第3話 私の王子は強引です

「……えっと」

「……」

「……はじめまして、王子殿下」

「……ごめん、ちょっと待って」

「は、はい」

 王子が急に視線を逸らして、そっぽを向く。顔が真っ赤だ。沈黙が続いたあと、小さな声で王子が話しだした。

「……」

「……俺、その」

声が少し震えているが、もう一度決心したように私の目を見ると、何か小声で言った。

「…っ…こ……してくだ…さい」

「な、なんと仰って……?」

「だからっ、えっと……っ…して…」

「……??」

「だからっ! 結婚してください!」

「えっ」

「あっ、まだ告白してなかった!」

口で手を抑えて焦っている。そこ? 気にするとこ、そこなの?

「え……?」

「その……一緒に城で暮らして欲しくて……」

「……え…?」

「君が、す、好きで……」

「……え??」

「俺と暮らしてください……お願いします!」

頭が混乱しているうちに、気づけば手を握られて懇願されている。

「えっと、えっ……」

「駄目かな……」

殆ど泣きそうな王子が、返事を待っている。

「けっ、結婚はまだちょっと……考えさせてください」

「てことは、一緒に暮らすのはいいってこと?」

「そ、そうは言ってな」

「やった!! じい、今すぐ例の準備して!!」

「かしこまりました坊っちゃん!!」

「うわぁっ、どこから出てきたんですか!?」

王子がじいの名を叫ぶと、床の変なところから突然じいが出てきて、思わず私も驚いて大声を出す。

「行こ! その服も素敵だけど、普段着る服とか、選ぼ!」

「え、ちょ、ええ!?」

私の手を握ると、王子が嬉しそうに笑いながら廊下まで引っ張り出して、早歩きで歩き始める。その笑顔を見て、手を引かれて歩きながら、これからもこうして流されていくのか……?と自分の未来を予感した。



 お母さんに相談もなく、こんなことになってしまって、どうしたら良いのか……ルンルンと楽しげな王子に服を選んでもらい、気づけばお夕食も隣で食べて、気づけば使用人たちに大浴場に入れられ、気づけばフカフカな天井付きベッドの上にいる。危うく寝そうになってから、お母さんのことを思い出して、慌てて廊下に出る。

「じい…!」

「お呼びですかな!?」

「うわぁ!!」

また突然背後に立たれて悲鳴を上げる。

「あの、私のお母さんはどこでしょうか!?」

「ああ、母上なら……美味しいご飯をたらふくお食べになり、服や宝石などを楽しげにお選びになり、初めてのサロンを体験し、また美味しいご飯をたらふくお食べになられ、既にご就寝されております、ええ」

「なんと……?」

「ですから、美味しいご飯をたらふくお食べになり、服や宝石などを楽しげにお選びに……」

「えっと、今どこにいるんですか?」

「あちらのお部屋です」

「ありがとうございます!!」


 走って近くの部屋の扉を慌てて開けると、お母さんが天井付きベッドの上で、アイマスクをしてツヤツヤになって寝ていた。慌てて駆け寄る。

「お、お母さん!」

「んん〜? あら、どうしたの?」

「どうしたのって何!? 手紙読んだ時のあれは何だったの…!?」

「聞いたわよ〜、結婚おめでとう! ついに貴方にも春が来たのね……」

「そうじゃなくて!」

「あのねえ、お母さん、こんなに幸せになってくれて嬉しいのよ、涙がでちゃう……」

「嘘泣きやめてよ!」

「大丈夫よ、お母さんも一緒に暮らしてあげるから、うふふ」

「え、なんで!?」

「じゃあお母さん寝るから、おやすみなさい……むにゃ……」

「ちょっと、お母さん!? お母さん!!」

また爆速で寝てしまった。毎度この就眠速度には驚かされる。


 仕方なく廊下に出て、自室に戻ろうとする途中で、大きな窓から見える綺麗な星空に気づく。はたしてこれからどうなっていくのだろうか……ベッドに横になると、羽の上で寝ているようで、私もすぐに寝てしまった。

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