第19話 世界の危機
苦難に瀕しているのは、ハママツ市だけではなかった。
世界各地で、四百四病の王の影響下のモンスターが暴れていた。
四百四病の王の本体はすでに死んでいる。
だか、その言葉は『本質』を捉えているわけではない。
あくまで表面的な話をすれば、世界中に四百四病の王の眷属がいるのだ。
キョウマが相手取っているコウモリは、一番本体に近しい。しかし個体としての戦闘能力は、かつての本体とは雲泥の差である。
それでも、眷属たちが一斉に蜂起したらどうなるか。
答えはシンプル、世界の危機だった。
□
合衆国。
ロサンゼルス。
各国には、その土地特有のジョブがある。
ニホンならば、『侍』や『忍者』のように。
ではアメリカでは何だろうか。
アメリカのソレは彼らの国民性に根差したモノである。
即ち、『
積み上げた善行によって、そのレベルを上げていく彼らは個々に異なる能力を持つ。
他のジョブのスキルを強化し、進化させるという形をとる彼ら。
ソレによって、この合衆国は先進国の中でも屈指の安全性を誇っていた。
しかしそれも今は崩れている。
四百四病の王が蔓延させた、ゾンビ病によって。
「殺せ! すでに手遅れだ! あれは死体が歩いているだけだ!」
「しかし、あれは一般市民ですよ!?」
「俺たちの背後にいるのも守るべき一般市民だ!! 今ここで、引き金を引かねばならんのだ!!」
アメリカの警官は全てジョブ『英傑』を備えている。
同時に『銃士』系統も。
故にその銃弾は容易く相手を貫くだろう。
たとえそれが病に侵された元一般人だったとしても。
「ちくしょう! 俺たちは曲がりなりにも『英傑』だぞ!! 何故市民相手に引き金を引かなきゃならねぇ!!」
多くのヒーローが戦っていた。
合衆国の各地で。
自らの力を市民に向けていた。
守るべき彼らに。
「ちくしょう!! 『超英傑』は何をやっているんだ!? あの人が四百四病の王を仕留めたんじゃなかったのかよ!!」
「不死身なんじゃないか……? 四百四病の王は」
「縁起でもねえこと言わないでくれ……! もしそうだとしたら、俺たちはどうすればいいんだ……?」
彼らは目の前を見る。
「うぁ……」
「ヴァ……」
うめき声を上げながら、こちらに迫り来るのは無数のゾンビと化した人間たちだ。
彼らは銃弾で撃たれた程度では止まらない。
脳髄を完膚なきまでに破壊しても、手足は動き続ける。
故に肉体を丸ごと消し飛ばすしかなかった。
「……ああ、神よ」
「一体どうしてこんなひどいことができるんだ……」
死者たちは闊歩する。
四百四病の王に囚われた彼らは、いつになったら解放されるのだろうか。
□
連合王国。
ロンドン。
彼らの、というより陽神教の影響下にある地域の固有ジョブは、『聖騎士』だった。
戦闘能力と治癒能力を兼ね備えた、全ジョブの中でも屈指のタフネスを誇る系統だった。
そんな彼らを襲った災厄はモンスターたちだった。
いくつかの病原体とソレの生成する毒素によって、モンスターたちが大量発生し、その上で凶暴化・強化されてしまったのだ。
「押し返せ!!」
「ここを通せば避難民に被害が出るぞ!!」
「命を懸けろ!! 陽の神の名の下に!!」
「陽の神の名の下に!!」
雲霞の如くだった。
地上を埋め尽くすようなモンスターたち。
その全ての目が充血していた。
聖騎士たちはその魔力が尽きるまで戦い続ける。
その背中の向こう側には民衆たちが要るからだ。
「『正輝士』様たちが、こいつらのボスを討伐しに行ってくれている!! それまで何としても持たせるんだ!!」
叫ぶ聖騎士たちの隊長格。
「それが終われば、勝てるんですか?」
「……ああ!」
隊長格は思う。
自分は嘘を言った。
この群れのモンスターを全て倒したとしても、次の種族のモンスターの群れが襲い掛かるだけだ。
侵攻は絶え間ない。
敵はまるで尽きることのないようだ。
しかしこちらは既に疲弊している。
聖騎士たちは交代制にして、休息をするグループと戦うグループで分かたれている。
しかし、その体制も一体いつまで持つのだろうか。
凶暴化し、強化されたモンスターは普段よりも数段は手ごわい。
少しずつ聖騎士たちは消耗していっている。
終わりの見えない戦いを、彼らはひしひしと感じていた。
まるで暗闇の中を歩き続けているかのように。
□
「お前たち! ここが命の懸け時だ! 死に物狂いで魔力を振り絞れ!」
中国。
北京。
ここを襲ったのはシンプルな死病だった。
致死率40パーセント超。
低レベルの子供たちや一般市民を襲うその病は、瞬く間に広がり人々を殺していった。
他の国ならば医療崩壊をして、とっくに暴動が起きていただろう。
しかしこの国はそうなっていない。
なぜならこの国特有のジョブに『道士』という物があるからだ。
『道士』とは、超越職『仙人』に至るために修行を積む者たちだ。
中国は国策として、『仙人』を増やすために『道士』への適性を持つ者を育て上げてきた。
そうした努力が実って、『治癒魔術』に長けた道士たちによってぎりぎりのところで医療体制が崩壊していなかった。
「『仙人』たちが今、死に物狂いで『仙薬』の量産体制を整えていらっしゃる。それまで持ちこたえるんだ」
「はい!」
道士の一人、最も仙人に近い女がそう叫ぶ。
だがその女の胸中にあるのは、諦観だった。
彼女は知っている。
仙薬の量産体制の確立の難しさを。
そしてそれ故に。
仙薬の独占がこの国の上層部で行われているということを。
市民に仙薬が回ってくることなどありはしないだろう。
仙人のうち大半は、世俗に見切りをつけた者たちだ。
そんな彼らが全力を出せば、この国を半壊させることができる。
しかしこの国を変えるには至らなかった。
死病の嵐が吹き荒れる。
ソレを癒す薬は、国の上層部と、ソレに近しい富裕層にのみ配られるだろう。
この国を侵す真の病は、きっとその差なのだ。
(『神仙』様が動いてくだされば……)
ないものねだりをするしかない女。
彼女は憎かった。
この国を蝕む二つの病が。
人を殺す死病が。
人を選ぶ差が。
何よりソレをまき散らし、顕在化させた四百四病の王という物が。
□
今まで上げたのはほんの一例でしかない。
今も世界中の人々は苦しんでいる。
そしてその誰もが願っている。
そんな自分たちを助けてくれる、救世主を。
そんな人間、いるはずもないのに。
果たして。
本当にそうだろうか。
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