第8話

光さんに抱きしめられたまま、あたし達は砂浜に座る。



ただ海を見る。




「あの子ね、海ちゃんに一目惚れだったのよ」



「……えっ!?」




一目惚れ??




「海ちゃんが初めてこの町へ来た日。母ちゃんっ、あの子っ、あの子可愛い!!誰!?って大はしゃぎだった」



「可愛い……」




そんなこと言われたこともない。


あたし達は海が大好きなケンカ友達で。




「海ちゃんが帰ったあとはいつも泣いてたのよ?」



「そーなんですか?」




ケロッとしてるように見えたけど。


あたしだけがいつも寂しいんだと。



でも違ったの?


太洋、アンタもあたしと別れるのが嫌だったの?



あたしのことを好きでいてくれたの?




「……っ……ふぅっ」



「海ちゃんも、好きでいてくれたのね?太洋を」



「はいっ。……大好きっっでした!!太洋がっ」



「ありがとう、ありがとう。あの子を好きになってくれて。短かったあの子の生涯に恋を教えてくれて、ありがとう。あの子と共に夏を生きてくれてありがとう」



「そんなっ」



「海に伝えてって」



「え?」



「俺の分も幸せに」



「っっ」



「最期までアナタを想っていたわ」




太洋のバカタレッ。



アンタが居ないのにどうやって幸せになれというのかっ。




「光さん」



「ん?」



「あたしあの日、太洋に呼ばれたんですよ」




アレは確かに太洋の声だった。




「そう。最期に会いに行ったのね」




会いに来てくれたの?


最期にあたしに会いたいと思ってくれたの?



潮風が優しくあたし達の頬を撫でていく。



“海ーーっ”


“太洋ーっ”




小さなあたしと太洋が手を繋いで砂浜を走る幻が見えた。




ここにはたくさんの思い出があって。


太洋ーー。


ここに来れば、いつでもアンタに会えるんだね。



わかった、わかったけれど今は




「あああああああああああっ!!」




泣かせて。

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