第12話 私の王子は寂しがりです

 城に戻ってから、ずっと王子がソワソワしている。

「……兄さんと何話したの?」

「うーん、世間話ですかね」

「でも、二人で出かけたあと、兄さんが珍しく優しかったし、どんな魔法を使ったのかなと思って。はっ、まさか、君に惚れたんじゃ……」

「そんな訳ないですよ、ほんっとにないですよ、絶対ないです」

「……えっ、じゃあ本当に何があったの?」




「……じい、俺、魅力ないのかな」

「そんなことありませんよ!? ああ、坊っちゃんどうなされたんですか?!?!」

「……」

「お兄様が先にお嬢様と出かけてしまったこと、まだ気にしていらっしゃるのですか」

「……だって、俺はまだデートに行ってないのに、町のレストランでご飯食べたって言うんだよ? それも二人で……」

「ですが、よくお考えになってください、お嬢様と一緒に暮らしているのは誰ですか?」

「……俺」

「たまにお嬢様と一緒にご朝食を食べたり、ソファで隣に座って、楽しげなお嬢様と笑い合ってらっしゃる方は誰ですか??」

「……俺だ」

「そうでしょう、お嬢様があのような方を好きになられるとは、あまり考えにくいですし……」

「うーん、それもそうかも……」

「坊っちゃん、坊っちゃんが心配しているようなことは何も起きませんよ」

「……でもまだ、好きって一度も言われてなくて」

「えっと……それはじい初耳ですが……」

「兄さんも、俺のことを好きかって聞いてみたけど、言ってなかったとか言ってたし……」

「さ、さようですか。兄上は、いつも痛いところを刺してきますね……」

「……どうしたらいいんだろ、でもまた空回るかもしれないしな〜、あ、隣国に許可証届けに来てくれた時、一緒に花畑を見に行ったな……あの時、凄く楽しかった……」

「……ふふ、じいは微笑ましいです」

「うん、いい思い出だよ」

「ですが、その、言いにくいのですが……丁度二日後に、お嬢様が、その……町に出かけたいと仰っております」

「え、今度は俺と行ってくれるって?」

「いえ、一人で行くと仰ってます……」

「……」

「……坊っちゃん? 大丈夫ですか坊っちゃん」

「……俺、ちょっと直談判してくる」

「あら坊っちゃん流石です! 頑張ってくださいねー!!」



「……どうなされたんですか?」

「……」

 珍しく王子から私の部屋の方に来て、扉を叩いた。扉を開け廊下に出ると、王子が何か言いたそうにしている。

「……その」

「はい」

「町に行くって聞いて……」

「あ、そうなんですよ!」

「一人で?」

「いえ、一緒に出かけたい人がいて……」

「一緒に出かけたい人……?」

王子がなぜかショックを受けている。

「……? どうしたんですか?」

「……」

黙り込んでいる。本当にどうしたのだろうか。

「……俺」

「……」

「ちゃ、ちゃんと変装すればバレないと思うし……」

その様子を見て、勘が働いた。

「あ……そういうことですか?」

「そ、そういうことって、どういうこと?」

「一緒に出かけるのは、私の女友達です」

「……えっ」

「久しぶりに買い物に行きたくて」

「そういうことって、そういうことか……!!」

案の定、王子は急に緊張がとけたようで、扉の隣の壁にもたれかかった。

「……良かった、誰かに取られちゃうのかと」

「まだあの日のことを引きずっていらっしゃるのですか?」

「だって……君は! もっと自分の魅力を自覚した方がいいと思う」

「そう言われましても……」

「兄さんに口説かれても絶対だめだからね、あれは危ない人だから」

「ふふっ」

「え、今なんで笑ったの!? 兄さんが何か言った!?」

「いえ、なんでも……」

危ない人、だなんて言っておいて、子供の頃は手紙を送っていたと思うと、確かに微笑ましいかもしれない。

「変な人についてっちゃだめだよ、ちゃんと友達と行動するんだよ」

「わかってます、大丈夫です」

「心配だな……」

私からしたら、変な人について行った結果、城暮らしをしているようなものだが……変な人とか言うと王子が凹みそうなので、そこはぐっと堪えた。


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