第30話 私の王子はやっぱりかわいいです

「……ふふ」

 前まで凹んでいたのが嘘みたいに、王子は元気になった。今日も王子の部屋で、彼はニコニコ笑っている。

「王子、何かいいことでもあったんですか?」

「うーん……可愛い君が今、目の前にいてくれることが、俺のいいことかな、ふふ」

「そ、そうですか……」

相変わらず、王子の口からは甘い言葉がどんどん出てくる。なんだか悔しくなって、私はギリギリ聞こえるかもしれない声で呟いた。

「……可愛いのは王子だと思いますけど」

「……え、か、かわいい? 俺が?」

「はい、王子は可愛いです、とっても」

「えっ、そ、そう……?」

混乱している所も可愛い。

「世界一可愛いと思います」

「……うん、まぁ、嬉しいんだけど、なんていうか……複雑?」

そう言いながら照れつつ首を傾けるのも可愛くて、私は気が気じゃない。

「……君の方が百万倍可愛いのに」

口を尖らせながら、王子は拗ねたように言う。ほら可愛い。

「いえ、王子は私の一千万倍は可愛いです」

「は、はえ……」

恥ずかしいのか、顔を赤くしている。そこも可愛い。少し乗り出して、王子が座っている椅子の手かけに手を置いて、王子の上に自分の影を作った。

「……外で可愛いを出しちゃだめです」

「出す……?」

「可愛いは外で禁止です、お城の中だけにしてください」

「いや、そもそも出してるつもりないんだけど……」

「王子!! 今また出しましたね!?」

「ええ!? 今出たの!?」

「……私の心臓が持たないです」

そのまま王子の胸に飛び込む。頭を抱きしめられて、優しく手で撫でられた。

「ふふ、やっぱり君の方が可愛い〜」

「……ちょっと不服です」

「えぇ、でも……」

王子は私の顔を見て、ニヤニヤとして言った。

「世界一ってことは、俺が一番好きってこと……?」

「……そう言ってるじゃないですか!」

「ふふ、可愛い〜!」

「王子はいっつも、可愛いって言い過ぎです!」

「あは、可愛い!!」

二人で笑い合う。涙が出るまで笑って、少し経つと後から変な恥ずかしさがやってくる。

「……もう俺、君と居ると……幸せすぎて、どうにかなりそう」

「……私もです」

「……」

「……」

気恥ずかしい空気が流れて照れていると、外からノック音がして、慌てて二人で距離を置く。じいの声が聞こえた。

「失礼しますよ、坊っちゃん」

「う、うん」

ガチャリと音がして、じいが入ってくる。

「美味しいお菓子をお持ちしたので、お二人でお食べになってください」

「わ、美味しそう、ありがとう!」

「ありがたくいただきますね」

「……いえ、では…ンフフ、失礼します……ンフフ……」

じいがやたらニヤニヤしながら、すぐに部屋を出ていってしまった。

「もし聞いてたら、ちょっと、恥ずかしいな……」

「えっ」

あの反応は……確かに聞いていそうだ。

「……ま、いっか。いろいろあるけど、どれにする? 好きなの、先選んでいいよ」

「いえ、王子はどれがいいですか?」

「うーん、君は?」

「王子こそ、どれがいいんですか?」

「……」

「……」

お互いに一歩も引かないまま、沈黙が流れる。

「……君って、結構強気なところあるよね」

「え、あっ、すみません……」

「あ、違うよ、その……そういうところも、好きだし……」

「……ありがとうございます」

王子の好きという言葉が、内心飛び跳ねたいくらい嬉しい。

「……じゃあ、いっせーので行きましょう」

「おっ」

「一緒だったら半分こして、他のも1個ずつ取る、それでいいですか」

「わかった!」

「じゃあ、行きますよ? いっせーの!」

私は勢いよくいちごタルトを指さす。見上げて王子を見ると、王子はふふ、と笑ってるだけで指をだしていなかった。

「……王子、それは反則ですよ!?」

「あ、いやいや、俺はどれでも良かったから……それにしても、ふふ、凄く元気に指さしてて、可愛かった……ふふ」

「……ずるいです」

「ふふ、ごめんね? あ、じゃあ、これにしよっかな」

王子がモンブランを取って座る。私もタルトを取って横に座った。

「……あの」

「ん〜? どうしたの?」

「モンブランも、一口貰ってもいいですか?」

「もちろんいいよ、ふふ」

「あ、ちゃんと一口返すので!」

「うん、わかったよ、ほら、あーん」

王子が大きめに一口とって、私の顔の前に出した。

「……お、美味しいですね」

「ふふ、ね、美味しい」

「私のもどうぞ」

「じゃあ貰おっかな」

「……あーんじゃなきゃだめですか?」

「えっ? してくんないの?」

「……そ、その…恥ずかしくて」

「ふふ……」

「今、また可愛いって言いそうになりましたね!?」

「だって可愛いなって思って……俺にそうやって照れてくれるのが嬉しくて……」

「……そ、そうですか」

本当に幸せそうに話すので、また恥ずかしくなる。私は控えめに、イチゴがのったスプーンを差し出した。

「……あーん」

「あ、してくれるんだ、やった!」

自然と彼が上目遣いになって、もぐもぐとケーキを食べた。なんというか、リスみたいで……

「……可愛すぎます」

「……えっ、また俺!?」

「だって、もう、そんなに可愛くて無自覚なの、おかしくないですか……?」

「えー、君から可愛いって言われると、変な感じする」

「ふふ、だって可愛いですし」

「……」

また王子は口を尖らせたと思うと、私の顎に優しく指を添え、少し顔向きを上げさせてから、軽くキスをした。


「……かっこいい?」

「……は、はい」

「ふふ、甘かったね」

「あ、あま……!?」

今は、まだ恥ずかしくて顔が見られない。

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