Episode.3 奇怪楷書
「嘘……でしょ!? ちょっと何なのこれ?」
電車内にも関わらず、私は人目を気にせず声を発してしまった。
何故なら昨日公開したエピソードが私の知らない内に大幅に改変されていたからだ。
昨日はかなり盛り上がる展開をキャラクターの感情豊かに描写したはず……。しかも昨日の朝投稿してから今日確認するまで私は一度もこのエピソードに触れていない。
それなのに現在表示されている内容は昨日私が投稿したものとは大きく乖離したもので、話の核となる人物描写、情景描写などが著しく抜け落ちていた。いや、消去されているといった方が正しいか。
他にも文字化けも多数見られ、ところどころ改行がおかしくなっている部分もあった。
登場人物の口調も、拘って考え抜いたセリフも全て平凡なものに置き換えられていた。例えるならGoogle翻訳で英語を和訳したみたいな文章で違和感がある。
私は恐怖を感じずにはいられなかった。事態は完全に常軌を逸してる。考えられる原因は1つ……。誰かが私のアカウントを乗っ取り、不正に操作しているという事だろうか? そうとなれば話は別だ。私の手に負える問題じゃない。
しかし、この問題を1人で抱えられる程、私の心は強くなかった。この話を誰かに聞いてもらって、少しでも安心したいという気持ちが芽生えてきた。
オプチャで相談するには少し重い問題だと思い、より親密なグループのあるDiscordで相談してみることにした。
私は『トーシロ作家の集い』というサーバーに参加しているのだが、これは私が所属する複数のオプチャで特に親密な関係を築いた人達と一緒に立ち上げたものだ。約12人という少数のグループなので、割と突っ込んだ話もしやすい。
そこで私は特に仲の良い白玉ヤコちゃんに今回の問題について相談してみることにした。
「ねぇねぇヤコちゃん、ちょっと聞いてよ」
「どうしたんですか?」
「私の小説、何もしてないのに大幅改変されてたの……」
「えっ……、それってどういう事?」
「分からない……、多分誰かに不正アクセスされているのかもしれない……」
「えっ……、それヤバいやつじゃん。普通に犯罪じゃない?」
「こういう時ってどうすればいいのかな……」
「うーん、取りあえず警察に相談するとか? 分からないからちょっと一緒に調べてみようか!」
「本当に!? 優しい……、ヤコちゃんありがとう!!」
そうして、個人に対してSNSなどの乗っ取り(不正アクセス)をされた場合の対処法や対策などを2人で調べた。
❬対処法❭
・サーバーの遮断やパスワードの変更
・原因を調べる(ウイルススキャンの実施、IDやパスワードを第3者に知られる機会がなかったか振り返る)
・データのバックアップをとっておく
・場合によっては警察に相談する(必ず証拠となるものを保存する)
❬対策❭
・セキュリティソフトの導入
・OSやアプリを最新の状態に保つ
・パスワードを長く複雑なものに変更
・無線LANを使っている場合は暗号化
・二段階認証の設定
取りあえずウイルスがスマホに入ってないかチェックしてみることにした。これが問題解決に繋がるといいのだけれど。
◆◇◆◇◆
一方その頃オープンチャットでは……。
野々宮可憐(めちゃくちゃ可憐)「( ºДº)キーッ」
野々宮可憐(めちゃくちゃ可憐)「キーッ╰( ºДº)╮-。・*・:≡」
野々宮可憐(めちゃくちゃ可憐「ねぇぇぇぇぇ」
野々宮可憐(めちゃくちゃ可憐)「また野々宮さん★21個減ったんだけど」
こま「ああああああああああああああああ」
こま「今度はPVも減り始めたこまぁぁぁぁ」
こま「めっさんおたすけぇぇぇぇぇ」
オオキャミー「全く投稿せずに4ヶ月経った男が通ります」
玄花「私も★減りまくってとうとう0になっちゃったぜ、ヒャッハー」
姫百合「皆さんおかしくなっちゃった。。。ていうか、私エピソード知らない間に改変されていたんですが……」
こま「え?」
EVI「え?」
玄花「え?」
こま「何それこわい」
オオキャミー「あ、PV増えた」
こま「ムキーッᕦ(ò_óˇ)ᕤ」
◆◇◆◇◆
その後ウイルススキャンの結果、ウイルスらしきものは検出されなかった。親にも相談して警察に出向いてみたりしたけど、不正アクセスは受けてないということが判明した。
ただ、帰り際に最近こういう相談が増えてるんだよねとは言われた。家に帰って調べてみるとSNSではカクヨムの謎の現象について話題になっているようだ。オープンチャットやSNSでも自分と同様の被害が出ている人が多くて驚いた。
ウイルスやハッカーの仕業ではないのだとしたらこの現象を一体どう説明するというのだろうか。
「ああ……、辛いなぁ、早く解決してほしいなぁ」
相変わらずレビューや応援コメントの減少は止まらない。エピソードが改変されてはまた元に戻す。戻した後でまた別のエピソードが改変される。そんな鼬ごっこを繰り返す日々で、新しいエピソードを更新する暇なんてなかった。そのせいかフォロワーが減り始め、ランキングも週間1位から16位まで転落した。
日に日に鬱憤が溜まる。行き場のない感情が胸いっぱいに広がる。
「はぁ~あ、しんどい」
そういってパソコンでプロットを作成しようとしたその時、スマホに1通の通知が入った。
「あっ、久しぶりに応援コメント来た!」
作業の手を止めて、私は急いでカクヨムのサイトを開く。
そして届いた応援コメントに目を通す。
「どれどれ? こんな時でも応援してくれるなんて優しい人だ………な……………………………………」
voice@inside『本作の内容を解析しました。感情的な要素は27.3%、論理的一貫性は19.7%、文法エラーは13箇所検出。読了時間は標準読者基準で41分32秒。結論、作品の存続価値は低。削除を推奨します』
え?
な……………………………………に
これ………………?
へ?
私は震える指先でそのアカウント名をタップした。
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