第2話

「君だね、三宅坂の新入りは」

 少女の見てくれより僅かに低い声で、それは言った。

 白墨のような華奢な身体に、ワンピース。酒場には大凡似合わない風貌だが、テーブルの上のジョッキの山が、何よりの上客の印だった。

「かけ給えよ、少年」

 彼がそうすると、少女はじっと、彼の顔を見た。顔立ちは整っているが、異人の感じは少ない。それは少女にも言えた。耳の長い以外は、成長しきっていない肢体に睫毛の長く整った目鼻立ちという、不均衡な美人と言う他ない。

「悪いね、貧相な体で」

「は?」

「顔に書いてある」

 僅かに彼が睨むと、彼女は一瞬面食らった後、口の端を緩めた。

「……へえ」

「……何か」

「いや、三宅坂から新人が来るというから、どんな坊やかと思ったけれど……ふうん?」

 空のジョッキに顔を預け、彼女は上目遣いで彼を見た。僅かにずれた肩紐の縁から、鎖骨が覗く。

「強いねぇ」

「は?」

「……いや、これは効いていないのか。全く……」

 今度は不貞腐れたように細い葉巻を取り出すと、ライターの火を当てた。強いアルコール臭が鼻につく。

「……ウォッカ?」

「わかるかい?オイル代わりさ」

「よく引火しませんね」

「これも魔法の恩恵だよ。この時ばかりはエルフであることを感謝するね」  

 静かに煙を吐くと、手元にあったジョッキを彼の方に滑らせる。

「?」

「頼みすぎた。景気づけにやってくれ」 

 怪訝な顔の彼に、彼女は少し上気した顔で、小首をかしげて笑んだ。

「今は最高に機嫌が良いんだ、酒や葉巻のせいでなく。……付き合ってくれんことはないだろう?」

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昭和耳長物語 猫町大五 @zack0913

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