3日目
第8話
(あと2日かーー考えてみてくれって言われてもな…)
私はカイルの気持ちを真剣に考えようと頭を悩ませていた。
正直言って分からない。今まで“恋愛”というものをして来なかった。
そもそも“好き”が悩ませる。
カイルの事を好きが嫌いかと聞かれれば好きだが。
果たしてそれが恋愛感情なのだろうか?
「号外よ!号外!」
「もーなに、どうしたのよー?」
「第1王子のプロフィール大公開ですって!!」
「うそー!!」
「きゃー見たい見たい!!」
私の考え事など他所に、教室の皆が騒ぎ出す。
(全く、落ち着いて絵を描けないじゃない。中庭へ移動しようかしら)
「へぇーカイル殿下って言うのね!!」
その言葉に、私は筆を止める。
「やだぁー!中々のイケメンじゃない!!」
「私、タイプだわー!!」
「ごめん、私にも見せてくれる?!」
「あら、エレンが珍しいわね。こういう話題には興味を示さないのに」
「イケメンなら別格よ!ね、エレン?」
「.........」
「エレン?」
大学からの帰り道、フラワーショップへ寄るとシャッターが閉まっていた。
それだけで、いつも賑やかなこの通りが静かに感じる。
「ーー帰ろう」
自転車のハンドルを握り直し、ペダルを漕ぎだそうとした時、微かな声が聞こえてきた。
「エレンちゃん?」
「......フレアおばさん?」
声が聞こえた方に視線を向けるが、フレアおばさんの姿はない。
「ここよ、二階の窓」
聞こえた言葉通りに二階を見上げると、カーテンの隙間からフレアおばさんが手を振っている。
(良かった、思ってたより元気があるみたい)
「今、裏口開けるわね。入っておいで」
そう言って、私を安心させるかのように優しく笑った。
「ごめんね、あの記事がでた直後から記者やら野次馬が溢れちゃって、今はもう落ち着いたんだけどね」
「……すいません。肝心な時に私何も出来なくて」
「やだねぇ。エレンちゃんは何も悪くないんだから、気にしなくていいんだよ。むしろ被害者じゃないか」
「......被害者って」
「カイルの事だよ。記事の内容は本当。あの子はこの国の王子様さ。ーー今まで秘密にしててごめんね。ずっと騙しててごめんね。エレンちゃんの心を傷つけてーー本当にごめんね」
フレアおばさんは悲痛な声で何度も謝りながら、頭を下げた。
「や、やめてください!私、傷ついてませんし、その、驚きはしましたけど、何があったのか知りたくて、ここに来たんです」
「ーーええ、全て教えるわ。エレンちゃんには知る権利があるもの。初めてカイルに会った日を覚えている?」
「ーーはい。初対面でいきなり“ブス”と暴言吐かれた時ですね」
「そうそう、それで取っ組み合いの喧嘩になったのよね。でも実は、カイルはその前からエレンちゃんのこと知ってたのよ」
「その前から?」
「そうよ。あの子は良くお城を抜け出しては城下町へ行ってたの。その度にお父上である国王陛下に怒られてて、困った国王陛下はあの子に条件を出したの。その当時、お城専属の花売りだった私のお手伝いをしながら城下を見て回るっていうね」
「だから、一緒に居たんですね。親子のフリをしながら」
「ええ。その頃からよく孤児院へお手伝いに行ってたのだけど、何故か、カイルはいつも遠くから見てたの。けど、その時にエレンちゃんを見つけたのよ」
「私?」
「ふふっ。いつも誰にも見つけられない場所で、こっそり泣いてたでしょ?」
「!!まさか、カイルに見られてたんですか!?」
「バッチリ見られてたわよ。帰りにカイルはね『俺は、あの子達と同じ子供だけど、育った環境も違う、辛さも悲しみも分からない。そんな俺がいてもきっと傷つける。けど、泣いてる顔を見ると胸が、きゅうって、苦しいんだ』ってね」
「カイル、そんな事思ってたんですね」
「子供ながら、変なところで気を使うでしょ?カイルは自分の立場をきちんと分かってて、その上でどう振る舞えば良いか、どうしたら、皆が哀しまないか、それを考えていて、距離を置いていたのよ。そんなある日、私がエレンちゃんに言ったこと覚えてる?」
「うん。絶対忘れないわ。だってあの言葉で私は救われたんだから」
「大袈裟よ。けど、それからエレンちゃんは良く笑うようになって、カイルは自分が元気付けようとしたのに私に先越されたもんだから意地になっちゃって。初めて孤児院に足を踏み入れたのは
エレンちゃんに一言言いたかったからよ」
「え、まさか、それがあの暴言ですか?」
「まぁ、実際の意味は“泣いてばかりで可愛くないよ”ってことなんだけどね。あの子なりの励ましの言葉を言ったつもりが、喧嘩するんだもん。可笑しくて笑っちゃったわ」
「あれを励ましだと思えないんですけど」
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