第19話 蝿の王

ドオオオン!


破壊され、粉々になるような激しい物音が真夜中の静まった空に響く。


「究極魔術、一千光」


エルマの放つ光が目にも止まらぬ速さで辺りを駆けているユミーの足を貫く。


ユミーは足の家からが抜け転ぶ。


「くっそ!再生!」


穴があいたユミーの足はたちまちに穴が塞ぐ。


「これで決めるとしよう。究極魔術、ヘル」


エルマの回りに魔術の紋様が浮かび上がり、辺りを炎で包む。


「まるで地獄のようだな」


火の中からユミーがエルマを殴りかかる。

ユミーの目は睨むようにエルマを見ていた。


バン!!!


魔方陣が現れ、エルマをユミーの攻撃から守る。


「まさか、火も効かないとはな。こうなったら風か」


「本当、俺も自分がまさか耐熱性があったなんてね思ってもなかったよ」


ユミ―は自分の周りっで爆発した際に生まれた水蒸気を手で払う。


月明かりに照らされて二人は睨み合う。

視線は鋭い刃物のようにユミ―を睨む。


「ファイヤーマシンガン!!」


ユミ―の描いた曲線は魔術の紋様となり、無数の炎の弾となりエルマに向かって


バラバラに飛んでくる。


「この前に戦った時よりは少しは上達したじゃないか」


「まあ!精度は磨いてるからな」


「でも、、、」


エルマはユミ―よりも滑らかな魔術の紋様を描く。


魔術の紋様はユミ―の炎の弾が当たると、沈んでいく様に弾は魔術の紋様に吸い

込まれていく。


「でも、技術力がない。究極魔術カウンターミラー」


魔術の紋様に吸い込まれた炎の弾が、吸い込まれた数よりも、2倍近くの数でユ

ミ―に襲いかかる。


「ぐっ!!」


「カウンターミラーは吸い込んだ魔術を2倍にして返す魔術だ。ちなみに、スピ

ードも爆発威力も2倍だからな。熱で効かなくても衝撃では気絶するだろう?」


「ぐっ!!」


ユミ―は炎の弾の爆発によって後ろへと少しずつ押されていく。


何人かの人にタックルされていくかの様に、後ろへと下がっていく


「表着魔術、パワーバンク×エアピストン」


炎の弾による水蒸気から手の甲に魔術の紋様を宿し、風に包まれた拳をユミ―の

腹に向かって突き上げる。


バァン!!


ユミ―は風に吹き飛ばされ、森の中の木々を抜け、宙を舞う。


「うぉぉぉぉ!?!?」


エルマは筋力増強魔術を使い、ユミ―の頭を地面に打ち付けるべく空中へと飛

ぶ。


「死ねぇぇぇぇ!!!」


バゴォォォン!!


激しい打撃音も追い越しそうなほどの速さでユミ―は重力に沿って真っ直ぐ下へ

と落ちる。


エルマは空中で素早く瞬間移動魔術を使い、下へと降りる。


地面にはユミ―が這いつくばっていた。


「こんなもんか」


エルマは指を光らせ、すぐに魔術の紋様をてのひらに描く。


「やっぱり一番は直接殴ることだな!筋力増強魔術は一番強く殴れるから

な!!」


「くっ、ね、眠い…」


ユミ―は目を薄目にしながら立ち上がる。


「おっと!もう、あの世への階段を上っているのか?背中、押してやるよ!!」


エルマは拳に力を強く入れてユミ―に向かって殴りかかる。


拳は鋭い覇気に包まれているように力が籠っているように見えた。


「じゃあな!!」


バァン!!!


鋭い音が辺りに響く。


アールグレイ本部の周りは森に囲まれているため、木々に音が跳ね返る。


「眠いからって…肉弾戦で勝とうなんて早すぎるぜ…」


ユミ―はエルマの拳を左手で止める。


「馬鹿な…」


バァン!!!


衝突音がした後、エルマの体が真横に飛んで、木に弾かれる。


「ぐ!ぐふッ!」


エルマは少し口から血を吐き出す。


「くそっ!」


エルマは自分の指を光らせて体に魔術の紋様を描く。


「ヒーリング!」


エルマは立ってピョンピョンと跳ねる。


「ふう!全治だな」


「なかなかしぶといな」


「それじゃあこれで決めさせてもらうことにするよ。なかなかユミ―だっけ?お

前もしぶといからな」


エルマは体を上下左右に動かして体全体で魔術の紋様を描く。


「究極魔術、破者の一撃」


魔術の紋様が太陽の様に光を放つ。


「これは全てをえぐって消し去る。つまりお前の体は空間ごと消え去るわけだ。


じゃあな!!」




ぐったりとしているユミ―に向かって透明のエネルギーは放出された。


「!!!」


音もなく、それは放たれた。


ユミ―は避けようと手を広げるが、文字通り光のスピードでユミ―の体を消し去

る。

残ったのは、腕の先だけだった。


ユミ―の腕はポトッと落ちる。


「ッ!!」


エルマはガクッと片足の膝を地面につける。


エルマの顔は汗でいっぱいだった。


「ふう、ふう、ふう」


息を何回も何回も繰り返してする。


「こ、この体、、、なんで、、こんなに直ぐに疲れるんだよ、、、たった魔術を

使っただけじゃないか、、、」


エルマは安心したかのようにユミ―の腕を見る。


「バアル様の言っていたよりもずっと弱かったじゃないか。うっかり殺してしま

った。生きた状態で渡せなんて言われたが、、、」


ふう、と一つため息をつく。


「それじゃあ、帰るとしよう。ブラックベースに」


エルマはユミーの腕の先っぽを持ち、地面に魔術の紋様を描く。


「瞬間移動魔術ワー、、、」


バァン!!と激しく辺りの空間が細かく揺れる。


「うわ!!」


エルマの持っていたユミ―の腕から波動の様なものが発される。


「な!なんだ!?」


ユミ―の腕の切りはしから緑の液体のようなものが溢れ出す。


緑の液体はどんどんと溢れ、ユミ―の肉体を形作っていく。


「ん!!!んな!?!?!?!?」


「はぁーー。こんなことになったのはいつぶりだろうか」


「な、なんで今の状態から復活できるんだよ!?!?核が無くなったら生物は死

ぬはず!!!」


「はは、なぜだろうかね?」


「それに別人の様に口調も変わっている、ど、どうしてだ???」


「それは、私が君と同じような部類にいるからじゃないか?」


「ま、まさかお前も!!!」


「でも、君は殺さないと。私は君のような奴等を全員処すと決めたんだ」


ユミ―は一瞬でエルマの後ろに回る。


「死ね」


ユミ―はエルマよりも早い指でエルマよりも先にエルマよりも細かい魔術の紋様

を描き出す。


だが魔術は発射されることはなかった。


エルマはピタッとからだの動きが止まる。


「な、なぜ打たない!?」


「聞きたいことがあってね」


「聞きたいこと?俺は答えないぞ??」


震えた声で力強く答える。


「ルシファーは何処に居る?」


「答えないって言っただろ!!!!」


「そうか、残念だ」


エルマは止まった体を動かす。


「それに俺はこの体を操っている悪魔に過ぎない!!悪魔は誰にも倒せない!!

例えそれが精霊の力だとしても!!」


悪魔とは、人間の悪意から生まれる感情でできた生命体。


肉は無く、死体に宿ることによって物理干渉が出来るようになる。


死体が消滅しても悪魔は基本的に死なない。 


一つの例外を除いて____


「聖なる魔術」


ユミ―の放った火の弾がエルマの体を包む。


「ぐああああああ!!!」


「魔術とは精霊の集まりのようなものを具現化したようなもの。だがそれでも悪

魔は死なない。魔術を使ったとしてもせいぜい死体から追い出す程度」


エルマの体から黒いものが真上に浮き出る。


まるで黒い魂が抜けたようだった。


「ぐ!!!ぜってぇぇぇに!!殺してやるぅぅう!!!!」


その黒い魂は悪魔の本体。悪魔の本体からは声が聞こえた。


「それはこちらの台詞だ」


「んな!?!?」


ユミ―は右手に紫色の光を纏わせて悪魔の本体を殴る。


悪魔に物理干渉は効くことはないし、悪魔はどんなことがあっても死ぬことはな

い。


一つの例外を抜いて。


その一つの例外、それがユミ―の存在だ。


「い!嫌な予感がする…」


悪魔の本体はユミ―の紫の光を纏ったユミ―の拳によって悪魔の本体が粉々に散

る。


「弱い悪魔でしたね」


ユミ―は少し足元がぐらつく。


「ぬ…少し眠くなってきましたね」


ユミ―は薄目になったあと、地面に横倒れる。


ぐーぐと寝息を漏らしながら、月の下、ユミ―は眠る。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


???



コツン、コツンと足音が大空間に響く。


そこは長い廊下の様で横には柱が並び、柱には暗い空間を照すための蝋燭が光っ

ていた。


コツン、コツン。

紫のローブがひらりと舞う。


「帰ったのか」


大空間に響くように奥から声がする。


「はい。どうやら、パイモンは殺されたようです」


「そうか。」


コツンコツンと声が響く方に歩を進める。


遂に壁が見える。


「あともう少しの進歩でございます。この呪いは不完全ですのであと数ヶ月後には

解呪が完了されるかと思います。バアル・ベルゼブブ様」


壁には黒い十字架にかけられ、青く鈍く光る鎖に縛られた蝿の怪物がいた。


「グシオンよ。これからの未来は分かるだろう?」


「もちろんでございます。私グシオンは過去、現在、未来を知ることができるので

すから」


「では、我のこれからの未来はどうなる?」


紫のローブと片膝を床につけてグシオンはしばらく黙り答える。


「それはお答えできません」


「なぜだ?」


グシオンは黙る。


「なぜだと聞いているだろおおおお!!!!」


辺りにベルゼブブの声が広がり、部屋が揺れる。


「それは、ベルゼブブ様が期待されるような答えが出来ないからです。でも、これ

だけは分かります。ユミ―は必ず、死にます」


「そうか。ユミ―か…腑抜けた名だ。まだ、デザイアの方が良かったな」


「デザイア?」


「昔の話だ。気にすることはない。下がれ」


「は!」


グシオンは紫のローブに包まれて何処かに消えてしまった。


「デザイア様…」


蝋燭の炎が揺れ、ベルゼブブの廊下は静けさを取り戻した。

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