第5話 打ち上げ(in ファミレス)

 園芸部存続祝い&律月の入部祝いのため、二人は放課後ファミリーレストランへ来ていた。もちろん発案者はメア。定期圏内だったため、律月も特に異を唱えることはなかった。


 メアはドリンクバーを注文するやいなや、ありとあらゆる種類の飲み物をブレンドし始める。机の上に不気味な色のグラスをいくつも置いた彼女はニコニコしていた。恐らく、混ぜられるものは全て混ぜている。


「ファミレスって画期的な発明だよね! 人間界、サイコー!」

「まぁ、ファミレスの良さには同意しますけど……何ですかその罰ゲームみたいな色は」

「失礼な、特製メアブレンドジュースだよ!」


 メアが材料を口頭で並べる。オレンジジュース、黒酢ジュース、トマトジュース、ウーロン茶に青汁、後は何らかのソース類。頭が痛くなりそうなラインナップだ。


 彼女は美味しそうにそれをゴクゴク飲んでいた。

 ドリンクバーと一緒に、律月はビーフシチューを頼んでいた。密かに(先輩はハンバーグだろうな)と予想していたら、案の定メアの注文はデミグラスハンバーグだった。会ったばかりだが、既にこの先輩への解像度は高い。


「そういえば、メア先輩ってどこに住んでるんです?」

「あれ、言ってないっけ? 毎日魔界から通ってるよ!」

「へぇ」


 メアの放ったファンタジーワードに、注文の料理を届けに来たウエイターがギョッとする。しかし隣の律月が平然としているのを見て、(聞き間違いかしら)という表情をして去っていった。


 ほかほかの料理に二人して「いただきます」と手を合わせ、食べ始める。


「いくら人間界に興味があったって、通うの面倒じゃないですか? 魔界の高校じゃダメなの?」


 途端、メアが黙り込んだ。そして、それはそれは気まずそうに口を開く。


「……出禁なんだ、魔界の高校」

「は?」

 

 出禁。一体何をしたというのだ。

 メアはぽつりぽつりと話し始める。

 

「実はこの高校には一年の途中から転校してきてて、それまで魔界の中高に通ってたんだけど。実験で色々爆発させちゃったり、何やかんや……。中学の頃からもうマークされてたみたいで、ほとんどの高校に出禁食らっちゃったからさ。思い切って人間界に来ることにしたんだ!」


 何やかんやの部分も気になるが、出禁処分とはえらい不良生徒である。「わ、わざとじゃなかったんだけどね!」と小さな言い訳が聞こえた。


「人間界まで立ち入り禁止にされたら困るからね、こっちではそりゃあもう、平和にやってるの」

「ふぅん」


 魔界の説明を聞きながら、律月は卓上のパッドで、あんみつとカスタードプリン、さらに季節限定のフルーツパフェ(大)を注文する。あまりに大胆な注文にメアは慌てて財布を確認した。


「ちょっと、頼みすぎじゃない!? お金足りるかな……」

「大丈夫ですよ。俺も、魔法・・使えるんで」

「魔法?」


 メアはぱちくり瞬きをする。


 そう、魔法。律月の人差し指と中指の間には、クレジットカードが挟まっていた。表にはローマ字で”IMAI SUBARU”と刻まれている。


「昴から預かってたんです。『来栖と打ち上げするなら好きに使え』って」

「今井先生最高! よし、たくさん食べるぞー!」


 素晴らしい魔法に、魔女は注文用のパッドを嬉々として操作し始める。

 こうして後日、口座残高を確認した哀れな教師こと今井昴は、給料日前の顔を真っ青にしたという。

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