第29話 私の王子は笑顔です

 王子の部屋で、王子にずっと抱きしめられている。

「……元気だしてください」

「……」

背中をまたポンポンするけれど、彼は泣きそうなままだ。

「……好きなの?」

「え?」

「兄さんの、こと……」

強く抱きしめられて、王子の顔が見えない。怯えているのか、体が震えている。

「好き、というか、なんというか……」

お兄様の、あの極端な一面は王子は知らないわけで……どこまで言っていいのか言葉に悩んでいると、王子はため息をついた。

「俺が元気ないから、だよね……」

「王子、どうしたんですか」

王子は少し悩んでから、囁くように話し始めた。

「なんか今日、兄さんが優しかった……」

「そ、それは良かったですね! きっとお兄様も心配して……」

「……君が何か言ってくれたんでしょ?」

「エッ……」

バレていたことに変な汗が出てくる。

「い、いや……その……」

「……やっぱり」

「誤解です、私は……」

「……二人で俺に嘘つくくらい、仲良しなんだ」

低い声で王子が呟く。思わず戸惑う。

「お、王子……?」

「……俺、今、凄く苦しい」

また抱きしめられる力が強くなり、きゅっと締め付けられる。

「王子、ごめんなさい、余計に不安にさせて……」

「……俺、ごめん」

声が震えている。またポロポロと王子が泣き出した。

「君を笑顔にするって、約束したのに」

「……十分すぎるくらい、笑顔にしてもらってますよ」

「怖いって怯えて、元気なくして、こんなに嫉妬して苦しくて……」

「……」

「でも、君に、見捨てられたくない……」

王子は、また苦しそうに私を抱きしめる。




……私は、王子の腕を引き剥がした。一瞬、王子が悲痛な表情になる。見捨てられる、とでも思うんだろうか……?



私は王子に、キスをした。




「見捨てるわけ、ないじゃないですか」

涙が勝手に出てくる。唇も震える。目を見開いたまま、固まった王子を見上げる。

「なんで、そんなことを言うんですか」

「……え、」

「私が、好きなのは……本当に、心から、好きなのは、」

王子の目を見る。

「……好きです、ずっと好きです、愛してます」

「……」

「誰よりも、好きです、王子が好きで、私だって苦しいんです、キスだって、待ってたのに……!」

ボロボロ泣いて、これじゃ、私の方が好きみたいだ。

「ま、待って、」

「待ちません、もう、言っちゃったから……!」

「これ、夢……?」

「夢じゃないですよ、わからないなら、またキスしますか!?」

「え、待っ、待って……」

やっと状況に理解が追いついてきたのか、王子の顔が赤くなる。

「……」

「王子、私……」

「嬉しすぎて、どうしよう、俺……」

いつものように笑顔になった王子が、戸惑いながら私のことを抱き寄せる。

「……王子」

「うん……」

「……好きです、大好き」

「……どうしよう、俺……もう明日死んでもいいかも」

「死んじゃダメですよ!!」

「わ、わかってるって、ふふ」

王子の顔を両手で挟むと、王子が笑う。

「ふふ、なに?」

いっぱい泣いて、でも、嬉しそうにして私を見た。

「王子が笑ってくれた……」

「うん……うん、あは、俺が笑顔にさせるって、言ったのに」

「いいんですよ、細かいことは」

王子は私に顔を近づけた。

「……好き、ずっと、君が好き」

「はい……」

「……ねえ、キス、してもいい?」

「……いいですよ」

言った瞬間、すぐに口づけられた。

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