第24話 侵攻する疫病

『超越職『万病の覇王』を獲得しました』

『スキル『万病の瘴気』『進化操作:微生物』『微生物強化:極』『病毒反転』を獲得しました』

『スキル『疫病調伏』『生命創造:微生物』が強化されました』


 俺は超越職に就いた。

 これでより、確実に敵を殲滅することができるだろう。

 

 俺は今、ハママツ市奪還に向けて、新たな微生物の作成に取り掛かっていた。

 先の戦いで使ったゴブリン殺しを使えばいいと思うかもしれないが、あれは即効性に強くリソースを割り振ったため、さほど感染性能が高くないのだ。

 厳密にいうと、致死性が高すぎて密集していないと十全に感染せず、潜伏期間が短すぎて感染が広がり切る前に敵が死んでしまうのだ。


 密集した軍隊相手なら、それでもよかったかもしれないが、今回相手どるのは街を占領したゴブリン共。

 もう少し致死性と感染性能のバランスを考えなければならない。

 

 ゴブリンにしか感染しないので、街の人たちへの被害は考えなくていいが、それでも絶妙なバランス感覚が求められるだろうと思っていた。


 しかし。

 

「『進化操作;微生物』……、ヤバすぎるな」


 そうはならなかった。

 なぜなら、超越職に就いた俺は菌の性能を、リアルタイムで変えることができるようになったからだ。


 例えば感染性能にリソースを全て傾けて、症状がほとんど出ない病気を作る。

 そうして感染が狙った範囲まで広まったところで、致死性を一気に引き上げる。

 そうすればどんな集団も、確実に殺し切ることができるだろう。


 ……それが例え人類であったとしてもだ。

 

 危険すぎるな、これは。

 なるべく秘匿していた方がいいだろう。

 だが、隠し切れるか?


 ……今回の戦いが終わってから考えるか。

 今はゴブリン退治に集中しよう。

 

 ゴブリンを殺すためにはどうすればいいだろうか。

 まず必要なのは圧倒的な感染性能だろう。

 それも敵に気づかれないように、迅速に感染させる必要がある。

 

 となると媒介者が必要か。

 四百四病の王は、先の戦いで多数の虫を操って病を蔓延させたらしい。

 俺もそれに倣うとしよう。

 

 ペストを参考にすればいいだろう。

 あれは血を吸おうとするノミの胃袋を塞いで飢餓状態にした後、半狂乱になったノミたちに血を吸わせまくるという感染形態をとる。


 俺も多数の虫やネズミなどの齧歯類を保菌者にして、ゴブリンを殺す菌をハママツ市に蔓延させよう。

 症状は咳やくしゃみなどの飛沫感染を促進する病がいいだろう。

 そうすることによって虫や齧歯類に噛まれたゴブリンたちが、感染の媒介者となるはずだ。


 人間側の軍勢の前に保菌者たちを先行させておこう。

 ハママツ市で今も囚われている人たちを助けるためには、冒険者や防衛隊員の協力が必須だ。

 

 ゴブリンを殺す菌を蔓延させたとしても他のモンスターが残っている。

 それによるハママツ市の民間人の被害を抑えるためには相応の戦力による治療や避難が不可欠。


 何より四百四病の王が残っているしな。

 あれを殺さない限り、国内の各所の都市を襲っているモンスターたちも、全世界で広がっているという四百四病の王の眷属たちの被害も、治らないだろう。


 ここで下手を打てば、人類の生存権は一歩後退する。

 この戦いは、俺とミライのためだけじゃない。

 世界の命運を賭けた戦いなのだ。

 



 □



「くっそ、最近虫が多いな」

「仕方ないさ。人間どもがこれだけ死んでるんだ。虫が多少たかるぐらいはな」

「それにしても多くねえか? 人間どもの死体は散乱状態じゃなくてしっかり捨ててるんだろう? 虫がたかってるのは、この都市全域だぞ」

「うーん、となると我らが王に聞いてみた方がいいか?」


 使女を引きずりながら、歩いていく彼ら。

 

「やめとけ。我らが王は今お楽しみに夢中だ。邪魔したらどんな目に遭うかわからん」

「子供なんか殺して何が楽しいのかね。あんなの可食部の少なくて、穴としても小さすぎるじゃないか」

「俺はちょっとわかるなぁ。ガキの悲鳴って耳に心地いいんだよ。股間には悪いけどな」

「ああ、お前短小だもんな」

「無駄にデカくて、すぐに穴を壊すお前に言われたくないっての……、げほっ」


 咳き込むゴブリン。

 ソレを見たもう一匹のゴブリンが言った。


「……なんか咳をしている奴も多いよな」

「まあ、しょうがないだろう。我らが王は病を司るんだ。咳の一つや二つぐらいするさ」

「そうかぁ? あの方、基本的に俺たちにはよっぽどのことがない限り危害をくわえないだろ」

「つっても花粉症程度の症状だろ?」

「そうなんだが、どうも気になるんだよなぁ。だって」


 ゴブリンの一匹が言った。


「虫がやってきて、俺たちに何かの症状が出ているなんて、我らが王が侵攻する手段そのモノだろう」


 それが引き金となったかのようだった。

 

「げほっ……。は?」


 咳き込んだゴブリンが、血を吐いたのは。


「何だ? どうなっている!? 王が裏切ったの!?」

「わからねぇ、けどメリットがねぇだろ!?」

「じゃあ、こ、れは……」


 次々にゴブリンの穴という穴から血が噴き出していく。

 ゴブリンたちが倒れ伏していく。

 

「誰が病を……」


 そう言って、倒れ伏した。

 

 人を殺していたゴブリンも。

 人を犯していたゴブリンも。

 人を喰らっていたゴブリンも。


 例外なく自らの血の海に沈んでいく。

 圧倒的だった。

 あまりに圧倒的な殺戮だった。


「総員!! 救出を開始しろ!!」


 冒険者と防衛隊員がなだれ込む。

 ハママツ市奪還が始まった。



 □



「ついに子供も一人もいなくなったか」


 幼稚園の送迎バスの中には、夥しい血痕が遺されていた。

 例外なく子供たちは死に絶えたのだ。

 ある者は腸を引きずり出され、ある者は手足を順番に毟り取られた。ある者は他の子供を殺すように強いられた。

 誰一人として楽には死ねなかった。

 様々な病でじっくりと、ゆっくりとなぶり殺しにされた。

 

 苦しみ、泣き叫び、この怪物を呪って死んでいった。

 父へ、母へ、助けを求めながら死んでいった。

 その怨念は未だ、この世界に残留している。

 

 この世界は魔力とモンスター、そしてジョブが出現してからアンデッド系列のモンスターも存在しているのだ。

 しかし怨念がどれだけ積み重なったとしても、四百四病の王の命に届き得ることはない。


 死者の怨念はソレを扱う者がいない限りは、無力なのだ。

 

「ふう。そろそろ狩りに向かうべきか。ゴブリンたちも女どもを使い切ってしまっただろうからな」


 そこに近づく足音があった。

 人間の足音だ。

 あるいは、死神の足音だ。

 四百四病の王をも超える覇王の君臨だ。


「何者だ? お前は」

「お前の天敵だ」


 遂にこの時がやってきた。

 恐神キョウマの悲願を果たす時が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る