第18話 私の王子はちょいS…?です

「ねえ、またその話? というか、前にやったけど、やっぱり……」

「やったんかお前!? Мだか試すやつ!?」

「うん、やったけど」

「意地悪してみてって言ったんか!? どうだった!? てか何された!?」

「え? ほっぺつねってくれた」

「……お前らなんなんだよ」



「まぁ聞けよ、こないだは冗談を言っただけだったのに、ピュアっ子のお前が真に受けて、なんだかんだ、俺はイチャイチャのダシにされたわけだが……」

「……言い方」

「モテる男ってのは、どういう男か分かるか」

「……!! ど、どういう男……!?」

「そうだ、女の子がキャーキャー言うのは」

「え、わかんない……どういうの?」

「それはな、ドSキャラだ」

「…?? 前はМで、今度はSなの??」

「そうだ、Sキャラってのはな、意地悪な行動を取って、強引にせめ寄って」

「え、うん……」

「キスを奪ってくるような、そんな男が女は好きなんだ」

「……???」

「あー、わかんねえ? 要は、強引な男にキュンと来るって話だ」

「……な、なるほど」

強引か……俺は、そういうのはちょっとな……

「最近巷で流行りの、こういうのによく出るんだよ、ドSキャラってのが」

「小説?」

「そう、これ貸してやるから」

「う、うん……」



 そうして親友に借りた本に出てくるキャラは、確かにかっこよかった。


『お前、俺のこと好きなの?』

『えっ…!?///』

『俺の所に来い』

『キャッ、そんな……だめ……』

『とりあえず目、閉じろよ……』


「なるほど、これがドS……」

本をベッドの横において、枕に顔を当てて唸る。俺もそうやって、そのままあの子に、キ、キスとか……いやだめ! 俺、キスはおあずけだった……

「なんでおあずけとか言っちゃったんだろ……」

でも、ちゃんとあの子を大切にしたいし……嫌な思いは絶対してほしくない。そう思うと、俺にはどうしても、意地悪なんてできない気がする。彼女が嫌がってるのに、俺がしてほしいことをさせるなんて、できない……

「……でも、俺もこんな風だったら、またかっこいいって、思ってもらえたかも」

気分が落ち込んで、ため息が出る。そのままランプを消して、俺は眠りについた。




「……あー」

「……どうしました?」

「ううん、なんでもない。ちょっと考え事」

 二人で何を話すでもなく、ゆったりと庭で静かな時間を過ごしている。

「ねえ、強引な人って好き?」

「……はい?」

「こう、キスしちゃうぞーみたいな」

「……キスしちゃうぞー、ですか」

「うん」

彼女は手を顎に当てて、考えている。

「もしかしてそれって、Sキャラ、みたいなことですか?」

「あ、そう! よく知ってるね!」

「また親友に何か言われました?」

「え、うん、そうだけど……」

実はテレパシーでも使えるのかな。

「そうですね……嫌いではない、かもしれないですが……」

「えっ……」

少しショックを受ける。もしドSキャラみたいな人が近づいてきて、その人が彼女に惚れてしまったら……もし、この子が、そういう人を好きになってしまったら………考えると、胸が苦しくなった。……嫌だ、そんなの。絶対に。目の前の彼女に悟られないよう、無理をして笑う。

「そ、そっか……そうだよね……」

「……?」

 小説に出てきたドSキャラが、頭をよぎる。横にいる彼女を見る。たまには、強気に……俺は彼女の手を握って、必死に言葉を探してから、言った。

「……俺のこと、選べよ」

「……」

「……俺のこと、好きって、い、言えよ」

「……ふふ」

「な、なんで笑うの!?」

「すみません、王子があまりに、その、必死だったので」

笑ってくれたのは嬉しいけど、俺、情けないな……少し俯いた俺を見て、彼女は微笑んだ。

「……でも、優しい人の方が、個人的には安心します」

「え、ほんと?」

「はい……」

「よ、良かった……」

「……ふふ」

彼女が優しく笑ってくれた。それが凄く嬉しい。

「……俺は、強引にはできないな」

「でも、お城には連れてきてくれましたよね。結構、強引めに」

彼女がまた、ふふっ、と笑う。その笑顔が可愛くて、俺はまた幸せな気持ちでいっぱいになるのだった。


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