第23話 茶室でスポーツ 二回戦目
第一回茶道部、指相撲勝負は、僕の全敗で幕を閉じた。
しかし、どうやらまだ体を動かしたい南先輩は、指相撲だけではあきたらず、腕相撲もやると言い出した。
「よし、じゃあ次は腕相撲だ」
「おー!」
そういうことは茶道部以外でやってもらいたいのだけど。
「春山は最後な。先に負けられたら、すぐ終わっちまうからな」
まるで僕が指相撲だけでなく、腕相撲まで全敗する前提みたいな、南先輩の言い方。
でも、腕の方は純粋に力が影響される。
指相撲のように小手先の技術や技に影響されることなく、力こそすべての世界。
ならば、男の僕が力で負けることはなかろう。
まだ勝機はある。
「最初、私やる」
「よし、やろうか」
初めに名乗り出たのが秋芳部長だった。
最初の対戦は南先輩と部長となり、二人は畳の上に向かい合いながらうつ伏せになる。
両者、顔を向けあい肘を立て、右手を握る。
二人の右手の力の入れように、お互いの意気込みを感じる。
のだが……
しかし、その……
あまりにも奇妙な光景が、僕の前には広がっていた。
女の子が和室でうつ伏せになり、腕相撲をする。
しかも……
スカートが重力に従って垂れ下がるもんだから、お尻にぴったりと張り付き、肉付きの良いヒップラインがあらわになっているのだ。
まるで緩やかな丘のような形状……
そしてその短いスカートの裾から、白く柔らかそうな太ももが姿を現し、ふくらはぎから白いソックスを履いたつま先が、真っすぐに伸びている。
そして上半身は海老反りのように反らすもんだから、胸にある2つの膨らみが、これまた重量によって下へと引っ張られている
……非常に悩ましい姿だ。
二人はこの状態を理解しているのだろうか?
見ている僕の方が恥ずかしくて、目をそらしてしまうくらいだ。
そうこうしているうちに、僕の心配をよそに、
「よーい、はじめ」
の合図とともに勝負が開始された。
が、ものの数秒で決着がついた。
立ち上がってガッツポーズする南先輩に、うつ伏せのまま顔を埋める部長。
まあ、そうなるなと思ってました。
この勝負だと、部長が負けるでしょうね。
そして次は南先輩と深谷先輩。
さて、この勝負はどうなるだろう?
両者うつ伏せになり向かい合う。
しかし…… うつ伏せになった深谷先輩の……
その…… 胸の存在感が大きくて、何もしなくても上半身が上に反り返ってしまっている。
枕一つ分を胸に敷いて寝ているようなもんだ。
まるで相手に大きなふくらみ二つを見せつけているかのようだ。
そんな状態で息するのにも苦しそうだが、大丈夫なのだろうか?
黙って見てると、勝負が始まる。
意外とお互いの力は拮抗している。
深谷先輩って、もしかして力、すごいの?
でも、じょじょに深谷先輩が押されていき……
そして右手の甲が畳につく。
「南さんの勝ちー」
たぶん身体的能力は、この部では南先輩が一番なのだろう。
きっと体力勝負なら、なにをさせても勝ってしまうに違いない。
さあ、今度は深谷先輩と部長。
二人は手を握り、向かい合う。
日頃、一緒にいるこの二人は、どっちが強いのか?
「よーい、はじめ」
……
…………
開始して数十秒経つが、握り合った手が中間の位置から全然傾かない。
部長はかなり力んでいるようだが、深谷先輩は涼しい顔をしている。
手加減しているのか? それとも……?
きっと深谷先輩は思うところがあるのだろう。
でも、じょじょに勝負がつこうとしていた。部長の手が少しずつ押されてきたのだ。
どうやら深谷先輩は、色々な葛藤を経て勝利する道を選んだようだ。
そしてゆっくりと部長の右手は畳に接触した。
「深谷さんの勝ちー」
今のところ、目の前で悔しがっている部長が二敗。
僕はとりあえず一人でもいいので、勝てばビリではなくなるわけだ。
悪いけど、今回ばかりは勝たせてもらいます。
「じゃあ、うちと春山だな」
「お願いします」
僕はうつ伏せになり、南先輩と手を握る。
まさか、こんなかたちで女の子と手を握るとは……
しかも、顔を向き合って。
できれば、もっとロマンチックなシチュエーションで女の子と手を結びたかった。
そして、「はじめ」の合図で勝負が始まる。
ウッ… すごい力なんですけど…
え? もしかして負けるの?
手加減もしてない、僕の全力が意図も簡単に押し返されていく。
右手は少しずつ押されていき、最終的には畳に押し付けられた。
「南さんの勝ちー」
「その程度かよ、春山!」
あれ?
もしかして僕って、力も体力もない貧弱な男だったの?
今まで自覚してなかっただけで、最弱なカッコ悪い男だったの?
「春山くん、次はみーちゃんとだよ。がんばって」
「は、はい」
なんか、自信なくなってきた……
僕はうつ伏せになり深谷先輩と右手を握ろうとする。
しかし、どうしても胸に目がいってしまう。なんとかならないものだろうか。
相変わらず不機嫌そうな深谷先輩の手を握る、のだが?
いつの間にか深谷先輩の右手には、使い捨て用の薄い白ゴム手袋がつけられていた。
……そんなに、僕の手を触りたくないんですか?
しかも、僕のこと、すごく睨んでるので、直視できない。
まあ、いいですよ。勝てば問題ない。
「よーい、はじめ!」
クッ…… ?
ちょっ、ちょっと、待って!
すごい力!
腕じゃなくて、握力!
握る力が……
痛たたたたっー !!
痛いですってば!
右手が潰される……
指が、粉々になる……
「深谷さんの勝ち」
僕は右手を救うために、勝負を諦めた。
これは、しょうがないよ……
こんな勝負で右手を失いたくない。
さっきの指相撲といい、深谷先輩の握力は恐ろしい。
あんまり深谷先輩、怒らせないようにしよう。
「春山くん、最後は私とだよ」
「よろしくお願いします」
これは絶対に負けられない。
お互い2敗同士。負けた方がビリ決定。
今まで勝負の勝ち負けとかにはこだわったことがなかった僕だが、今回だけは勝ちたい。
というより、負けて罰ゲームするのが嫌だ。
僕は部長と向かい合い、手を握る。
いつも部長は、僕のことを惑わしてくるが、今回ばかりは完全無視。
どんなにきれいな顔を僕に向けようが、ちっちゃくて可愛い手を握ろうが、関係ない。
この勝負、全力で挑む!
「よーい、はじめ!」
僕は右手右腕に全力を注ぎ込む。
抵抗してくる部長の力は弱い。
いける! 勝てる!
思った通り、部長は普通の女の子の力しかない。
がんばって力を込めてるのは分かるが、やはりそこは女の子。
かわいそうだか、勝負の世界に男女はない。
勝たせてもらいますよ、部長。
僕はゆっくりと抗う部長の手を押していく。
そして、僕は容赦なく部長の右手を畳の上にのせた。
「よーし、勝ったー!」
思わず飛び上がって叫んでしまった。
あぁ、嬉しい!
勝つということが、こんなにも気持ちいいものだったとは……
負け続きの僕の人生、ようやく一つ勝つことができた!
しかも相手が、いつも僕をからかってくる部長なのだから、この喜びはなおのこと!!
「春山…… なに女の子相手に本気出してるんだよ」
え? 南先輩……?
「あなた、最低ね」
えぇ? 深谷先輩……?
なぜか非難される僕。
そして部長の方へと目をやると……
部長はうずくまったまま、左手で右手首を押さえていた。
え? なにが起きたの?
「あ、あの部長?」
「いたぃよぉー」
弱々しい声でうめいている。
「だ、大丈夫ですか?」
「……手首、折れた」
え? うそ……でしょ?
「春山! お前なにしてんだよ!」
ええー!
「あなた、本当に最低ね」
ええぇー!!
「ちょ、ちょっと待ってください!」
嘘でしょ。そんな感覚なかったし。
手首を折るほどの力、僕にはないし……
「部長? 折れてなんかないですよね? 大丈夫ですよね」
部長は顔を伏せたま、首を横に振る。
「もう、お嫁にいけない」
何言ってるんてすか! 部長!
「責任とれよ、春山!」
「介助しなさいよ」
ホームだと思っていた茶道部は、実はアウェイだった。
先輩たちは全て敵だった。
勝負は始める前から負けていたのだ。
「ちょっと、やりすぎたかもしれませんが、折れてなんかいないですよね?」
「もう、痛くてお茶碗持てない。お茶飲めない」
「すみません」
「春山くんが口移しで飲ませてくれないと無理」
……これ、絶対、嘘だ。
ほんと、こんな茶番、いらないんですよ。
部長ー!
「なんとかしろよ、春山!」
「ちゃんと、面倒見なさいよね」
あー もう……
まだ続くの? この展開……
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