第13話 私の王子はニコニコです

 近頃は王子のバキューンと打つ仕草にも慣れてきて、試しに私からバキューンと返してみたら、真っ赤になった王子が近づいてきて、他の人の前ではやらないでと言われた。


 


 ぼんやりと、また部屋の窓から外を見ていた。

「……」

……暇だ。というか、やることがない。やることと言ったら、お母さんとお喋りするとか、じいとお喋りするとか、たまに朝ご飯を王子と食べるとか、町に出かけるとか、そんな感じで、お城の中だけにいるのも大変なんだなと思う。

「……ん?」

あの窓の外から手を必死に振ってる人は、よく見ると王子じゃないだろうか……? こっちから振り返しても向こうから見えるのかわからないが、一応振り返してみる。あそこも敷地内ではあるらしい。

 よーく見ると、横にじいもいる。王子が手を振りながら、必死に何かを伝えようとしている。口の形から読み取ろうと必死に目を細める。

「お、い、で?」




「ふふ、こっちにも花壇あるの、確かまだ知らなかったよね」

「凄い、綺麗ですね……」

「ほら、前に綺麗なお花畑を見に行ったでしょ?」

「ああ、馬車に乗って行った……」

「でもあのお花はもう季節過ぎちゃったから、また見れるのは来年だし、ここを見せたら喜んでくれるかなって、ふふ」

「ありがとうございます、綺麗ですね」

「そんなにかしこまんなくていいのに。そうだ、こっち来てよ! あ、じい、ありがとう!」

「いえいえ、坊っちゃん、ごゆっくり」

じいは、王子がどこに向かおうとしているのか、知っているようだった。


「枝、気をつけて」

「あ、ありがとうございます……」

 子供が丁度通れそうな大きさの穴をギリギリで通っていくと、森の方の、その中でも開けた場所に出た。風が吹いて、日が差し込んで、木と土の匂いがする。

「素敵なところですね……」

「うん、ここはお気に入りの場所なんだ、凄く落ち着くから」

「……綺麗」

「……うん、ふふ、いろいろ思い出すな」

「子供の頃とか、ここに来たんですか?」

「まあね、いっぱい遊んでた。結構、やんちゃでさ、俺。木から降りれなくなって、じいに助けてもらったりして……」

「結構、想像できますね」

「え、そう?」

「はい……」

「……俺のイメージ、君の中でどうなってるんだろ」

「……」

「まあいっか! お城に戻ろう、また庭の方に行かない?」



 そのまま庭まで手を引かれて、庭の中心にあるベンチに並んで座った。

「……そんなに振り向いても、今日はお兄様はいらっしゃらないと思いますよ」

「……そうだよね、いないよね」

「ふふ、そんなに怖いですか?」

「前回、ちょっと恥ずかしかったから……」

「ああ……それは、私もですけど……」

私以外の人に聞かれるのは、流石に王子でも恥ずかしいらしい。新しい発見だ。

「余裕、ないのはわかってる……凄く勝手だし」

「……」

「でも、君が兄さんと会わなければよかったのにとか、考えちゃって」

「……大袈裟ですよ」

「はは、わかってるんだけど、勝手にモヤモヤしちゃって……兄さんの反応も、俺には気になる所があるし……」

「……?」

「……だから、俺の前では沢山笑ってほしいなって思ってる」

そう言うと、王子は私に微笑んだ。

「それくらい、俺に独り占めさせて欲しいんだ」

そう言われて、王子のように笑顔を返そうとしたが、緊張してうまく笑顔が作れない。

「ふふ、無理しなくていいよ、俺がもっと、自然に笑顔にできるよう、頑張るって話だから」

「そ、そうですか……」

「うん、ニコーってね」

「ニコー……」

「お? ふふ、頑張って笑ってる、ふふ」

うまく表情を動かせないのが悔しくて、ほっぺを引っ張りながら王子に尋ねてみる。

「難しいです……王子みたいにうまく笑えないですね」

「え、そう? 君が笑ってる時、凄く可愛いけど」

またさらりと可愛いと言われて、慌てて話を逸らそうとする。

「王子は、沢山笑ってくださいますよね、いつも笑顔ですし」

「あれ、そう見えてるの? そっか……」

「普段から笑顔を心がけてるんですか? 王子として、みたいな」

「いや、違うと思う」

首を傾げた私を見て笑うと、王子は優しく言った。

「……大好きな君と一緒にいるからだよ」

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