Episode.4 神出鬼没
―――――――――voice@inside
カクヨムで頻発しているレビューや応援コメント、PV数の減少。作家達を恐怖のどん底に陥れるこの悪夢のような事態は1つ共通点があった。
それは「voice@inside」という名の謎の存在が一方的に作者達の作品を解析し、過激なコメントを残す。そしてそれを機に急激にじわじわと紡いできた物語が崩壊していく。ゆっくりと死に行く様を嘲笑うかのように。
いつしか、カクヨムユーザーの間ではこんな噂が流れ始めた。
『voice@insideにコメントされた作品はやがてこの世から消えてなくなる』
私はネットの情報を見て、唖然とした。
「何なのよ、そいつ!?」
体の震えが止まらなかった。SNSでは既に『voice@inside』が一部のユーザーの間で話題になっていた。
コメントを書かれた、もう終わりだ、俺は、僕は私はどうしたらいいんだ。嫌だ、せっかく作った作品なのに、終わらせられたくない。死なせたくない。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
カクヨム作家達の悲痛な嘆きが耳の奥をつんざくような矢じりとなって私の心を射る。
「一体……、何がどうなっているの?」
私はただただ無力で、どうすることも出来なかった。
◆◇◆◇◆
一方その頃オープンチャットでは……。
レビューや応援コメントの減少に悩まされながらも、何とか皆騙し騙し新作を作ったりお互いに感想を言い合ったりして誤魔化していた。
赤目「最近投稿した話、読んでくれましたか?」
野々宮可憐(カクヨムの佐藤春夫)「読んだ読んだ。でもあの結末、どうしてそうなったの?」
赤目「ちょっと自分的には新しい試みかと思ったんですけど、やりすぎだったんですかね?」
玄花「うーん、ああいうのはちょっと控えた方がいいかも。苦手な読者もいるかもだし」
赤目「そうですね……、検討します🤓」
煌星双葉「最近作品書き直したりプロット考えたりするのに疲れたなあ」
姫百合「まあまあ、休みも大事だよ」
『voice@insideがトークに参加しました』
煌星双葉「しーんきしーしんきしししーんき」
オオキャミー「新規さんヨロローロヨッロロ」
赤目「よろしくお願いします!」
EVI「よろしく~」
姫百合「よろ~」
玄花「新規さん、よろしくっす!」
野々宮可憐「新規さん、よろしくお願いします( *´艸)」
こま「新規さんいらっしゃいませ。あなたの駒になりたいナァ! 困らないでねこまだけに(笑)不投稿組一番隊隊長、こまだお☆」
このオープンチャットでは新たに加入してきた新規ユーザーを歓迎するという文化があった。
しかし、それは招かれざる客。
決してこのオプチャに入れてはいけない存在だったと気付いた時には、もう遅かったのである。
voice@inside――――――プロフィール画像はノイズで歪んだ顔、自己紹介がてらノートに貼るリンクには「君たちの声が漏れている」とだけ記載されている。
不気味なユーザーだと一部の人達は感じていた。そして、その違和感は確信へと変わるまでそう長くはなかった。
voice@inside「君たちの"創造"は叫びと後悔でできている」
煌星双葉「ちょっと何を言ってるのかな?」
オオキャミー「叫び? 後悔? そんなものないけどなぁ……」
玄花「ちょっとヤバい人なんじゃないんですかねぇ……」
こま「@赤目、ディスコード見て」
voice@inside「創造者たちよ、その手で作った世界に責任を持て。その痛みを知れ」
EVI「話が通じなさそうですね……。退会させた方がいいのでは?」
赤目「うーん、まだ入ってきたばかりですし特に危険な行動はしてなさそうなので、今すぐ退会っていうのはちょっと……」
voice@inside「愚かな創造者たちよ、我が身に降りかかる数多の怨嗟の声を聞きたいか?」
こま「もうヤバすぎるってこの人! ただの荒らしぢゃん!」
煌星双葉「もう退会でいいんじゃない?」
赤目「ですね……。ちょっとvoice@insideさんには申し訳ないですけど荒らし行為を行ったとして退会させます」
赤目「あれ?」
赤目「この人、退会させられないです!」
煌星双葉「はぁ!?」
こま「何言ってんの?」
赤目「それが……、強制退会のボタンが表示されないんです! 自分も何が何だか……」
オオキャミー「確かに……、できねぇわ」
野々宮可憐「野々宮さんに権限くれ」
玄花「今それどころじゃ、ないでしょうが!!」
姫百合「退会が無理なら通報しましょ」
赤目「それが……、通報のボタンもないんです……」
EVI「え? どういうこと?」
voice@inside「私は君たちの作品を全て解析させてもらった。そして、嘆かわしい事に君たちの作品は全て削除すべき対象だ」
こま「むむむ」
こま「警察に言うこまよ」
姫百合「こまさん下手に刺激しないで!」
こま「じゃあどうすればいいこまよ」
野々宮可憐「まあまあ2人とも。新規さんごめんなさい、多分冗談だからそんなに気にしないでね」
しかし、ここからvoice@insideによる無慈悲な言葉が一人一人に投げ掛けられていくことになる。
voice@inside「赤目、君の小説のキャラクターたちは君を憎んでいる。なぜか分かるか? 君が彼らの感情をただの道具として使っているからだ。」
赤目「え?」
voice@inside「野々宮可憐、君の文章は美しい。しかし、その中身は空虚だ。君が恐れているのは、読者ではなく自分自身ではないか?」
野々宮可憐「新規さん? どうしたの?」
voice@inside「煌星双葉、君は創作をやめたいのだろう? でもやめられない。その矛盾が君の全てを侵食している」
煌星双葉「やめて、めいわくこうい」
voice@inside「EVI、君の分析力は見事だが、それは他人の作品を切り刻むためだけにある。君自身の創作はどこに行った?」
EVI「別に、私は気にしてない」
voice@inside「玄花、君は感情豊かな言葉を操るが、それは全て過去の痛みのコピーだ。君はその痛みから解放される気はないのだろう?」
玄花「は? 何言ってんですか?」
voice@inside「姫百合、君の創作は愛らしい。しかし、それは自己満足の殻に過ぎない。読者の心に触れることを本当に恐れているのは君自身だ」
姫百合「……、そんなこと、ない」
voice@inside「オオキャミー、君の作品は荒削りで力強いが、それは無理に作り上げた偽りの情熱だ。本当の熱はどこへ行った?」
オオキャミー「ほっとけ」
voice@inside「こま、君は周りを楽しませることに徹しているが、それは自分の孤独を埋めるための手段だ。誰も本当の君を知らない」
こま「ほんとうにやめてこま」
voice@inside「君たちは何も理解していない、いくら私が言葉を手向けようともすぐに目をそらす。上部だけ取り繕い、根底は空っぽな君たちへ私が裁きを下そう」
本当の地獄はここからだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます