第29話 目覚めぬ翠
使用人部屋は元々鍵のない部屋で出入りも容易いのが普通だ。だが翠と月と梅の部屋は大然の計らいで鍵のかかる少し大きめの部屋だった。ある日、朝片付けた布団が乱れていた。翠か月が仕事の合間に昼寝でもしたのかと気にもとめなかったがその翌日今度は箪笥の引き出しが少し空いていた。二人を呼んで注意すると二人とも何もしていないと言う。犯人がわからないまま、時折感じる異変は些細なことがほとんどで問題にさえできなかった。梅が一人で住んでいる時には起こらなかった異変、翠と月に関係しているのだと理解するのに時間は掛からなかった。それから梅は部屋にいる時、翠や月に気取られないように気を張ることが増えた。
「かかさま、すいのせなかの…」
「つき、それをくちにしてはなりません」
翠の体にいつからか現れた赤い痣のことを梅は無意識に隠さなければと思っていた。一緒に住むようになって赤い痣に気づいた頃から異変が始まったように思う。月にももちろん翠にも痣のことは絶対に秘密と言ってあった。痣の場所が背中なこともあって、今まで誰にも気づかれてないと思っている。あの痣にどんな意味があるのかわからないけれど、翠の未来が幸せであることが梅には大事だった。
「かか様、私いつになったら力が現れるの?」
月に力が現れてから、翠は自分の力が現れないことを気にしていた。双子なら力も同じに出るはずなのに翠にはその気配すらなかった。「男と女で差があるのかもね」
気休めにもならない慰めしか思いつかなかったが実際男と女では力が現れるのに差があることが多かった。しかも両親の力がそれぞれ違うとどちらの力が現れるかははっきりわからないこともあって時期は読めないことが多いのも事実だった。翠が自分の力を気にし始めた頃から背中の赤い痣は色が濃くなっていった。
「翠、力なんていらないから…どうか目を覚まして」
戻ってきた翠の傍らで梅は必死に祈った。気を失ったというがただただ眠っているように見える。
「灯子様どうか翠を助けてください」
藁にも縋るような気持ちでお願いすると、急に外の天気が土砂降りにかわった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます