第31話 私の王子は素直です

「……可愛い、大好き」

「……はい」

「好き、可愛い、愛してる」

「……」

 庭のベンチで、王子が甘く囁いてくる。どうしてもまだ慣れなくて、顔が赤くなってしまう。

「ふふ、可愛い、赤くなってる?」

「……」

「好き、」

「……ギブアップで」

「? ギブアッ、プ……?」

「もう、無理です」

「え、」

王子はわかりやすく、ガーン、という顔をする。

「無理、というか、まだ慣れないんです、王子に好きっていうの」

「……ふふ」

「王子のこと、その、好き、ですけど、大好きですけど、王子が」

「えっ、可愛い……」

「ちょっと、話聞いてください」

「あ、ハイ……」

言葉を遮った王子はピシッと座った。

「王子が普段するみたいに、素直になれなくて……でも、頑張って、そのうち素直になります、なる予定です……」

「そのうちかぁ……今じゃだめ?」

王子はあざとく首を傾げて言ってきた。

「……王子、」

「うん、なあに?」

「す……」

「……」

沈黙が流れる。顔が赤くなってくる。

「好き、です」

「……」

「王子?」

「もう、俺、耐えられない……」

顔に手を当てて王子が真っ赤になる。プシューと音が出そうなほど、ベンチの上で崩れ落ちた王子を見ていたら、不思議と追い打ちをかけたくなってきた。……なんだか、今ならいけそう

「……王子、好き」

「へ?」

「大好きです」

「え、え、待って」

「待ちません、好きです、王子」

「……!!」

「好き……」

思い切って耳に囁いてみる。王子の耳が真っ赤だ。

「……」

「王子?」

「……」

王子が固まってしまった。やりすぎたかも。思わず笑ってしまう。

「ふふ、王子、照れすぎですよ」

「き、君ってほんと、急に大胆というか……!」

「ふふ、王子を照れさせるの、楽しいかもしれないです」

「う、嬉しいけど……!」

顔が真っ赤になったまま、王子はベンチに座り直した。

「……よし」

「な、なんですか」

急に距離を近づけてくる。

「や、ちょっと王子、なんですか!」

「な、なんですかって、なんですか?」

「え、え、!?」

そうやって騒いでいるうちに、王子は私の耳のところに、ふっ、と息をかけてきた。

「ちょっ、ひゃあああっ」

「ふふ、俺の勝ち」

顔が熱くて死にそうになる。王子が勝ち誇ったようにニコニコ笑う。今起きたことが信じられなくて、耳に手を当てたまま震える。

「……!…!」

「あは、そんなにびっくりした?」

「びっ、びっくりどころの騒ぎじゃないです……!」

「ふふ、楽しい、君の反応面白いし」

「王子に言われたくないです」

「なっ、もう……」

王子に抱きしめられて、思わず黙り込む。

「……王子の心臓の音が聞こえます」

「えっ、ふふ、聞こえる?」

王子の心臓の音が速くなっているのが聞こえた。


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