第28話 墓参りと今後の懸念
俺とミライ、そしてケンはキノコ村の跡地に来ていた。
墓参りのためだ。
「こんなもんでいいか」
「そうだな。人数分あれば、いいだろう」
俺とケンが墓を拵える。
といっても墓石代わりの石を地面に埋めただけの、簡素なものだが。
そんなことで怒るような人は、キノコ村には一人もいないからな。
「もう一度、ここに来れるなんて思ってもみなかったよ」
「そうだな。………………ありがとよ。キョウマ。仇を打ってくれて」
「……どういたしまして」
「俺は、諦めちまったからな。だから、届かなかった。でもお前はミライの命を諦めなかった。だから、ここまで差が開いちまったんだろうな」
ケンはまぶしいものを見つめるような顔でこちらを見る。
「レベル2500か。とんでもねえな。今の俺なんて、歯牙にもかけねえだろうよ」
ケンの弱気な言葉に、俺は無性に腹が立った。
「気弱なこと言ってんじゃねえ。俺がここまで頑張れたのはな、ミライのためだけじゃねぇ。お前に負けたくなかったからだ。お前が『剣士』として頑張ってたから『キノコ農家』として全てを振り絞ることができたんだ」
「……そうかい」
「だから、こんなとこで終わんなよ。お前も成るんだろ。超越職に」
沈黙が流れる。
俺とケンは、一言で言えば腐れ縁だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
それでもあえて、他の関係性を当てはめるのならば。
「お前は俺のライバルなんだからよ」
「はははッ!!」
その笑い声はどこか晴れやかだった。
「何がおかしい」
「テメェを超える超越職になってやるよ!! 覚悟しとけよ」
「上等だ。楽しみにしてるよ」
ニヤリとお互いに笑うと、ミライが遠くから呼びかけてくる。
「キョウマ君! ケン君!」
「お前の恋人が呼んでるぜ」
「こ、恋人じゃねえし」
「は? ……もしかしてまだ告ってないのか?」
「いや、その、だからそんなんじゃねえし」
ケンは拳を振りかぶった。
そのまま顔面に繰り出してくる。
俺は極まったステータスと手のひらで、その拳を受け止める。
「なにすんだよ!」
「クソボケがっー!! どう考えても好きだろうがよ!! ヘタレたこと言ってんじゃねえぞ!!」
「いや、その、でもまだ告白されたわけでは、えっとその、半分は違うって言うか」
「テメエの方からしろや!! ………………もしかして、あそこまでやっておいて好きじゃないとかいうんじゃねえだろうな」
「い、今はまだ親友だから……!」
青筋を浮かべるケン。
「これ以上、ヘタレ晒すようだったら死に物狂いでぶった切るぞ」
「いや、その、ごめん。だって女子にキスされたことなんて初めてだし……。お前と違って」
「俺だってキスされたことなんてねえし、したこともねえよ!!」
「え!? あんなに女子たちに囲まれてたのに!?」
「半端な気持ちで付き合ったら申し訳ねえだろうが!! 何より俺は剣一筋なんだよ!!」
「まじかよ……」
あれだけの女子にキャッキャと囲まれていて、微塵も手を出していないとは。
とんでもない実直さだ。
いや、あるいは。
「どっちかって言うとお前の方がヘタレじゃね?」
「うるせぇぇぇぇえええ!!! このクソボケがっーーーー!!」
「ちょっと、二人とも! なに喧嘩してるの!」
「「ごめんなさい」」
ミライには子供のころから頭が上がらない俺たちなのであった。
□
「しかし、この村に再び帰ることができるとはね」
「暁博士にとっても、感慨深いですか?」
「当然さ。ここは私の第二の故郷といっても過言ではないからね」
キノコ村の跡地まで車を出してくれたのは、暁博士だった。
「しかし、キョウマ君。ここから先、君は大変な騒動に巻き込まれるぞ」
「……はい。理解しています」
大国滅亡級というネームドの中でも最高クラスの敵を倒したのだ。
しかもそれが世界中に認識されてしまっている。
一体どんな騒動が待ち受けているのか。
キョウマであっても想像が及ばないほどだった。
「何があっても君自身は大丈夫だと思うけれどね。周囲の人間が心配だ」
「と、言いますと?」
「国家という物は自らの安全保障のためならば、一切手段を選ばない。本人の前で話すようなことでもないかもしれないが、ミライちゃんが狙われる可能性も考えたほうがいい」
「もしそんなことが起きたら、俺は自分に歯止めをかける自信がないですよ」
「無論私や三笠社長は、この国の上層部に働きかけて、色々と対策を練ってもらうようにしているが、それでも十分ではないだろう。君自身も十分に注意したまえ」
「了解しました」
不安を感じたのか、ミライが俺の手を握ってくる。
柔らかい。じわじわとその手のひらから、幸福感と熱が伝わってくる。
果たして俺は気を引き締めることができるだろうか。
「ま、そんときゃ俺を頼れ。俺も未来の超越職だからな」
「期待しとくよ」
「なんか、二人とも仲良くなったね」
「そうかぁ?」
「単なる腐れ縁だよ」
ニコニコとしているミライ。
嬉しそうだ。
「ま、戦力よりも心配なのは、ハニートラップだね」
暁博士がそう言った。
「え? ハニートラップ?」
「そうだぞ。君を下手に怒らせれば、世界が滅ぶ。そうなったら国防とか言ってる場合じゃない。となると取る手段は、強引なモノより穏便なモノにせざるを得ない」
「そ、それがハニートラップですか?」
「ああ。君は思春期の男子だからな。プロの手練手管に耐えられるかどうか」
「キョウマ君」
「何でしょうか」
何かミライが、怖い。
冷気を発しているかのようだ。
「ハニートラップになんか引っかかったりしないよね?」
「もちろんです!!」
これ、ハニトラに引っかかったら間接的に命の危機なんじゃないか?
□
「頼まれてくれるかな?」
「総理の頼みとあらば」
スーツを着た初老の男に頭を下げるのは、一人の少女だ。
美しい少女だった。
腰まで伸ばした艶やかな黒い髪。宝石めいた黒い瞳。
百人のうち百人が美少女だと思うような容姿だった。
初老の男の名前は、丸岡ヨウスケ。
少女の名前は、幽玄坂ヒバリ。
「この時代は、個人の保有する武力が、国の行く末どころか世界の存亡をも左右する時代だ」
総理は語る。
単独で一国の軍隊をも上回る武力を保有吸うこともある、超越職。
あるいはそれすらも凌駕する『ネームド』。
全人類の上位0.1パーセントが世界の命運を左右する時代。
そんな酷烈な時代においてなお、総理の座を獲得した男は言う。
「特にこの度『万病の覇王』というジョブに就いた、恐神キョウマ君に関していえば、彼がタクトを振ればそのまま人類は滅亡しかねないほどの潜在的脅威となっている」
「そんな彼をどうにかして、この国の制御下に置くのが今回の私の目的ですね?」
「そうだ。……はっきり言おう。どんな手段を使っても構わない。何としてでも彼を篭絡してきてくれ」
「承知いたしました。総理。私の持ちうるすべてでかの御方を手に入れて見せますわ」
「この国の制御下に置くということ自体が、彼自身の命を守ることにもつながる。浮いた駒だとみなされれば、ありとあらゆる国が彼の獲得に死力を尽くすだろうからね」
「
「ああ。そしてその全てが彼を穏便な方法で従えようと考えているわけではないはずだ。国によっては、抹殺も視野に入れているはずだ」
「由々しき事態ですね」
「だからこそ、君の、『剣姫』の力が必要なんだ」
齢10にして超越職に至った、史上屈指の天才を前に総理は頭を下げた。
「どうか、この国の未来のために。よろしく頼む」
「かしこまりました」
そうして一人の少女が、この国のために動き出した。
そんな彼女が少年に会うことによってどうなるのか。
ソレはまだ誰も知る由もなかった。
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