第39話 私の王子は花婿です

 今日、私達はついに、結婚式を挙げた。


 式が終わってから、参列した人達は食事を取りながら雑談をしている。王子に手を引かれて、改めて、皆に挨拶をしにいくことにした。

「……ふふ、可愛いお嫁さんを自慢したいから」

「は、恥ずかしいので、そういうのは……」

「いいんだよ、今日くらい」

 ウェディングドレスの長いスカートの裾を持ちながら、王子と母のところに行く。さっきの手紙からずっと、お母さんは大号泣していた。

「やだ待って、私まだ、涙が……」

「ふふ、いいよ、別に泣いてたって」

「そういう問題じゃないのよ、ああ、可愛い……ドレスほんとに似合ってるわ」

お母さんに抱きしめられる。

「……ほんとに可愛いですよね、俺、幸せです」

「ふふ、旦那さんも素敵よ」

「お母様……ありがとうございます。どうしよう、お母様が泣いてるの見たら、俺まで泣きそう」

「王子はさっきもう泣いてたじゃないですか」

「な、なんで、何回泣いたっていいでしょ」

「ふふ、そりゃ良いですけど」

そこに、国王陛下がいらっしゃった。

「……お母様、改めて、本当に、ありがとうございました」

「……いえいえ、陛下、恐れ多いです、すみませんね」

「いえ、本当に、心から感謝しております、結婚をお許しいただけたこと、私からも、お礼をさせていただきたい」

陛下直々に礼をしたので、お母さんは顔をあげなさってくださいと焦ってうろうろする。

「……お母さん、ありがとう」

「……貴方が幸せになってくれたらそれでいいのよ」

お母さんのとびきりの笑顔を見た。抱きしめられてから、二人でじいの所に行った。


「……じい」

「……坊っちゃん、大変ご立派になられて、じい、じいは、ううぅ」

お母さんよりじいの方が泣いているかもしれない。大号泣のじいに、王子は言った。

「ふふ、最高のお嫁さんでしょ」

「はい、本当に、お嬢様、大変お美しいです、うう、うぅえええ、ううぅ」

「じい、泣きすぎだよ、ふふ」

「ずっと涙が止まりません、坊っちゃんは本当に……お嬢様、じいが人生をかけて保証します、坊っちゃんほどの方はいらっしゃいません、ですから」

「ああ、わかったって、じい、ありがとう」

「……じい、私からも、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

私が礼をすると、じいはまたおんおんと泣き出した。

「……坊っちゃん、他の方にも自慢しに回るのでしょう、じいはもう、満足いたしました、ぜひ、皆様に見ていただいてください、メイド達も代表して、じいからのお願いです」

じいの後ろの陰から、メイド達の「うええぇぇん」「おおおぉん」という泣き声が聞こえる。

「わかってる、ありがとう」

「ありがとうございます」

「ふふ、じゃあ行こうか」

じいに手を振って、私達は歩き出した。


「うわ、待って、ふふ。あそこの端っこで大泣きしてるの、俺の親友なんだ。ちょっと挨拶してもいい?」

「勿論です!」

 見ると、本当に端っこの柱にもたれかかって、彼は大号泣していた。

「……! お前、俺にまで挨拶をしに……そんなのいいのに」

「ちょっと、泣きすぎじゃない? 嬉しいけどさ」

「良かったな、本当に……」

「ふふ、ありがとう」

「奥さん、こいつ至らないところもあるけど、良いやつなんで……ほんと、お幸せに……あ、だめだ、もう俺涙止まんねえ……」

「はい、ありがとうございます」

「また今度、話しにきなよ。俺が新婚だからって遠慮しなくていいから」

「ああ、俺ちょっと泣きすぎてフラフラするから、水飲んでくる……お、お幸せにな……! ズビッ」

「あ、うん……」

本当にフラフラと横に揺れている。少し心配になるが、彼はなんとか歩いて去っていった。


 王子の手を繋いで、今度はどこに行こうかと考えていると、後ろから走ってくる音がした。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ご結婚おめでとうございます」

「わ、これ私に? ありがとう」

王子の従兄弟だ。折り紙で作ったお花のようなものと、手紙を渡された。

「ちゃんと、俺のお嫁さんになったでしょ?」

「……うん、お兄ちゃん、お姉ちゃんを幸せにしてね」

「お、本当にいい子だな、お前は」

王子が上に抱きかかえると、嬉しそうに笑った。……と、思ったら、急に真剣な顔をして、私のほっぺにキスをした。

「……お姉ちゃんを幸せにできなかったら僕が貰う」

「え、はっ!? え!?」

「ふふ、あはは」

突然のことに王子もびっくりしている。それを見て思わず笑ってしまう。

「な、笑ってないでちゃんと断ってよ!」

「はい、すみません、ふふふ」

「というか、人のお嫁さんにキスするとか、お前……!!」

「お兄ちゃん怖っ、おとなげなーい」

「な、お前…!」

「あはは、ふふ、」

笑いが止まらない。王子は下ろしてからちゃんと向き合うと、ちょっと悪い顔をした。

「……一生幸せにするって約束したから、ずっと俺のお嫁さんだからね、残念でした」

「ふん、いいもん、お姉ちゃん、僕のこと忘れないでね」

「忘れないよ、また今度遊ぼうね」

「うん、お姉ちゃん大好き!」

そう言うと、照れてまた走って行ってしまった。

「ええ、俺は……?」

「ふふ、本当に可愛いですよね」

「え、だめだからね!?」

「わかってますよ、ふふ、面白い」

笑っていると、横からお兄様が覗き込んできた。

「なに、どうして笑ってるの?」

「……兄さん、この子は今日からもう俺のお嫁さんなので、もし万が一、また何か変なことを言ったら、俺は」

「おー怖、大人げないな」

「兄さんは大人でしょ!? というか、また盗み聞きですか!?」

「ふふ、そんなに怒るなよ。てっきり式には呼ばれないかとすら思ったが、こうして呼んでくれるってことは、やっぱりなんだかんだ、この兄に感謝してるということだよな」

「……今から帰らせてもいいんですけど、呼ばなきゃ良かったかな」

「なんでだよ、おかしいだろ、というか式はもう終わっただろ」

また兄弟で言い争っているのがおかしくて、思わず笑ってしまう。

「ほんと、綺麗なお嫁さん貰って。兄さんは誇らしいよ。幸せにしろよ」

「どの口が言うの、ほんと……」

「お前はもう少し俺に優しくしろ」

「いやです」

「……ふふ、じゃあな……あ」

そう言うと、お兄様は私に耳打ちした。

「……またなんか困ったら、俺に相談しろよ」

慌てて王子は私を引き寄せてお兄様と引き剥がすと、私を抱きしめた。

「兄さん!!!」

「……あの時の仕返し」

べっと舌を出してから、お兄様は悪い顔で笑った。

「ちょっと!」

「ふは、悪かったって。じゃあな、幸せになれよ、お二人さん」

手をひらひらと泳がせて、お兄様は行ってしまった。

「な、なんて言われたの、大丈夫……!?」

「え、ええ……?」

「ああ、もう、またやられた! 俺のお嫁さんなのに!!」

地団駄を踏む王子がなぜか子供っぽくて、可愛く見えた。

「ふふ、王子可愛い」

「え、えっ!? もう、君まで……」

しゅんとしてから、王子は気を取り直して、私の手を強く握った。

「……ふふ、ねえ、このあと抜け出してさ、俺の部屋行こうよ、ゆっくりしていいって言われてるし」

「そうなんですか?」

「うん、二人きりで過ごそうよ、二人きりで!」

「はい、ふふ」



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