第14話 写真とともに

 秋芳部長らと別れた後、僕は家に着くなり真っ先に本棚を調べた。

 中学の時の卒業アルバムは、確かこの辺だったと……


 部長が言っていた、僕の昔の写真、の存在が気になって無性に確認してみたくなったのだ。


 しばらくして、新品同様のずっしりとした重さのある卒業アルバムを発掘した。

 小学校と中学校と、それぞれ出てきた。

 過去を振り返るように1ページづつ丁寧にめくっていく。

 そうして昔の自分を振り返るも、あまり写真が残っていない。

 集合写真と個人の写真。

 それくらいしかない。


 自分の今までの人生って、なんて薄っぺらかったんだろう。

 卒業アルバムの方が、よっぽど重くて厚みがある。


 そう考えるとなんだか、さみしい気持ちに陥る。

 生きた証というか、存在していた証明がないというか。

 一生に一度の大切な時期の、学生時代に、思い出も写真も、なんにも残ってはいないとは……


 もっと、子どものころの写真は?

 小学生以前の頃のはないのだろうか?

 他の人にどうやって僕のことを説明すればいいんだ。


 部長に聞かれたらどうする? 

 どんな子どもだったのか?

 小さいころ、なにしてたのか?

 

 ……何にも答えられない。


 情けないなぁー 僕って人間は……



 一人テンション下がり、落ち込む。

 そんな時、スマホが鳴った。

 

 ピロン


 どうやら部長のメールのようだ。


 ピロン


 また来た。



 ピロンピロンピロンピロン……



 どんだけ送るんてすか? 部長?


 確認してみると、結構な数の写真が送られてきていた。


『おつかれさま 今日の動画だよ』


 明らかに今日のだけではない量が受信されている。

 それを一つ一つ確認していく。


 この動画と写真は、今日のやつね。

 あー これは、さっきの帰りの時の写真。


 これは?

 どこかの店の中で、僕がコーヒー飲んでる。

 この前、買い物行った時の? 喫茶店?


 これは……いつのだ?

 和室で、みんながいて……

 あっ、これ濃茶飲んだ時の動画? 

 このアングルだと……遠野先輩が撮っていたのか!

 なんか裏でスマホいじりながら、こそこそしていたかと思えば! 

 僕が困ってるところ、バッチリ映り込んでる!


 ……知らないうちに、どんだけ盗撮してたんだよ。


 しかし、まあ……

 これだけ自分中心の写真とか動画があると、まるでその世界だと、僕が主人公のような気がしてくる。

 まあ当然といえば当然だろう。

 僕のことを撮っているのだから。


 でもなんか、ちょっと気持ちが落ち着いた。

 入学して間もないけど、ちゃんと僕が学校で活動しているという証が、思い出が残っていたのだから。


 しかし……

 ……正直、僕自身の写真より、部長の写真一枚が欲しいかな。


 僕より主人公してるのは、部長の方だし。

 きれいだしで、かわいいし、映えるし。


 あっ、そういえば帰りに撮った写真。部長に送らないと。


『おつかれさまです 今日もありがとうございました』っと。



 ピロン


 ん? また部長から?

 今度はなに?


 見ると、一つの動画が。

 ……黄色いクマのぬいぐるみ? が正面に写っている。

 

 この動画はいったい…… このぬいぐるみには、見覚えがない。

 

 とりあえず僕は再生してみる。


『お茶のいただき方です。お客さん役はクマちゃんです。先ずは他のお客様にご挨拶。お先に……』


 ムービーとともに部長の可愛らしい声が流れる。


 これは……

 部長がこのぬいぐるみを動かしながら、お茶の飲み方を説明してくれているのだ。


『次に亭主にご挨拶。お点前頂戴いたします。次にお茶碗をもって……』


 そのぬいぐるみの動作があまりにも可愛くて、またそれを部長がやっているかと思うと面白くて、つい顔が緩んでしまう。


 これ、いつ撮ったのだろう? 

 僕のために?

 作法の流れを分かりやすく説明するために、わざわざ作ってくれたのだろうか?


 僕はすぐに返信する。

『可愛いお客さんですね。今度、僕のお点前に招待したいです』

 

 ピロン


 そしてすぐさま部長からの返信。


『お点前頂戴いたします!』


 の文とともに、クマさんのアップの写真が。



 部長……


 僕はベットの上に転がり、送られてきた写真を、また一つずつ見ていく。


 一期一会か……

 

 あの正座して足が痺れた日も、

 濃茶を飲んだ時も、

 子どもの日とかいう変な日も、

 二度と戻ってこない思い出となった貴重な日々。

 

 でも写真となっていれば、いつまでも手元にあり続けてくれる。

 こうやって振り返ることも、他の人と共有することもできる。


 なるほど……ねぇ。


 その時その場に、僕が存在していたという事実がこんなにも。

 僕は嬉しくも、むずかゆい感覚になり、

 そのまま布団の中に、潜り込んでしまったのだった。

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