第20話 私の王子は真面目?です

「はぁ!? なんでそこでキスとかしねえの!?」

「え、ええ……?」

はぁ……俺はやっぱり、恋愛下手なのかもしれない。



 親友に夏の思い出を聞いてもらっていたら、夕焼けでいいムードだったと話した途端、突然立ち上がって叫んだのでびっくりした。

「……夕焼けが見える海で二人って、絶対チャンスだったんじゃね!?」

「えっ、た、確かに……? でも、彼女の気持ちもわかんないのに、キスなんてだめなんじゃ……」

「いや真面目かっ! お前、キスしたくねえの??」

「……そんなことない!」

つられて俺も立ち上がる。

「お前も男なら、キスはしたいだろ!?!?」

「したい、めっっちゃしたい!! 可愛すぎてすっごくしたい!!!」

「じゃあしろよ!!!!!!」

「う、うん……」

「いい加減にしろよ!!お前らもどかしすぎんだよ!!ヘタレかお前は!!真面目かお前は!!」

「おあずけしちゃったんだよ!!!」

「……?? おあずけ…??」

「えっ、あっ、なんでもない……」

「まぁいいけどよ……いいか、お前、間違えてビーチバレーで守った拍子に押し倒したとか意味わかんねえこと言ったよな、そんな王道すぎる展開、ありえねえと俺は思うけどな!!?」

「え、うん……」

「そういう時なんで攻めないんだ!!お前は!!」

「ええ、無理だよ……あの時は皆もいたし……」

「……はぁ」

「落ちついた……?」

「落ちつくか!!!!」

「……うん」

声が大きい……あの子に聞こえちゃいそう……

「……お前、エッチなこと考えねえのか」

「へ……!?」

「お前には下心とか、そういうもんはねえのか!? ああ!?」

「……」

「……なぜ黙る」

「……」

「おい」

「そんなの……!」

「……!」

「そんなの、あるに決まってるだろ……」

恥ずかしくて、どうしようもなくて、俺はその場で真っ赤になってへたり込んだ。

「……お、おう」

「俺だって……俺だって、男だし……」

「……」

「……泣きそう」

「……泣いていいぞ、俺しか見てねえんだから」

「……うん」

謎の感動がやってきて、親友と泣きそうになりながら抱きしめあう。

「……思いっきり、泣けよ」

「うん……」

その瞬間、部屋の扉に、ノック音が響いた。

「え!?」

「やべ」

慌てて離れて座る。

「……すみません、私です。お邪魔してもよろしいですか……?」

「え!? い、いいよ……」

「失礼します……あの、じいが先程、お土産を渡してきて欲しいと仰って……それがこれなんですが……」

「す、すみませーん、わざわざいいのに……あはは……」

「いえ、お礼ならじいに……それでは、失礼します」

バタン、と扉が閉じる。

「……もし、会話聞いてたらやべーな」

「俺、もうやだ……」



 その日の夕食、いつものように過ごす食事の時間なのに、なぜか少し気まずい空気が流れていた。

「……あ、このローストポーク美味しいよね」

「そうですね」

「……」

「……」

嫌われてしまっていたら、どうしよう……俺、君に嫌われたら生きていけないのに……。

「……あのご友人と、仲が良いんですね」

「え、うん……」

「実は、少し話を聞いてしまって」

「…え、」

冷や汗が吹き出てくる。

「泣きたい時にそばに居てくれる友人って、素敵ですね」

「え、あ、そう! そうだね!!」

彼女の言葉に、胸を撫でおろす。

「……私、そこまで仲の良い友達はいないので、素敵だなと思って」

「……そっか、俺も昔はいなかったけど」

「ふふ、あの方とはいつ知り合ったんですか?」

「あいつとは……」

まずい、この話はしちゃ駄目だ!

「…?」

「ちょ、ちょっと、その」

「……」

「いろいろあって……」

「……そうですか」

「うん…」

彼女はどこか残念そうな顔をした。どうしよう、何か話題を……

「……男の子にしかわからない世界がある、ってことですかね」

「へっ……!?」

「ごちそうさまでした、今日も凄く美味しかったです」

「あ、うん……」

……聞いたのか、聞いてないのか、結局彼女が部屋に戻っても、俺には分からなくて、ずっとモヤモヤした夜を迎えた。





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