第4話

「しゃーせー」


 千崎は今日も今日とてバイトだった。

 仕送りもあって、そこまでお金には困ってないのだけれど。まあ、暇なのだ。講義に出てレポート出して。それ以外特にないもない。そういう生活だったから。

 それはともかく、今日も今日とて客は来る。


「しゃーせー」

「十四番。お願いします」

「うげ……」


 一番来てほしくない客が目の前にいた。


「南さん。バイト先来ないでって言ったじゃん……」

「でもここ近いの。仕方ないでしょ」


 これも、最近の日常だった。毎度毎度、この人は千崎のシフトに合わせて来るのだ。もう何回、十四番の煙草を出したことか。


「千崎。今日暇?」

「バイト中なんで暇じゃないです」

「後のことを聞いてる」

「あー、ちょっと予定が」

「暇なのね。じゃあ外で待ってるわ」


 煙草を買い終えると南は外で煙草を吸い始める。そんな彼女の後姿を、見慣れてきた自分がいた。



          *



「お待たせ」


 バイトを終えて外に出ると、南は煙草を深く吸って、千崎に向かって吐いていた。


「臭い」

「千崎も吸う?」

「吸わない」

「残念」


 南は煙草を最後まで吸うと、灰皿に押しつける。そして千崎の正面に立って。抱きつこうとした。


「あれ」


 千崎は慣れた動きでそれを避ける。


「あのさ南さん何度も言ってるけど、もう吸わせないから。それじゃ、私帰る」

「待ってよ。いいじゃんちょっとくらい」


 今日こそはきっぱり断わろうと、去ろうとした千崎の後ろをついてくる南に、千崎は固い意思で言ってのける。


「私は、そういうのはいいから。普通の生活ができてればいいの。だからもう構わないで」


 固まる南を放ってその場を後にする。もう南はついてこない。いいんだ。これで。


「待って」


 突然、南の声が上から聞こえた。

 理解が追いつかなくて後ろを振り向けば南はもういない。


「今日はそういうのじゃないの」


 今度は後ろから声が聞こえる。振り返れば、そこには南がいた。


「なんでそこに……。どうやって」

「そんなのなんだっていいでしょ。それより」


 南はそっと前に出て、下から千崎を覗く。


「飲みに行きましょ?」


 それは想定外の、とても大学生っぽい誘いだった。

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