Episode.7 接触
私はブログに記されていたXのアカウントを元に高野さんに接触を試みることにした。
知らない人に連絡をするのは初めてだし、怖いけどそうも言ってられない。
オープンチャットの仲間も白玉ヤコちゃんも消えてしまった今、頼れる人はいない。
オオキャミーさんも記憶が消されているようだし、宛にはできない。
てか、前退会させようとしてきたのまだ根に持ってるんだからね!
私がやるしかないんだから……。
想いを胸に私はXのアプリを起動させる。
このアカウントがまだ生きていることを願って、私はDMを送った。
『突然すみません、照前炉前といいます。私はカクヨムで活動している作家です。最近、voice@insideという謎のアカウントが原因で多くの作者が困っています。私はこれはあなたが開発したAIが暴走しているんだと思っています。カクヨムの元エンジニアのあなたなら何か知っているんじゃないですか?』
返信が来るのかどうか不安だったが、数時間後、彼から文章が届いた。
「やった」と思ったが、返ってきたのは冷たく突き放すようなメッセージだった。
「関係ない話です。もうカクヨムとは縁を切っています」
ここまで来て諦める訳にはいかない。私さ悔しさを噛み殺しながら、もう一度DMを送る。
『でも、異常を引き起こしているのは、あなたが過去に作った『VIAE』なんじゃないんですか? そうであるならば、これはあなたにしか解決できないと思うんです。お願いです、何か知っている事があれば教えてください!』
しかし、
『何を知っているのかは知らないが、二度と連絡しないでくれ』
高野さんが私に心を開くことはなかった。
「……逃げないでよ! あなたが作ったものなんでしょ!」
私は話を聞こうともしない高野さんの態度に腹が立った。しかし、そうこうしてる内にもレビューは着々と減っていってる。
「こうなったら……、直接会うしか……」
◆◇◆◇◆
私は高野さんの居場所を特定するために、彼が過去に書いたブログを読み漁っていた。
「高野さん……、一体どこにいるのよ」
しかし、特定に繋がるような情報は見つからない。
そんな中、1年程前に高野さんがあげていた『日常生活を晒していく』という謎のタイトルのブログにある写真が上がっていた。
「……ん? カフェで撮った写真を上げてる。ここって、〇〇区のあたりじゃない?」
私はこのカフェに見覚えがあった。意外と高野さんは私の住んでる地域からそう遠くない所で生活しているのかもしれない。
その後いくつかのページを見ると、建物の上から撮ったであろう夜景の写真や、近所のコンビニ、公園、橋と川の写真が多々上がっていた。
これらの情報から高野さんの生活圏内は今も変わっていなければ〇〇区で間違いない。
しかし、大まかな場所は分かったものの、自宅がどこにあるかまでは分からない。
「よし、こうなったら実際にこの場所に行って聞き込みをしてみよう」
◆◇◆◇◆
次の日、私は〇〇区にやって来た。
この場所に来るのも久しぶりだな。だけど、街並みはそこまで変化していなかったから、ちょっと安心した。
私はブログの写真にあったカフェに向かった。街角の一角にある昔ながらの雰囲気のいいカフェだ。
カフェに入るやいなや、私ら店員さんに一思いに尋ねる。
「あの、最近この辺りでこんな男性を見かけませんでした? この写真の人なんですけど……」
「あっ、この人……、あそこの窓際の席に座ってる人ですよ。水曜日と金曜日の夕方によくいらっしゃいますよ」
水曜日……、今日だ。
私は自分の腕時計を確認する。
夕方まであと、4時間くらいか……。そのぐらいの時間帯になったらもう一回ここを訪れてみよう。
「すみません、教えていただきありがとうございます」
「いえいえ。もしかして高野さんのお知り合いの方ですか?」
「ええ……、はい、まぁ、そんな感じです……。また、来ます!」
そう言って、私は無関係を装いながら足早に店を出た。
◆◇◆◇◆
その後、私は数時間ほどブログの写真の場所を探しつつ、現地をブラブラと散策しながら過ごした。
お陰でたくさんの情報が集まった気がする。
「大体の位置関係はこんな感じかなぁ……。う~ん、そんなに行動範囲は広くないのかなぁ……。この夜景の場所だけ分からなかったけど……」
大まかな予測を立てつつ、私は先程のカフェに向かった。
店に入ると、店員さんが言っていた窓側の席に、コーヒー片手に窓辺に肘を付いている男性がいた。
高野さんだ!
間違いない、記事に写っていた写真と顔が同じだ。
私は急いで高野さんに声を掛けに行った。
「すみません! 高野さんですよね? 私、XでDMを送らせていただいた照前炉前と言います! カクヨムの件でお話したいことがあって今日ここまで来たんですけど……」
高野さんは私を見るなり、ぎょっとした。そして恐る恐る怯えた口調で、
「なんで……、俺の居場所が分かった?」
と一言、小さく呟いた。
「あ、あの……、ブログの情報を元に調べさせてもらいました。でも危害を加えるつもりはありません! 本当に話をしたいだけなんです!」
「何度も言ったろう。俺はもうカクヨムの運営から去った男だ。話せる事なんか何一つない!」
そう言い切るなり、高野さんは鞄を手に取り、席を立とうとした。
「お願いです! あなたが作ったAIが、カクヨムで暴走しているんです! 私たちの仲間や作品が消されているんです! 私はこの状況を何とかしたい! 消えてしまった作品やアカウントを戻したい。そして今もAIの脅威に悩まされているカクヨム作家さん達を救いたいんです! そのためには、どうしてもあなたの助けが必要なんです! お願いします!」
私は深々と頭を下げた。何事かと他の客が私達に注目する。顔を上げると、高野さんは首を横に振りながら、
「……俺のせいじゃない。あいつは運営が進化させたんだ。俺はもう関係ない」
運営が進化させた?
一体どういう事?
疑問が浮かびながらも私達は押し問答を続ける。
「でも、あなたが作ったものです! あなたにしか止められない! お願いです、このままじゃ大勢の人がもっと苦しむことになります!」
「……頼むから帰ってくれ。それ以上俺に関わるな。俺だって、あいつに監視されている……!」
「監視……?」
監視って……、誰に?
「帰れ、あいつに目を付けられない内に……」
その言葉に私は不安を覚えたが、高野さんは席を立つと急ぎ足で会計を済ませて店から出ていってしまった。
◆◇◆◇◆
私はとあるアパートの201号室のインターホンを鳴らす。
すると、数秒経ってからガチャっと住人が出る音がした。
「高野さん! また来ました。怖がらせてしまってすみません。でも、どうしてもお話がしたいんです。」
私は我慢しきれずに、高野さんの家を特定し押し掛けてしまった。
近所に住む人達に聞き込みを続けながらこのアパートに暮らしていることが分かったのだ。
ストーカーとして通報されるかもしれないが、そんな事はどうでも良かった。
ただ、高野さんに話を聞いて欲しかった。
高野さんはインターホン越しでも分かるくらい震えた声で話始める。
『あんた……、何が目的だ。わざわざ俺の家まで来るなんて不審者紛いな事を……』
「本当にごめんなさい! 私はただ、話を聞いて欲しいだけなんです! 私の作品も、仲間たちも消されました。でも、どうしても解決しないといけないんです!」
少しの間を置いて、高野さんは静かに話す。
『君が何をしたって、あいつは止まらない。俺ですら止められないんだ……!』
「そんなの、やってみなきゃ分からない! 怖いのは分かります。私だって怖い。でも、私はあなたを信じます。どうか協力してください!」
私は深々と頭を下げた。これでもダメならもう打つ手がない。どうか、この想いが伝わって欲しい。
しかし、私の想いは虚しく、インターホンがプツンと切れてしまった。
「ダメか……」
そう言って帰ろうと、一歩後ろに下がりかけた時、目の前のドアが少しだけ開いた。
「そこまで言うなら分かった。ただし君も危険な目に合うかもしれない。その覚悟があるなら話を聞かせてやる」
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