最終話 私の王子は……です

 ウェディングドレスを脱ぐのが、ちょっとだけ寂しかった。着替えた私は今、王子の部屋の、扉の前にいる。

「……」

なぜか緊張してくる。深呼吸してから、扉を叩いて声を掛ける。

「……失礼します、王子」

「うん、来て」

入ると、もう外も暗くなっていて、王子は窓から夜景を見ていた。振り返って、王子が笑う。

「……景色を見ていたんですか」

「うん、今日、幸せなことがありすぎてさ……」

「わかります、幸せすぎて……」

「ふふ、ドレス、凄くかわいかった、綺麗だったよ……」

「ありがとうございます、王子」

「俺のお嫁さんは、こんなに素敵なお嫁さんなんだぞーって、皆に見てもらえて、凄く幸せ。あと4日後にまた、国であげなきゃいけない式もあるし、でもそれはまた堅苦しい感じになるだろうから……」

「……ちょっと緊張します」

ついに、公式な場で結婚を発表しなくてはならないと思うと、背筋が伸びる思いだ。

「だよね、俺も……」

「ふふ、王子も?」

「そりゃそうだよ……」

笑った王子の横に座る。暗がりで見る王子の顔が、なぜか胸を苦しくさせた。

「……なんか、変な気持ちです」

「……変? 嬉しいとか?」

「……そう、ですけど、あれ、なんでだろう」

悲しいような、泣きたくなるような気持ちになる。目元が熱くなって、戸惑う。こんなに幸せな日なのに、どうしてだろうか。

「……おう、じ?」

「……? 大丈夫、そばにいるよ」

王子に抱きしめられる。頭を撫でられて、なぜか、涙が出てきた。

「……なんで、泣いてるんだろう、私」

「嬉しいからじゃない? 実は俺も、君が来る前、少し泣いてた。ふふ、」

「……そう、ですよね」

彼の髪に触れた。王子は、にこりと笑った。

「……大好き」

「……王子、私も大好きです」

「うん……」

また強く抱きしめられる。なぜか手が震える。

「幸せすぎて、怖いんだと思います、たぶん」

「……」

「……王子、大好き、好きです、」

「俺も、大好き」

「……」

なぜか、手の震えが止まらない。何を恐れるというのだろうか、王子の全部を、愛しているのに。キスだって、初めてしたのは、この部屋で、私が……

その瞬間、ずき、と頭が痛んで、思わず手で頭を抑えた。

「……大丈夫? 頭、痛いの?」

「……少し痛いです、心も痛くて」

「そっ、か……」

「どうして……でしょうか、」

どうして、こんなにも苦しいのか。胸を手で抑える。なぜ、王子も泣きそうなのか、私にはわからない。王子の顔を見ると、胸が締め付けられる。

「……おう、じ、私、おうじが、大好きです」

「……俺も」

王子が私を見つめて言う。

「……キスしてもいい?」

「……はい」

……ゆっくりと近づいて、初めてのキスのように、彼の唇が、優しく口に触れた。

「……愛してる」

「私も、愛してます、王子」

「……うん」

「私の、王子様……」


〜Fin〜

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私の王子は〇〇です! 天野いあん @amano_ian

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