第7話 予想外の展開

 息も絶え絶え闘技場にたどり着いた。

 すでにダイヤとクリスタは戦闘を始めているようだ。

 ということは一応うまく戦えているということかと胸を撫で下ろすが……どこかダイヤの様子がおかしい。

 なんというか顔が険しく強張っている。


「……なんかあいつキレてない?」


 明らかに怒っている。

 その証拠に明らかに攻撃が全力だ。

 幸い俺が渡した装備は身に着けているため火力は若干抑えられているが……。

 それに控えろと言っていた魔法をガンガンに使っているところを見るに冷静な判断もできなくなっている。


「何してんだよアイツ……。」


 別に彼と俺は知り合って長いわけでもない。

 それでも出会って話をして人となりを見て、物腰が柔らかく優しい奴だと判断していた。

 あんな風に怒り任せで動くような印象はまったくなかった為、余りのギャップに唖然としてしまう。

 一体俺がいない間に何があったんだ……?






ー30分前 ー

 さて、放課後になったしクレイの元へいこう!

 決闘前の最終調整をしてもらわなくては!

 足早に教室を出ようとする。


「待ちなさいダイヤード・アンドレイ。これから決闘のはずでしょう。いったいどこに行くつもり?」


 しまった、クリスタさんに捕まってしまった。

 別に勝負の時間までまだ余裕があるんだから好きにさせて欲しい。


「ちょっと友人と約束があってね。約束の時間までには終わるから安心してよ。」


 正直僕は貴族が得意じゃない。

 口を開けば自慢か陰口しか吐かない奴ばかり。

 クリスタさんはそれほどでもないが取り巻きの奴等がそんな奴ばかりで気が滅入る。

 さっさと距離を置こう。


「友人というのは噂のEクラスの者かしら。」


 取り巻きとクラスの何名かがクスクスと笑う。


「……何がおかしい?」


「学年1位とあろうものが落ちこぼれと積極的に関わっているのです。笑われて当たり前でしょう?」


……そういえばクレイが言っていたな。

 悪い人ではないが戦いで相手を挑発することはあると。


「誰と仲良くなろうが僕の勝手だ。」


「あら、まさか本当に友人関係なのですか!私はてっきり都合のいい駒か何かだと思っていたのだけれど。」


「……は?」


「今朝だってその落ちこぼれを私にの元へ送って来たでしょう?試合前に私を襲うよう仕向けるとは驚きましたわ。まぁでも、私の執事にいとも簡単に捉えられて頭を地面に擦り付ける姿は見ていてとても滑稽でしたけれど。」


「彼は僕のために情報収集をしてくれただけだ。襲おうとしたなんて適当な事を言うのはやめろ。」


 クレイ、本当に彼女はそこまで悪い奴じゃないのか?

 幾ら勝負のためとはいえここまで煽ってくるような奴が。

 それとも言って良い事と悪い事もわからないようなバカなのだろうか。


「嫌ですわ。あの底辺とを同じような目で人を睨みつけてくるなんて。やはりあんな者と一緒にいると人間性が駄目になるのね。」


 取り巻きと一緒にクリスタがニヤニヤと笑っている。

 結局コイツも周りの貴族どもと同じか。

 なんでこんな奴のことを怪我させちゃいけないなどと考えていたのだろうか。


「今にも襲いかかってきそうな恐ろしい顔ね。それなら予定より早いですが、決闘を始めませんか?」


……もう手加減とかいいや。

 クレイに貰った装備で十分だろう。

 そんなことより……。


「あぁ……早くやろうか。」






 俺が闘技場について数分たったが、まだ勝負は決していない。

 だが明らかに戦況は変化していた。


(クリスタが逃げることしかできなくなっている。)


 少し前までは意気揚々とダイヤに対し攻撃を仕掛け続けていたクリスタが、今となっては息を切らしながら必死にダイヤから逃げている。


(動きが明らかに鈍くなっている。本人のスタミナ不足もありそうだけど……。)


 多分もうメンタルからボロボロなのだろう。

 少しでも油断するとダイヤのとんでもない火力を喰らうことになるというプレッシャー。

 そしてもう一つ……。


「はっ!」


 クリスタが何とか隙を見つけてダイヤの懐に入り込んだ。

 その勢いのまま手に持っていた剣でダイヤを斬りつける。


「……っ!?なんで!?どうして!?」


 しかしその剣がダイヤの身体に傷をつけることはなかった。

 避けたわけでも守ったわけでもない。

 喰らったうえで、ダイヤには一切のダメージが見られなかった。

 ダイヤは師匠に稽古をつけてもらっていたし『百戦錬磨』の影響も受けている。

 それによってレベルが周りの同級生たちと比べてかなり高い。

 本来ゲームで学園に入学する頃のレベルは15ぐらいなのに対し、現在のダイヤのレベルは37だ。

 レベルが高ければ勿論その分だけステータスも高くなる。

 それに加えてダイヤの火力を下げるためにつけた装備の効果で防御がかなり上昇しているのだ。

 正直相当頑張らないとクリスタの攻撃は通らないだろう。


(それよりも違和感があるのは……。)

 

 守りの面に関しては概ね納得しているが、違和感を感じるのはあの攻撃力だ。

 恐らく意図的に手加減をしていない状態とはいえ装備の効果であまり火力が出ないようにしているのに、明らかに計算外の火力だ。

先日確認したステータスから考えても明らかに火力が高すぎる。

 クリスタの挑発の影響か?

 観客席からは距離があるため見づらいが再度ダイヤのステータスを覗き見た。

 

(一応挑発による攻撃力上昇はあるっぽいな。)


 しかしそれを考慮したとしても、あれほどの火力が出るとは思えない。

 もしかしたら俺の知らない何らかのバフが掛かっている?

 でもバフだとしたら俺の能力で確認ができそうなものだが……。

 とにかく現状クリスタは攻めも受けも圧倒的不利なのである。

 二人の実力差が伝わったためか、先ほどまで大盛り上がりだった客席も今ではほとんどお通夜モードだ。

 こうなってしまった以上クリスタに勝ち目は……。


「いや、一個だけあるか。」


 ダイヤが冷静さを失って魔法を使っているおかげで彼女のスキル『魔力蓄積』が生かせる状況だ。

 『情報分析』でクリスタを見る。

 今朝見た時より魔法防御が上がっている。

 恐らく相手の魔法を喰らっても耐えられるようダイヤのように装備を着込んでいるのだろう。


(あれなら一発くらいなら耐えられるか。)


 つまりダイヤの魔法攻撃を耐えてカウンターの一発を当てられれば何とかなる……かもしれない。

 しかもダイヤは冷静に戦えていない状態。


「大丈夫かな……。」






 本当に大失敗だ。

 ダイヤード君からの攻撃を避けながら私は教室での行動を後悔していた。

 相手の冷静さを崩して隙を突く。

 そのためにあんな下品な挑発まで使ったのに……。


(まさか隙を突いたところでダメージが通らないとは……。)


 彼がそこまで頑丈だとは思っていなかった。


「くっ……!?」


 彼の拳が数秒前まで自分の立っていた場所に大きなクレーターを作り出した。

 この怒りに任せた高火力の攻撃。

 一撃でも当たれば戦闘不能必須である。


(今はとにかく距離を取る!遠距離からなら魔法を使ってくるはず!)


 そして魔法を喰らって私のスキルにかけるしかない。

 先ほどから放たれている魔法ではダメ、火力が足りない。

 ちまちま魔力を喰らって『魔力蓄積』をしようにも、喰らった隙をついて距離を詰めてきてあまりに危険なのだ。

 それに溜めた魔力を力に変えた一撃を避けられたら……恐らくもう彼にダメージを与える機会は来ない。


(彼に反動ですぐには動けなくなるような強力な魔法を撃たせ、その隙を狙う!)


 どうやってそのような魔法を使わせるか。

 私に今で思いつく方法は一つ。

 先ほど散々恥じていた下品な手しかない。

 心の底で彼と彼の友人に謝りながら、私は口撃を開始した。


「ふふっ、本当に恐ろしい火力。さすがは学年1位様ですね。」


「……降参するかい?」


「いえ、それだけはあり得ませんわ。落ちこぼれとなれ合うような者に負けるくらいならくたばった方がましですもの。」


「……!お前また……!」


「あら?落ちこぼれを落ちこぼれと言って一体何が悪いのでしょう?やはり底辺と一緒にいると考え方がおかしく……。」


 瞬間、ダイヤード君からとてつもないプレッシャーが放たれる。

 背中に冷や汗が走るのを感じる。

 剣を持つ手も震えが止まらない。

……そんなに大切な人なのだろうか。


「どうしてそこまで?」


 つい彼に質問してしまった。

 でも仕方がない、気になってしまった。

 私個人としてはクラス外に友人がいようが自由だし、仲がいいことは素晴らしいと思う。

 しかしここまで大きな感情をもつほどなのか。

 それほどまでに彼の友人が大切なのか。


「……やっと会えたんだ。」


 彼が消え入りそうなほど小さな声で語りだす。


「僕と同じような人に……一度失った……僕と同じ境遇の人……。」


「周りにお前たちのような見苦しい貴族共しかいなかった……大切なあの人すら失った僕にとって……彼は唯一の支えなんだよ!」


(……来る!)


 ダイヤード君が右手を構えた。

 恐らく今まで以上に高火力な魔法が飛んでくる。


「もう失わない……お前たちみたいな貴族共に奪わせはしない!!」


 彼の右手から今までに見たことがないほど巨大な火球が放たれる。


(耐える……耐えてみせる!)


 きっと彼には友人を貶されることが許せない大きな理由があるのだろう。


(でも私だって……!)


 私だって……負けるわけにはいかないのだから。


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