斎藤元彦・兵庫県知事の不死鳥当選に思うこと

たけや屋

斎藤元彦・兵庫県知事の不死鳥当選に思うこと——世間に潜む本当の意味での権力者とは

 いち地方の知事選にしては恐ろしいほど全国区で報道されまくった今回の兵庫県知事選は、見事前知事・斎藤さいとう元彦もとひこ氏が当選を果たしました。

 全国ニュースで何度も何度も報道され、例の【百条委員会】については知っている方も多いと思うので割愛して話を進めます。


 数か月前の自分は、百条委員会で斎藤知事が大勢の人間からガン詰めされているのを見て、ふと昔を思い出したのでした。


「ああ……今この瞬間、兵庫県においての真の権力者たちはガン詰め生中継を見ながら嬉しそうに談笑してるんだろうなあ……」と。


 これは突拍子もない妄想でも陰謀論でもありません。

 自分は昔、そのような権力者たちを実際に見たことがあるから、そう思ったのです。


 ◆ ◆ ◆


 自分が昔、都内某所の会社で働いていたときの話です。(所在地や職業すら記せないのをご了承ください。少し書くだけでも、わかる人には『ああ、あの会社ね』と感づかれてしまう恐れがあるからです)


 その会社は、あるとき大きなポカというか違法行為をしていたのが発覚しました。そして社長が国会に召喚されることになったのです。

 召喚なんて言葉はゲームの中でしか聞いたことがなかった自分は『いったいどうなっちまうんだろう……』などと思いながら日々普通に仕事をしていました。


 会社の代表が国会に召喚されるということは、非常に重い意味を持ちます。

 例の【百条委員会】と同じように、決して嘘がつけないから。


 それからというもの、会社の前には多くの報道陣が押し寄せてくるようになりました。まあ、ただの若造だった自分にはインタビューが飛んでくることはなかったのですが。


 さて、ついに社長が国会に召喚されるときが訪れました。

 その日も自分は社内で普通に仕事をしていました。


 その時です。

 普段全く姿を現さない、それこそ書類上でしか存在しないんじゃないだろうかという『理事』たちがぞろぞろと仕事場に押し寄せてきたのです(後から知ったのですが、その理事たちは、某所からの天下りでした)。


 それは、仕事をするためでも、不祥事の後始末をするためでもありませんでした。

 その理事たちは、室内のさらに室内——窓のない部屋に全員入っていきました。そして、全国中継されている『当社の社長』の『尋問』の様子を見ながら、実に楽しそうにおしゃべりを始めたのです。


「やってるやってる」

「おー、頑張ってるねえ」

 などなど。罵詈雑言の類いは割愛します。その言葉の端々に見えるのは、明らかに『格下の人間への優越感と侮蔑感』でした。

(このときに聞いた無慈悲な言葉の一部は、拙作『東京の将軍と魔界の秘宝』第3話の作中でそのまんま使っています)


 例の百条委員会も容赦のないガン詰めで有名でしたが、国会にお呼ばれした社長もなかなかキツい思いをしたのだと思います。

 場所こそ国会ですから例の百条委員会ほど乱暴な言葉は出てこなかったものの(自分はその様子を帰宅後のニュースで見た)、決して嘘をつけない空間であるのは国会も同じ。

 しかも政治家たちの背後には、膨大な数の官僚たち控えています。官僚とは行政文章の専門家です。一分の隙も無い質問書を作るのが大得意です。


 つまり社長にとっては、引っかけ問題や誘導尋問に等しい言葉を常に浴びせられ、それへの答えをちょっとでも間違えると身の破滅が待っているのです(いわゆるスケープゴートとして『責任を取らされる』というやつです)。


 そのときの社長の心境たるや、まるでヤクザの事務所に引っ立てられたごとくだったのではないでしょうか。


 会社のトップである社長がそのような場所で全国レベルのさらし者状態。であるにもかかわらず、正体不明の『理事』たちは何の責任も取ることなく、それを見ながら楽しそうにあざ笑っている。


 当時の自分にとっては非常に困惑する状況でした。


「会社の社長って、この会社で一番偉いんじゃなかったの?」と。

 一番偉い人間が、なぜよく知らない『理事』たちから馬鹿にされ、わらわれているのだろうと。


 しかし年を重ねた今なら痛いほど理解できます。

 日本の組織において『本当の意味での権力者』とは、決して表に出てこず、目立たず、社会の隙間に潜み、ただひたすらおいしい汁をすすり続ける生き物なのだと。

(一応ですが、創業一族以外の会社社長は、その社内においての『本当の意味での権力者』ではありません。総理大臣や都道府県知事ですら『本当の意味での権力者』ではありません)


 その社長国会召喚ニュースからしばらく経ったある日、とある『理事』が会社に孫娘を連れてきました。おまけに社員たちもぞろぞろ従えて。

 おそらくは家族を安心させるためだったのでしょう。そりゃ理事をやってる会社が連日連夜不祥事を報道されまくっているのですから無理もありません。

 理事は小さなお嬢さんを仕事場に招き入れて、

「ほーら、ここがおじいちゃんの会社だよ〜。みんな普通にお仕事してるでしょ?」

 と、実ににこやかでした。

 普通に偉いはずの社員たちは、この理事とお嬢さんを取り囲んでひたすら作り笑いをしていました。当然そのお孫さんは終始お姫さま扱い。

 まあそのような茶番の様子を背中で聞きつつ、自分は普通に仕事をしていたのですが。


 ◆ ◆ ◆


 その後、不祥事を暴かれたその会社がどうなったかは知りません。当時の社長がどうなったのかも知りません。

 ですが、天下り元の組織は今も確実に君臨していて、今も多く天下りを続けています(確認済みです)。

 本来なら一般人に分配されるべき【会社の利益】や【国の税金】は、そういう限られた人々の懐に吸い込まれていくのです。


 それが日本社会の現実。


 自分は、今回の【斎藤元彦・兵庫県知事の事案】を見たとき、ふとそんな若き日の苦い思い出を回想したのでした。


 普通、あそこまでマスコミ総動員でぶっ叩かれたら復活するのは不可能に近いでしょう。

 並の人間なら百条委員会のあとで首をってもおかしくない。


 しかし斎藤元彦氏は堂々と選挙に打って出て、見事当選し、知事に返り咲いた。


 まさに不死鳥。何とも凄まじい精神力です。


 自分は兵庫県民ではありませんが、事の是非はともかく、純粋に「すげえ!」と賞賛を送らせてもらいます。

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