだろう。


「……ごめん、なんでもないや。戻ろっか」

「……うん」


 千崎は、その先を見つけられそうになかった。

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