第6話 使い魔探し
園芸部部室に、メアの声が響き渡る。
「使い魔が!! 欲しい!!」
使い魔。それは主人に従い、時には手助けする魔の存在。
律月が反応しないでいるとメアは「欲しいっ! 欲しいっ!」と駄々をこね始めた。このまま無視すると、床に転がり始めそうだ。
「好きに持てば良いじゃないですか」
「人間界で使い魔の召喚魔法は禁止されてるの!」
「はぁ」
魔界にも法律があり、いくつかの魔法と全ての呪いを人間界で行使することは固く禁じられているという。
そもそも魔力を扱う難易度自体も、人間界と魔界で異なるらしい。
「住みは魔界なら、向こうで召喚すれば良いじゃないですか」
「でも夜まで
「じゃあどうしろっていうんですか」
しょうがないでしょ、と諌める。
「使い魔の代わりに、普通にペット飼うのはどうです?」
「魔女が普通にペットを飼うなんて! とんだ間抜けだよ、あり得ない!」
どうやらそれは魔女のプライドが許さないらしい。よく分からない感覚だった。
「あ!」
メアがポンと手を叩く。
「良いこと思いついた! 律月くんが使い魔になってよ!」
「嫌ですけど」
メアは首輪をつけた使い魔の律月をイメージしてみる。脳内の使い魔律月は、言うことを全然聞かず、従順のじの字もなかった。
脳内の彼は、主人の自分を揶揄っては次々と勝手な行動を始める。食べようとしていたおやつのクッキーは、ひょいっと彼に取り上げられ、目の前で彼の口の中に消えていった。
「あ、無理そう」
「当たり前でしょ。逆ならまだしも」
逆。メアは想像した。
使い魔律月は自らの首輪を外し、メアにそれをつける。王様のような椅子に腰掛ける律月が首輪の先の鎖を引っ張ると、汗だくのメアが慌てて走ってきて、大きな団扇で扇ぎ出した。「ねぇ、早く飲み物持ってきてくれません?」「はい、ただいま!」、使い魔メアは、完全にこき使われていた。
「やっぱいいや」
「諦めてくれたのは良いんですけど、何か俺に失礼な妄想してません?」
メアは口笛を吹いて誤魔化そうとした。下手だった。
その裏で律月は、不貞腐れた本音を隠す。
(使い魔なんて居なくても……俺だけいれば良くないですか)
「よし、懐いてくれた子を使い魔ってことにしてみよう! 暇だし!」
結局メアの一声で、校内での使い魔探し(暇つぶし)が始まった。まず飼育小屋を見に行くも、二人はすぐに引き返すことになった。
「あのウサちゃん、誰がお世話してるんだろうね」
「用務員と馬術部らしいですよ」
「流石に既にお世話されてる子を拝借するのはね……」
先頭のメアが突然、ピタリと足を止めた。後ろの律月も立ち止まる。
メアの視線の先には、裏庭の真ん中で毛繕いしている黒猫。首輪が無いところを見ると野良のようだった。少し身体は汚れているが、黒い毛並みと黄色い眼は人目を引く。
「あの子!」
そろりそろりとメアが黒猫に近づいていく。目をギラつかせながら自分に向かってくる怪しげな女に気づいた黒猫は、当然のように走って逃げてしまった。
「あぁ! 行っちゃった」
「遠かったし、無理ありましたって。次探しましょ」
「嫌だ! 黒猫ってなんか使い魔っぽいじゃん! あの子が良いよぉ!」
「なんでも良いですけど」
メアは大袈裟に嘆く。二人は一度部室に戻り、先ほど見た猫を手懐ける方法を考えることにした。
たまたま近くを通りかかった用務員に聞いてみると、あの黒猫はよく校舎内に入ってくるらしい。住み着いてるのではないかと言っていた。
園芸部の部室の棚をゴソゴソと漁ったメアは、何かを取り出す。
「じゃじゃーん! 見てよコレ!」
「何ですか」
「魔法の粉!」
危なそうな響きに、違法薬物か何かかと疑った律月はメアの手の中から箱を奪い取るが、箱の文字を読むとため息をついた。
「なんだ、マタタビじゃないですか。あんまり使いすぎると猫に良くないですよ」
「分かってるって!」
二人はあの黒猫を見つけるため、再び校舎を散策することにした。しかし、何時間探しても見つからない。
「今日は一旦諦めましょ。それにマタタビで釣ろうなんて、やっぱり良くないですよ」
「うぅ……」
がっくりと項垂れたメアの視界の先。黒く細長い何かが動いているのが見えた。
「あっ、あれ!」
メアが指差した先には、先ほど見た黒猫。その左の後ろ脚周りの地面は、赤黒く濡れていた。
「怪我してる!」
体毛が黒くて見づらいが、確かに脚が傷ついているようだ。近くに人が寄ってきても逃げられないくらい、黒猫はぐったりとしていた。
「大変だ、手当しないと!」
メアは血で汚れるのも構わず、自らの白ブラウスに包むように猫を抱き上げる。猫は最初こそ身をよじろうとしたが、すぐ諦めたようだった。メアに害意がないのも伝わったのだろう。
二人は猫に振動を与えないように、素早く部室へ戻る。
律月が猫を床に寝かせている間に、メアは薬草を凄い勢いですり混ぜた。複数の液体と混ぜ合わせたそれを掬い取り、ガーゼに塗り込む。それを怪我している脚に当て、上から包帯を巻きつけた。
「ふぅ、これでヨシ!」
献身的な手当ての結果、黒猫は数日で回復した。そして二人に懐いたのか、よく部室に遊びにくるようになったのだった。
「動物って薬草の匂いとか嫌いそうなのに、よく来てくれますね」
「鼻がおバカさんなのかにゃ? まぁ、平気そうにゃらいいかにゃ〜」
気の抜けた語尾で喋るメアは、蕩けた顔で毛並みを撫でていた。彼女の膝で猫は喉を鳴らしている。
「よし、キミの名前はポチ2号! 今日から私の使い魔だよ!」
「それ一般的には犬につける名前ですよ。ちなみにポチ1号は?」
「昔飼ってたヤモリ!」
「普通にペットも飼ってたんじゃないですか!」
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