第30話 光の中の翠
暗くなった空に稲光が見え、不気味な音が聞こえたと思ったら天を引き裂くような雨が降り始めた。雨音に驚いた梅が窓のほうに目をやると、それとは別の異様な気配を感じた。
「…誰?誰かいるの?」
声がかき消されるほどの雨音の中、梅が辺りを見渡してもいつもの部屋に眠ったままの翠がいるだけだった。
「気のせい…?」
不穏な空気に梅は怖くなって、咄嗟に眠っている翠の手を掴んだ。
「熱っ!」
翠の手がありえないほど熱くて、反射的に梅が手を離すと翠の体がスーと浮かび上がった。
「えっ…」
うるさかったはずの雨音が聞こえなくなり、白く眩しい光が翠を包んでいた。
「な、何が起こっているの!?」
浮かび上がった翠の体が座っている梅の頭上を越えた時、部屋に月が入ってきた。
「…かか様これは何が」
「わからないの。翠の体が急に浮かんで…お願い月、翠を助けて」
座ったまま動けないでいる梅を部屋の隅に移動させると月は翠の体を下に降ろすために翠へと近づいた。
「…翠、今助けるから」
月は光の中で浮かんでいる翠の背中にゆっくりと手をいれると翠の体をぐっと抱えこんだ。その瞬間光が消え、浮かんでいる翠の体の重みが月の手にかかった。
「うっ…」
「…月?」
目を開けた翠がおぼろげな表情で名前を呼んだ。
「良かった…気がついて」
「私どうしたの?」
「気を失ってたんだ…」
「そう…月…?」
「うん?」
「誰かいなかった…?」
「えっ、ああ、かか様がずっとついててくれたけど…誰かって、かか様のことか?」
「かか様じゃなくて…」
「いや誰も…」
「…そう…」
「翠、翠大丈夫?」
翠が目覚めたことに梅も気づいて声をかける。
「…かか様。ええ大丈夫…」
「…良かった…本当に良かった」
月は布団の上に翠をそっと置くと梅が翠に駆け寄り抱きしめた。
「颯様に翠が目覚めたと伝えてきます」
「ええ」
部屋をでた月は震えている自分の両手を見つめていた。光の中の翠を抱えた時に感じた火のような熱さと光が消えた後に感じた氷のような冷たさは腕にはっきりと残っていた。計り知れない力を感じた月…だが目覚めたばかりの翠とそれを喜ぶ梅の前で言うことはできなかった。
「もしかして力が…」
月はこのことを早く伝えなければと颯のもとへ急いだ。
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