第33話 私の王子はぐっすりです
王子が仕事から帰ってきて、私が部屋で出迎えた時のこと……
「……疲れた」
「お疲れ様です」
「うん……」
座りっぱなしの長い儀式と、交流を含めた昼の食事会、そして移動と、朝出かけてから空が暗くなるまで働いて、疲れ切った王子が入り口で私に抱きついて動かなくなった。
「……王子、お疲れ様です」
「……うん」
抱きしめられながら彼の背中をポンポンと叩く。
「お夕飯あるそうですよ、あとお風呂も」
「……君がいい」
「そうですか……」
「……」
よっぽど疲れているのかもしれない。黙り込んだまま、私を抱きしめてじっとしている。
「いつものソファ行きませんか」
「……」
そう言うと、私がソファにたどり着くまでもずっと抱きしめたままで、一度座ってもまた正面から抱きしめ直された。
「……」
「王子、相当お疲れですか」
「……動く元気もでない」
「そうですか」
疲れで声が掠れている。王子を抱きしめ返したまま長い事待っていると、王子が甘えたような声を出した。
「……ねえ」
「なんっ、どうしましたか」
抱きしめられているせいで耳元に唐突に囁かれて、思わず変な声が出た。
「……甘えていい?」
「い、いいですよ、王子なら、いくらでも」
「……」
すると王子は、私の膝にゴソゴソと頭を乗せて、目を閉じた。
「……」
「王子?」
「……」
「……えっ、寝ちゃいました?」
無防備な王子の寝顔がすぐそこにある。ものの3秒で寝た……?
「……」
どうしよう、凄く可愛い……寝ているせいか、目元が緩くなっていて普段より子供っぽく見える。
「ふふ」
思わずニヤニヤしてしまう。そっと起こさないように髪の毛を優しく撫でてみると、少しすり寄ってきて身悶える。心の中で可愛い…!と叫んだ。
「……大好きです」
「……」
「……好き」
どうせ聞こえてないと、小声で言ってみる。王子はスヤスヤと寝たままだ。
「……好き、可愛い」
撫でながら幸せな気持ちでいっぱいになって、私も寝そうになる。眠くなってきて目を少し擦ってから、王子のおでこに静かにキスをした。
「……おつかれさまです」
そのままソファにもたれて、ゆっくり意識を手放した。
……王子と初めてキスをしてからというものの、なぜか毎日のように王子の夢を見る。まぁ夢の中でもイチャイチャしているばかりだし、よっぽど王子のことが好きなのかもしれない、そう考えると少し恥ずかしい。
チュン、チュン
「…………」
鳥の声がして目覚めると、なぜかベッドの上で、王子の頭を胸元に抱きしめていた。王子がスヤスヤと寝ている。 カーテンからは朝日なのか昼の太陽なのか、分からない日差しが漏れていた。
「すー……」
「……」
二度寝してもいいかもしれない、と思った瞬間、あくびが出てしまう。
「ふぁ、あ」
「んん、」
王子がそれに気がついて、目を開けて、ゆっくりと口を開いた。
「ん、おはよう、」
「王子、おはようございます」
そう言ってから、またあくびが出てしまう。
「ふふ、」
「眠いです、寝たのに……」
「ソファだと体痛めちゃうと思って運んだ時に、一瞬だけ起こしちゃったみたいで……そのせいかも、ごめん……」
「……運んでくれたんですね」
「うん、そう……あのあと」
「ああ……」
よく考えたら、昨日は膝枕をして寝たんだった。
「最近、王子が夢に出てくるんですよね……」
「えっ、そうなの?」
王子が私の顔を覗き込む。
「……はい、いっぱい」
「ふふ、嬉しい。俺と夢でも会ってくれたの?」
そう言うと、王子は私をぎゅーっと抱きしめた。
「王子の夢の中にも、私って出てくるんですか?」
「しょっちゅう出てくるよ」
「しょっちゅう……??」
「ふふ、ほぼ毎日かな、ずっと。でも最近は、ちょっと減ってきた」
「えっ、減るんですか」
少ししゅんとして王子を見ると、王子は軽く首を傾げた。
「なんでだろ、君とこうして現実で欲望を叶えてるから、かも……?」
そう言うと、今度は口にキスをする。ちゅ、と音が鳴った。
「欲望……ですか」
「だめ?」
「……だめじゃないけど、恥ずかしいです」
上目遣いで言われて、熱くなった顔を背けると、王子はまたギューッと私を抱きしめた。夢で私と何してるんだろう……というか、王子の欲望ってなんだろ……
「ふふ、照れてる〜」
「お、王子〜……」
「はぁ、幸せすぎる……こんなに可愛い生き物が現実にいてもいいのかな?」
「な、何を言って……」
「可愛すぎて、たまに信じられない……でも触れるし、てことは現実……ふふ、幸せすぎる……俺はなんて幸せなんだろう……」
「……」
「はぁ、幸せ……」
呆気にとられている間に、王子がまた抱きしめながら、幸せそうにため息をついた。
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