第6話 作戦会議

「それじゃあ第一回うまい具合に平和且つ穏便に決闘を終わらせよう作戦会議を始める。」


「はーい!」


 ダイヤがニッコニコで返事を返してきた。


「とりあえず帰り足に軽く説明したがわざと負けるのはお勧めしない。しかし全力で戦うわけにも行かない。そうなると残された選択肢は手を抜きつつ勝つことになるけれど……ダイヤはその辺りの力加減が上手くできないと。」


「はいセンセー!体調不良ってことで当日休むのはどうでしょうか!」


「多分敵前逃亡とみなされ負けと同じ評価だ。戦わない路線は捨てろ。」


 学年1位vs学年2位となると恐らく想像を超えたとんでもない量のギャラリーが来る。

 逃げたと噂されれば速攻話が広まるだろう。

 それに場合によっては「クリスタ側が卑怯な手を使ってダイヤに勝ったという事実を作ろうとした」と噂されて相手方に迷惑がかかる可能性もある。


 とはいえ困ったことに、普通に戦った場合恐らく圧勝……というか大怪我をさせてしまう可能性も十分ある。

 一応明日クリスタのステータスも見た上で判断をするつもりだが、入学してすぐのステータスなんてたかが知れてるだろうし。

 そもそもクリスタはスピードと攻撃が高いキャラなので耐久は高いとはいえない。

 下手したらダイヤのワンパンで大怪我させてしまう可能性がある。

 マジで俺の友人強すぎる。

 まだ入学したての奴等とは文字通りレベルが違うのだ。

 せめてもう少し時間がたって周りの戦闘能力が上がってからだったらよかったのに。

……いや待てよ?


「ダイヤを全力で戦っても問題ない戦闘力にすればワンチャンあるか?」


 部屋の時計を見ると時間は7時。

 寮の門限の1時間前だ。

……走れば間に合うか?


「すまんダイヤ。作戦思いついたけど準備に時間かかるわ。ちょっと急いで準備しにいくから説明は明日でいいか?」


「え!?今から?」


「あぁ、明日じゃ間に合わないし門限も近いから行ってくる。」


 そういって俺はそそくさとダイヤの部屋を後にした。






「それで……結局どうなったの?」


 翌日の昼、昨日と同じ校舎裏で飯を食べるついでに作戦内容を伝えることにした。


「まさか朝も先に学園に行ってるとは思わなかったよ。」


「朝早くから用事があってな。おかげで完成したよ。ほれ。」


 ダイヤに昨日奔走した成果を手渡す。


「なにこれ?ネックレスに指輪に腕輪?」


「それらは全部『装備した者のステータスを下げる効果』がある。」


 基本このゲームにおける装備は防御や攻撃力などといったステータスを上昇させるものがほとんどだが、中にはデメリット効果持ちの装備も存在している。


「例えばそのネックレスは攻撃力が下がる代わりに防御力が上昇する効果がある。指輪は魔法攻撃低下で魔法防御上昇。そして腕輪は全ステータス低下の代わりに獲得経験値上昇だ。」


「なるほど!これを装備して戦えば!」


「まぁ普通に戦うよりはいい勝負になるんじゃないか?それとこれ。」


 一枚の服をダイヤに渡す。


「これは?」


「これに関しては普通の装備だ。防御力上昇効果があるから制服の下に着ておきな。これで多分間違っても負けることはなくなると思う。」


「おー!ありがとう!」


 装備に関してはこれでいいとして次は……。


「……次は戦うときに心がけて欲しいことなんだが、基本は物理攻撃をするようにしてくれ。」


「いいけど……なんで?」


「クリスタ嬢の固有スキルと魔法が相性悪いんだよ。」


 クリスタの固有スキルは『魔力蓄積』。

戦闘時に魔力の籠った技を受けるたびに火力が上昇していくスキルだ。

 そのため下手に魔法で攻撃すると痛い目を見る可能性があるのだ。


「でも正直僕は魔法より物理攻撃の方が得意だよ?師匠に鍛えてもらってたのもそっち方面だし。弱体化した後とはいえ、クリスタさんに使って大丈夫かな?」


「今朝クリスタ嬢のステータスを確認しておいたけど今のままだと危ないかもな。だから本番前に俺がダイヤに全力で攻撃力ダウンの魔法をかける。今朝登校中だったクリスタ嬢のステータスを見ておいたから、ちょうどいいぐらいまでお前の火力を下げるよ。あとはそのいい感じの攻撃力でクリスタ嬢を攻撃して気絶でもさせれば大怪我させずに済むんじゃないか?」


「すごい……昨日からずっと動いてくれてたんだね。」


「そうだよマジで大変だったよ。ステータス見てる途中でクリスタ嬢のとこの執事にバレて追いかけまわされたときは終わったと思ったよ。」


 だいぶ遠くから見てたんだけどまさかバレるとは思わなかったな。

 しかも一瞬で距離詰めて来たし。

 エリート様は執事もエリートらしい。

 なんとか渾身の土下座で難を逃れたが……今度からはもっと距離をとってから見るようにしよう。


「まぁつまり『程よくデバフかけて優しく相手を倒そうぜ作戦』だ。これでダイヤの株は落ちないし、相手を怪我させるリスクも減らせると思う。」


「クレイ……ありがとう!僕頑張るよ!」


「張り切ってくれるのはうれしいが、気合入りすぎてクリスタ嬢に怪我とかさせないようにな?クリスタ嬢は戦闘中に挑発とかしてくるからな。イラっとしたからって全力で攻撃とかするなよ?」


 クリスタの戦闘時によく取る行動に「挑発」がある。

 ゲーム内だと相手の攻撃力が上昇する代わりに攻撃以外の行動が取れなくなったり技を避けられやすくなったりしていたが……この世界でもそんな感じなのだろうか? 


「流石にそんな挑発なんかに簡単に乗らないよ!まかせて!」


 自信満々過ぎて逆に不安だ。

 予鈴が鳴り響く。


「そんじゃ放課後に闘技場行く前に俺のとこに来いよ。」


「了解!じゃあ放課後にな!」


 そういってダイヤは小走りで教室に帰っていった。





「来ないんだが?」


 放課後に教室に来るよう約束したにも関わらず、ダイヤが全然やってこない。

 このままじゃ決闘の時間になるぞ?

 何してるんだアイツは。

 俺からAクラスに向かうか?

 でもEクラスの生徒がAクラスに行くと絶対変な目で見られるし……面倒な輩に目を付けられる可能性もあるため極力近付きたくない。

 どうしようかと考えながら誰もいなくなった教室の窓から外を覗き込む。

 大量の人の群れが闘技場に足を運んでいた。


「君は見に行かないの?」


「うお!?」


 急に話しかけられたせいで変な声が出てしまった、恥ずかしい。

 振り返るとそこにいるのは見たことのない女の子。

 日本人形のような黒髪ロングでどこか儚げな雰囲気のある少女だ。

 正直このゲームの世界観とは少しずれているような気もするが、見たことないしモブキャラだろうか。


「どうかした?」


 黒髪の女の子は小首をかしげながらこちらに問いかける。


「あぁいや、ちょっと考え事をしててさ。」


……なんというかこの娘と話すのは妙に緊張する。

 というよりプレッシャーを感じるというか……。


(絶対モブじゃない。絶対に……普通じゃない。)


 彼女が近づいてきた。

 彼女が一歩俺に近づくたびに心臓の鼓動が速くなる。

 暑くもないのに汗が止まらない。

 無意識に自分が一歩後ろに後退していた事に気付く。

 彼女が俺の顔を覗き込んでくる。

 彼女の真っ黒な瞳が俺の意識を飲み込んで暗闇の中にが落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて落……。


「「「「「「「「うおおおお!!」」」」」」」」


 響き渡る歓声に意識が呼び戻される。

 なんだ?

 俺は今、何をされたんだ?

 俺はなんらかの攻撃をされたのか?

 彼女と距離を取る。

 すると彼女はどこか寂しそうな表情になった。

 一体何なんだよこいつは……。


「……決闘の時間がね、予定よりも早まったんだ。さっきの歓声を聞くにもう始まったんじゃないかな。」


「え……?」 


「行かなくていいの?」


「あーそうだな。行かなきゃだわ。教えてくれてありがとうな。」


 正直速く彼女のそばから離れたい。

 自分自身がいつまで正気でいられるのかわからない。

 でもほんの少し、ほんの少しだけ俺の興味がそれらを上回る。

一瞬目を細め、彼女に対し『情報分析』を使った。


「……!」


 何も見えない。

 いや、正確にはでてきたステータスが黒いモヤのようなもので塗りつぶされている。

 やはり彼女は普通じゃない。

 それが分かっただけでも十分だ。


「じゃあ俺行くわ!また今度!」


 少し震えた声でそう言って、俺は走り出した。

 友人の元に駆けつけるためか、それとも彼女の元から一句も早く逃げるためかは俺にもわからない。

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